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ユニーククラス戦乙女を獲得したのはいいのだが、その影響で美少女になったようだ  作者: 三毛猫みゃー


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第31話 三位一体

 ゴブリンキングは一度取り戻した意識が再び何かに奪われそうになっている事に苛立ちを覚えていた。


 いくら抵抗しても抗えない、その前にあの倒れている獲物を喰らおうと歩みを進める。そうしていると獲物の一つが自らに向かって来るのが見えた、そのまま意思が閉ざされようとしたその時、再びゴブリンキングは傷を負った。


 ゴブリンキングは傷を負うごとに再び意識が浮上するのを感じた。最初はただ敵が来た、戦わなければという意識しかなかった。だがそれも傷を負うたびにはっきりとしていき、ついには完全に意識を取り戻すことになった。


 ゴブリンキングが意識をそして体の制御を取り戻したとき、最初に目に入ったのは胸部に脂肪が一切なく食べごたえのなさそうな女だった。それは執拗にゴブリンキングにむかい牽制をしてきた。


 それ以外にも、見たことのない魔法を使ってくる女までいた。脂肪の無い女の攻撃は大したことがないが、流石に魔法となると若干の苦痛を感じる、だがこの苦痛こそがゴブリンキングの意識を取り戻すきっかけになったかと思うと心地よくもあった。


 最初は食事をする前に腹をすかせる目的で相手をしていたのだ。空腹が最高のスパイスという概念をこのゴブリンキングは持ち合わせていた。ゴブリンキングにとってなぜここにいるのか、なぜ戦っているのか、ここがどこなのかなどといったことよりも、獲物を喰らうことの方が大切だった。


 今のゴブリンキングには、脂肪の残念な女と魔法を使う女、それ以外にも倒れ伏しているデザートも目に入っている。そのうち金色の髪をした喰いでの有りそうな肉付きのデザートもこちらに近寄り何やらし始めたが特に気にしなかった。


 目の前の獲物は弱い、ほんの少し力を加えればあっさり肉塊にすることができるのはわかっている。そのまましばらく戯れに遊んでいたがそろそろ良いだろうと咆哮をあげ少し強めに攻撃をした。


 あっさり吹き飛んでいく獲物たち、死んでしまっては旨さが半減してしまうが、まだ動いていることから生きてはいるのだろう。まずはどれから喰おうか、脂肪のない残念な獲物を前菜としようか。


 倒れ伏し必死に立ち上がろうとしている獲物へと、歩みを進めようとした所でゴブリンキングは不穏な気配を感じそちらへ向き直った。その場所は先程までデザートが倒れていた場所だったが、今は繭が一つ浮いており、その繭はゆっくりと光の粒子となり消えていくところだった。



 倒れていたリンネとアカリが起き上がる。アカリは自身の体を一通り確かめ傷がないことを確認したあとにリンネへと視線を向ける。リンネは未だにゴブリンキングと戦っているレイネとミレイを確認し、リオンがいることに疑問を感じたがそれは後でいいかと思い直しアカリへと目を向ける。


「アカリ、いいのか?」


「うん、責任はとってくれるんでしょ」


『アカリお母さんリンネお母さん、いつでも大丈夫です』


 仮想空間から現実へと意識を戻したリンネとアカリの視界にはμα(ミーア)によりカリンの姿が映し出されている。カリンの存在はリンネとアカリに仮想空間での出来事が本当に起きたことなのだと感じさせていた。


「アカリ」


「リンネさん」


 それぞれの名前を呼び見つめ合うリンネとアカリ、そして少しずつ顔を近づけていく。そして二人は瞳を閉じゆっくりと唇を触れ合わせた。そしてお互いの舌が相手を求めるように伸ばされ触れ合った時二人の体から光が溢れ出し、カリンと共に光の繭に包まれた。


 リンネとアカリの閉じられた視界にはμαによって<スキルワルキューレの完全なる発動を確認、焔乙女ほむらおとめ、ワルキューレ・カリンの誕生を祝福致します>と表示されていた。


 光の繭に包まれたリンネとアカリの体は溶け合い一つの体へと、そしてリンネ、アカリ、カリン三人の意識はその一つの体に集約される。


 繭はゆっくりと光の粒子となり消えていき、全て消えた後にはどこかアカリに似た少女が立っていた。身長は150cm程で肩口で切りそろえられた赤い髪には銀色のメッシュが一房、衣服は朱色に染められ所々に銀糸で炎の模様が描かれている貫頭衣ワンピースを着ている。


 ゆっくりと開かれた瞳の色は赤銅色をしており、その瞳には倒れ伏しているレイネやミレイやリオンの姿と、こちらを警戒するように見ているゴブリンキングの姿が映し出されていた。


