第27話 隣り合わせの生と死と
「「はあーーー」」
使える強化系のスキルをありったけ使ったリンネとレイネは気合を入れるために声を出しながらゴブリンキングに向かって駆け出す。
立ち上がったゴブリンキングの見た目は、凶悪な牙を持ち赤く染まった瞳とゴブリン特有の短く尖った耳をしている。その体は身の丈3mほどの長身で、緑というよりも灰色に近い色をしており、格闘家のような筋肉の鎧で覆われており獣の皮で作られた衣服をまとっている。
玉座より立ち上がったゴブリンキングは側に突き立てられていた刃渡り180cmほどの直剣を手に取り引き抜いた。
「グゥアァァァァァ」
ゴブリンキングの咆哮が室内に響き渡る。リンネとレイネは怯みそうになるその身に気合を入れるため「「ガァァァァァァ」」と声を張り上げ無理やり体を動かし走る。
リンネ達の後ろに続くように走っていたアカリはゴブリンキングの咆哮を聞き一瞬動きを止めるが、ミレイに思いきり背中を叩かれたことにより再び走り出す。ミレイは再び走り出したアカリを目で追いながらスキルを使う。
「祝福、守護」
ミレイのスキルが発動すると、リンネ、レイネ、アカリ、ミレイの体が一瞬光る。守護のスキルは相手からの攻撃を受けた時に効果を発揮する。それは体の外側にもう一つ皮鎧をまとったくらいの効果しかない。
ゴブリンキングの攻撃を受け止められる程の強化は見込めないが、無いよりかはマシといったところだろう。これが今のミレイにとってできる精一杯となる。他にできることはリンネたちが怪我を負った時のために回復の用意をしておくくらいだろう。
ゴブリンキングの手前まで辿り着いたリンネとレイネは左右に別れ、ゴブリンキングを挟み込むようにして攻撃を繰り出した。
「「ステップ」」
「スラッシュ」
「居合一閃」
リンネはここ最近でかなりの回数使っているスラッシュを、レイネはスキルの居合一閃を使った。ゴブリンキングはリンネの攻撃は当たるに任せ、直剣を横薙ぎにレイネに向かって振るった。
レイネは直剣を避けるために無理やりスキルを解除し腰だめにしていた姿勢を更に低く下げ、直剣の下をくぐり抜ける。いっぽうリンネの攻撃はゴブリンキングの脇腹にむけ振り抜かれたが筋肉に阻まれ大したダメージを与えることは敵わなかった。
リンネの持つショートソードが鈍らなわけでもスキルが不発したわけでもない、ただゴブリンキングの肉体がリンネの攻撃を通さなかったのだ。
その結果を見てなお、更に追撃しようとしたリンネだったが、ゴブリンキングが横薙ぎに振り抜いた直剣を片手に持ち替え、空いた手でリンネを払い飛ばそうとしているのに気が付き後退する。
リンネとレイネは少し出遅れ攻撃に加われなかったアカリに合流する。ゴブリンキングはゆっくりした動きで再び直剣を構える。
「俺の攻撃が全く通らなかったし、俺を無視してアイツはレイネの方を狙ったことから、レイネの刀の攻撃ならダメージを与えられるって事か?」
「わかんないけど、多分スキルでならダメージは通ると思う、だけど決定打にはならない気がするんだよね」
「ごめん出遅れた、でもリンさんの攻撃で無理ならボクの攻撃もスキルじゃないと無理かも、でもブレイブヒートは使っちゃうと」
「それは最後の手段だな。とりあえずレイネを中心に据えて俺とアカリでアイツの気をそらすか」
そこでミレイが合流しリンネに直剣を差し出す。
「これは?」
「先程のゴブリンナイトが使っていたものですわ、そちらのショートソードよりはマシだと思いますわよ」
「ありがとうミレイ、ありがたく使わせてもらうよ」
リンネは直剣を受け取りショートソードをブレスレットの収納に入れる。何度か直剣を振り使い心地を確かめゴブリンキングへと向き直る。ゴブリンキングは先程の場所から動いておらず、ただリンネたちを見据えている。
「それにしてもなんでゴブリンキングは攻撃してこないんだろうね」
「さあな、お陰でこっちは落ち着いて作戦を練れるわけだ」
