第35話 新しい生活の始まり
中等部ダンジョンが消滅してから一週間経った。そして高等部の管理するダンジョンも閉鎖され、覚醒者協会から派遣されてきた覚醒者により調査が行われていた。
その調査も終りを迎え、各階層の情報が学園に報告され、学生が潜っても問題ないとなったようで週明けには高等部ダンジョンが開放されることになった。ダンジョンの情報は学生全員のμαと同期され、危険地帯や罠の位置に加え解除の仕方、その他にもボスの情報なども共有された。
週明けには高等部ダンジョンが解放されるという事で、レイネパーティーがカフェの個室に勢ぞろいしてリンネの加入とそれぞれの自己紹介をしている。
「それじゃあ、まずはリンちゃんから自己紹介を」
レイネと変わるように席から立ち上がったリンネは集まっている面々を一度見回してから、軽く頭を下げる。
「姫咲リンだ、よろしくお願いするよ。職業はユニーククラスの戦乙女だ。何ができるかなどはまだあまりわかっていないが、汎用戦闘スキルならだいたい覚えられるようだ。あとはレイネとは従姉妹の間柄になる」
少しキャラ作り気味になっているが、リンネの事情を知っているメンツ以外がいる場所ではこういうちょっと俺様風を演じている。まあ、演じていたとしても絶対そのうちバレるのだから無駄な努力とも言える。
「それじゃあ次はアズサ」
リンネが座るとレイネが次を指名する。
「風鈴アズサです、職業は弓師、です。えっと、よろしくお願いします、です」
アズサと名乗った少女の見た目は、身長はだいたい160cm. 緑色の髪は三つ編みにされており翡翠色の瞳とエルフのように尖った耳をしている。
「この耳は覚醒した時にこうなったの、です」
リンネが珍しそうに見ていたのに気がついたアズサはそう補足した。
「あっごめん、気を悪くしたのなら謝るよ」
「いえ慣れてます、気にしないでください、です」
アズサが座るのを確認してレイネはもう一人に声をかける。
「次はライチ」
「はいはーい、うちは鈴ノ宮ライチだよ。職業は陰陽師だよニンニン。よろしくねリン」
ライチの身長は155cmくらいで、垂髪にされた黒い髪は背中の中ほどまでの長さがある。
「ニンニンってそれは忍者では?」
「ナイスツッコミだよ、うちのツッコミ役の称号をあげるよ」
「それは遠慮させてもらうよ」
ライチは、にははと笑ってから座り目の前のパフェを食べるのを再開している。
「アカリとミレイは自己紹介の必要はないよね、今後はこのパーティーでやっていきます、異論はありますか? ありませんね、それじゃあ新体制で頑張っていきましょう」
「「「はーい」」」
「あっそうだった、何か良いパーティー名とかないかな?」
レイネはストロベリーパフェをひとくち食べた後に今思い出したといった感じで聞いている。
「今まではどうしていたんだ?」
「今まではチームレイネっていってたんだよね」
「……、もうそれで良いんじゃ?」
「ボクはなんでも良いよ」
「わたくしもお任せいたしますわ」
アカリはバナナチョコレートパフェを、ミレイは抹茶わらびもちパフェと食べながらなんでも良いと答える。
「わたしもおまかせしますです」
アズサはおろしわさびパフェなどというわけがわからない物を食べている。リンネは注文を聞いた時に、よくこんな物を売り出しているものだと、そしてソレを注文しているアズサに驚いた。
「うちもなんでもかまわないかな」
ライチは、フルーツミックスライチマシマシといったものを食べている。この学園のカフェはちょっとフリーダム過ぎないだろうか。
「むむむ、んーじゃあ、どうしようかな。おに、リンちゃんはなにか無いかな」
「ん? 俺か」
リンネはブラックコーヒーパフェと真っ黒なアイスの乗せられているパフェを食べながら考え始めた。
「じゃあさ、チームヴァルキュリアなんてどうだ」
リンネは目の前でぺたん座りしているカリンを見ながらなんとなく思いつきで言った。
「いいねそれ、ボクはそれに一票」
「そうですわね、悪くないと思いますわ」
アカリもカリンに目をやりながらそう答え、ミレイは察したうえで悪くないと思っている。
「なんだかかっこよくていい、です」
「うちもソレで良いと思う」
「よし、では今日から私達はのパーティー名はヴァルキュリアに決定です」
「おい、そんなに簡単でいいのかよ」
「特に反対意見も出なかったしいいでしょう、それじゃあ後で申請しておくね」
その後はパフェを食べ終わって解散となった。
「それでは、週明けの放課後に集合ね」
「「「はーい」」」
それぞれ帰路につく中、リンネとレイネは事務所に行きパーティーの加入申請やパーティー名変更などの申請をすませる。
「それじゃ帰ろっか」
「おう」
リンネとレイネは横並びに歩きながら家へと向かう。ちなみにカリンはアカリの方についていくことが多いのだが、呼べばすぐに来るので気にしなくなっている。
◆
リンネとレイネは家に帰り着き、リンネがご飯を作ろうと冷蔵庫を開け材料を見繕っていると、チャイムが鳴った。
「すまんレイネ出てくれるか?」
「はーい、誰だろ? おじさんなら勝手に入ってくるし、荷物なら宅配ボックスで済むんだけどね」
着替えを済ませてちょうどリビングにやってきていたレイネが玄関へ向かう。レイネが玄関に着くと、鍵が勝手に空いて扉が開いた。
「レイネ出迎えご苦労」
「えっと急にどうしたのアカリ? それより鍵はしまってははずだよね」
「あれ? もしかして聞いてない? 鍵はほらスペアのカードキーもらったよ」
よっこいしょと言いながら荷物を置くと、キッチンの方からリンネも玄関に出てくる。
「あっ、今日だったかすっかり忘れてた。アカリ荷物はこれだけか?」
リンネはアカリが玄関に下ろした荷物を手に取ってアカリに聞いた。
「私物は元々少ないのでこれだけです」
「お兄ちゃんどういう事?」
「それはだ──」
「それは今日からボクもここに住むことになったからだよ」
「えっ、えぇぇぇぇ!」
「叔父さんも了承済みというか、叔父さんの提案だな」
「そんなの聞いてないよ」
「すまん言い忘れていた。それじゃあアカリ部屋に案内するから付いてきてくれ」
「おじゃましまーす」
「今日から一緒に住むんだからただいまでいいぞ」
「えっと、その、ただいま」
『ただいまー』
「おかえりアカリ、カリン」
荷物を持って階段を上がっていくリンネを追いかけながらアカリは一度レイネのそばに寄り耳元で囁くように言葉を発する。
「(ぼやぼやしてると、リンネさんはボクがとっちゃうからね)」
「えっ、ちょっとアカリー」
リンネを追いかけて階段を駆け上がっていくアカリを見送る形となったレイネの表情はぐぬぬ状態である。少しして落ち着きを取り戻したレイネはリンネとアカリを追いかけるために階段へ向かおうとした所で再び玄関が開いて人が入ってきた。
「おっレイネか丁度いい荷物を運ぶの手伝ってくれ」
そう言って叔父のゲンタが玄関に荷物を並べ始める。そのゲンタの後ろからミレイが家に入ってきた。
「えっと叔父さん、もしかしてミレイも?」
「リンネに聞いてなかったか、今日からミレイはここで住んでもらうことになった」
「えっ、え、えぇぇぇぇぇーーー」
レイネの叫びが玄関に響き渡った。