「アカリお母さんとリンネお母さんの娘、焔乙女ワルキューレ・カリン、ここに顕現です!」


 今のカリンは一つの肉体に三人の意識が混在していて、まるで《《三位一体》》である。これこそがカリンが生み出された理由であり、スキルワルキューレの真価と言える。


 カリンが左手を横に振ると貫頭衣ワンピースが炎に包まれた。そして炎が消えた後には朱色に彩られたサイドスリットロングワンピースの上から、炎の意匠に象られたビキニアーマーを着た姿になっていた。


 次にカリンが右手を横に広げ手を一振りすると空間にヒビが入りそこから、持ち手の部分だけでもカリンの身長ほどの長さのある巨大なバトルアクスが出現した。


「アカリお母さん、力を借して『うんいいよ、ブレイブヒート!』」


 カリンと重なるようにアカリの声がブレイブヒートのスキルを発動させた。カリンから溢れ出た赤い光が手に持つバトルアクスに集まり赤いオーラに包まれる。そしてカリンは両手でバトルアクスを持ちゴブリンキングへと駆け出す。ゴブリンキングもカリンを強敵だと認め咆哮を上げると走り出す。


 重量のあるバトルアクスを持っているはずなのにカリンの速度はゴブリンキングを凌駕しており、一瞬のうちに接敵することになった。それでもゴブリンキングの目はその動きを捉えており、真っ先に直剣で攻撃をしてくる。


「『ステップ』」


 リンネの声がカリンの声と重なりステップを発動する。そのためゴブリンキングは攻撃を空振り体勢を崩すが、それでもカリンの移動先を予想してそこへ無理矢理体を捻り直剣を突き出した。


 だがゴブリンキングの攻撃は何もない空間に突き出されただけで終わり、次の瞬間ゴブリンキングの首が空を舞っていた。ゴブリンキングの瞳には泥へ変わり始めるみずからの体とバトルアクスを振り下ろした格好のカリンを映したのちに、その頭部ごと泥となり消えていった。



 戦いが終わると同時に、カリンの体が光に包まれ、その光が消えた場所にはカリンの姿はなくリンネとアカリが立っていた。二人の視界にはμα(ミーア)を通してカリンの姿が映っている。


『強敵かと思いましたが弱かったですね』


「いや、カリンが強すぎたんじゃないか?」


「ボクもそう思う、ブレイブヒートを使ったとはいえああもあっさりゴブリンキングの後ろから首をギロチンしちゃうんだから、それとあの意味不明なバトルアクスもね」


『後ろに回れたのはリンネお母さんのスキルと洞察力のおかげですよ』


「その話はまた今度にして、とりあえずみんなで帰ろうか」


「そうですね、ボクはミレイの方に行くのでレイネの方はお任せします」


 片手を上げることで答えたリンネは、地面に座り込んでいるレイネに近づいていく。


「レイネ無事か?」


「お兄ちゃん遅いよ、それとあれは何だったの?」


「その話は帰ってからだな、流石に俺も限界だ」


「ん、わかった……あれ? あはは、なんだか限界超えてて立てないみたい」


「仕方ないな、ほらおぶってやるから」


 リンネがレイネに背を向けて座ると、レイネは這うようにリンネの背に体を押し付け両腕を首に回す。リンネはそれを確認した後、レイネの太ももに腕を通しおぶさる。


「しっかり掴まってろよ」


「うん、ありがとうお兄ちゃん」


 そう言ってレイネは胸をリンネの背中に押し付けるが、その行為にリンネは全く気づくこともなく「当ててるんだよ」と言う作戦は失敗に終わることになる。そりゃあ無いものを押し付けても反応するわけ無いだろ、という突っ込みは無粋なのでやめてあげてほしい。それはそれとして、そんな行動をするくらいにレイネは存外余裕があるのではなかろうか。


「そう言えばダンジョンコアってどこにあるんだ? 課題にダンジョンコアに手を触れるってのが出てきて、残ってる課題はこれだけなんだけど」


 アカリに肩を貸してもらいながら合流したミレイと、ほとんど無傷で合流したリオンたちはそれを聞いてキョロキョロと辺りを見回した。その結果ゴブリンキングが泥として消えた場所に落ちているのを発見した。


「よいしょっと」


 リンネはレイネをおぶさったままなんとかダンジョンコアを回収する。その横にはダンジョンコアよりも大きい魔石が落ちており、それも拾い上げた。ダンジョンコアにふれると同時に課題が終わったようで、Congratulationの文字がポップアップして消えた。


 そしてリンネたちは、ゴブリンキングを倒すことで出現した脱出用のゲートをくぐりダンジョンを抜け出す。リンネたちの去ったボス部屋の奥にある玉座の後ろには、誰にも気づかれることのなかった宝箱が一つぽつんと残されていた。





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