話し合いが終わり、リンネとレイネそしてアカリがゴブリンキングへ向かっていく。そんな三人へミレイがスキルを再び発動させる。ある一定の距離まで近づくとゴブリンキングが動きを見せる。それに合わせリンネたちがゴブリンキングへ向かって走り出す。
再びゴブリンキングと接敵したリンネとレイネは先程と同じように左右に別れ攻撃をする。左右に別れたリンネとレイネ、特にレイネを警戒して直剣を振るおうとするゴブリンキング、それに合わせる形でアカリが正面から突っ込みスキルを放つ。
「ダブルチョッパー」
そしてリンネは直剣を構え膝裏にスキルの斬撃を放つ。先程の攻撃で無傷だったゴブリンキングはレイネを警戒していたために反応が遅れリンネの攻撃によりバランスを崩すことになる。
片膝をついたゴブリンキングに対しレイネは居合一閃を放つがそれはゴブリンキングの持つ直剣に防がれてしまう。そしてその直後全く無警戒だったアカリのスキルダブルチョッパーがゴブリンキングを襲う。
アカリの攻撃はゴブリンキングの首を狙ったものだったが、ゴブリンキングは咄嗟に顎でその攻撃を受ける。ゴブリンキングの首は守られたものの顎が切り裂かれ、目の下部分に1本の筋が刻まれる。
「グガァァァァァ!」
痛みのためかはわからないがゴブリンキングは叫び声を上げ、手に持つ直剣ごと体を一回転させリンネたちを遠ざけようとした。レイネはその攻撃をバックステップすることで避け、直剣の攻撃範囲外から再び居合の構えへ戻る。
そしてレイネはゴブリンキングの攻撃が過ぎ去り、体を捻っているためにむき出しとなっている脇腹へ居合一閃を放った。居合一閃はがら空きの脇腹を切り裂き辺りに血の匂いを撒き散らした。
ここが攻めどきと感じたリンネとアカリも攻撃を加え始める。攻撃を受け傷を負いながらもゴブリンキングは再び立ち上がる。そして直剣を巧みに操り、リンネたちに反撃をする。
リンネはスキルのステップやダッシュを使いながらゴブリンキングの攻撃を避け、時には攻撃スキルの斬撃を使い確実にダメージを与えていく。だがゴブリンキングはそのままで終わることはなかった。
ダメージを受けるたびに、赤く光っていた瞳は色を薄めていき、それに比例するように少しずつゴブリンキングの力任せの攻撃が変化を見せ始める。だがそのことに誰も気が付かない。
そしてゴブリンキングの瞳の色が緑色へと変化したその時、ゴブリンキングは高らかに咆哮をあげた。その咆哮になにか嫌なものを感じたリンネとレイネは力を振り絞る形で攻撃をくわえようとする。
だが意志を取り戻したゴブリンキングはその攻撃に合わせる形でリンネとレイネの武器を正確に狙い、武器ごとリンネとレイネを弾き飛ばした。
後方へ弾き飛ばされたリンネとレイネの姿を確認したゴブリンキングは己が意志を取り戻したことに歓喜の笑みを浮かべながら、ただ一人取り残された形になったアカリを見据える。
アカリはそんなゴブリンキングに見据えられ、再びその体を恐怖で硬直させて動けずにいた。それでもなんとか逃げ出そうとするアカリだが足が動かない。そしてゴブリンキングは最初の生贄としてアカリへと直剣を繰り出す。
「アカリーーー!」
吹き飛ばされたリンネはなんとか体勢を立て直し、アカリの元へ向かい走り出す。レイネは吹き飛ばされた勢いのまま地面を転がり起き上がることが出来ないでいる。そんなレイネに向かってミレイは走り寄り回復をしている。
このままでは間に合わないと感じながらもスキルのダッシュを使い走る。だが無常にもゴブリンキングの攻撃がアカリに向かって振るわれた。
アカリは袈裟斬りにされる直前、リンネのアカリを呼ぶ声で体の動きを取り戻し、ギリギリのタイミングで両手に持つ手斧を直剣を防ぐように持ち上げる事ができた。
だがその手斧はゴブリンキングの攻撃により砕け、その勢いのままゴブリンキングの直剣はアカリの体を切り裂いた。
そしてアカリは血を撒き散らしその場に倒れる。倒れ伏すアカリの瞳には走り寄ってくるリンネの姿が映っていた。





