第25話 ゴブリンナイト
ボス部屋に何かが待っているのは容易に想像できる、そしてそのボス部屋の何かは、外にいるゴブリン集団以上の存在かもしれない。どちらがマシかとなると外のゴブリン集団をなんとかしたほうがマシなのではと。
話し合いの結果リンネたちはボス部屋には行かずに、ダンジョンからの脱出を目指すことに決めた。目的は決まった次はどうやってあのゴブリン集団を突破するかである。
リンネ達の位置から見えるだけでも100匹はいるであろうゴブリンの集団。μαで表示されている種類としては、ゴブリンウォーリアー、ゴブリンソーサラー、ゴブリンモンク、ゴブリンアーチャー、ゴブリンファイター、ゴブリンメイジ、ゴブリンシーフ、そしてゴブリンナイトが揃い踏みしている。
「一匹とは言えゴブリンナイトが外にいるなんて、中にいるのってあれよりもどう考えてもやばいやつだよね」
「そうですわね、元々はゴブリンナイトがあの部屋のボスのはずですわ」
「ナイトの上ってなんなのかな?」
「わかりませんわ、思いつくのはジェネラル、クイーン、キングといったところでしょうか」
「仮に中にいるのがキングだとして、今の俺達じゃ無理?」
「無理だと思いますわ、高等部のダンジョンにもその存在は登録されていないみたいですわね」
リンネはμαの検索機能でゴブリンキングの情報を探してみたが、名前以外の情報は見つけることが出来なかった。
「ちなみに、あそこを通らずに四階層に戻る手段なんかなあったりしない?」
「私の知る限りじゃないと思うよ、ミレイもアカリも知らないよね」
「ええ、ここのダンジョンは階層を戻ることは出来ませんわ」
「ボクも知らないかな」
「はぁ、仕方がない覚悟を決めるか」
「そうだね、私も本気で行くよ」
「ボクも頑張る」
「わたくしも遅れは取りませんわ」
それぞれが覚悟を決めて獲物を手に取り立ち上がる。ミレイが両手を組んで祈るポーズをして「祝福」と唱えスキルを発動させた。それによりリンネ達の体に暖かい光が降り注いだ。
「祝福ですわ、少しの間だけ疲れににくくなる効果がありますわ」
「ありがとうミレイ。先頭は俺とレイネ、真ん中がミレイ、殿がアカリでいいか?」
「うん、殿は任せてよ」
それぞれがうなずくのを確認してリンネたちは角を曲がりゴブリンの集団へ向かって走り出す。
「「「強化」」」
接敵間際にリンネたちは汎用スキルの強化を使う。スキル強化は少しの間だけ力、素早さが上がる。なれないうちは使った翌日には筋肉痛に襲われるが今使わずにいつ使うかといったところだ。
ゴブリンの集団がリンネたちに気が付き、それぞれが武器を構え向き直る。
「グギギャギャギャ」
ゴブリンナイトがそう叫ぶと、リンネたちを囲むような動きを見せ始める。
「「ステップ」」
リンネとレイネが左右に別れ斜め前へ進み、すれ違いざまに進行方向にいたゴブリンウォーリアーを切り裂く。倒れ泥へ変わり始めたゴブリンウェフォーリアーを乗り越えミレイとアカリが進む。
リンネたちはただひたすら前へ前へと進んでいく。仮に倒せなくても傷を負わせれば敵の動きは鈍くなる。傷を負ったゴブリンが邪魔になり他のゴブリンの動きを阻害する。
その隙に、進行の邪魔になるゴブリンだけを確実に倒していく。そして脱出用の赤いゲートまでもう後少しといった所でリンネたちは足を止めさせられた。そこにはカイトシールドを構えた、ゴブリンナイトがゲートを背にして待ち構えていた。
「じゃ、ま、だーーー」
リンネとレイネ、そして足を止めた事で追いついてきたミレイとアカリも攻撃に加わる。だがゴブリンナイトはそれらの攻撃をやすやすといなしてしまう。
「グガァァァァァ」
ゴブリンナイトはそんなものかと言いたげに吠えている。そして周りのゴブリンはゴブリンナイトとリンネ達の闘いを見ている。ただ見ているだけではなくリンネたちが逃げられないように周りを囲み、ついでとばかりに脱出用の赤いゲートのある場所を念入りに防いでいる。それとは別にあからさまにボス部屋のゲートへの道は開かれている。
「くっ、強い」
「ゴブリンナイトってこんなに強くないはずだけど」
「ですわね」
「前戦ったゴブリンナイトより全然強いよ」
ゴブリンナイトの攻撃をなんとか躱したりいなしたりして致命傷は避けているが、少しずつ傷と疲労が溜まってくる。リンネがなにか決定打にできるものはないかと考えた所でアカリが一度下がり両手に持つ手斧を胸の前でクロスさせる。
「ボクのとっておき行くよ。はぁぁぁぁぁ、ブレイブヒート!」
アカリの体が一瞬赤く光り、その光は両手に持つ手斧に集まっていく。二本の手斧が赤い光に包まれ、手斧にはオーラのような物が溢れ出てくる。
「うりゃーーー」
アカリが走る、それを援護するようにリンネがレイネがそしてミレイが左右に別れゴブリンナイトへ攻撃を加える。リンネのショートソードを盾で受け、レイネの刀を直剣で受ける。これで両手が塞がりミレイのメイスでの攻撃を受けるしか無いように思われたが、ゴブリンナイトはミレイに対して蹴りを放つことで対処してみせた。
ゴブリンナイトはミレイの攻撃をグリーブで受け、その足を地面に振り下ろすと、左右のリンネとレイネを腕の力で弾き飛ばした。だがさすがのゴブリンナイトも姿勢を崩し、リンネとレイネを弾き飛ばすために腕は広げられており、アカリの攻撃をその胸に受けることになった。
アカリの手斧による攻撃を胸に受けたゴブリンナイトは、手に持っていた盾と直剣を手放しアカリに掴みかかる。なんとか避けようとしたアカリだがブレイブヒートを使った影響でうまく動けなくなっており足を掴まれてしまう。
「「アカリ」」
リンネとレイネがアカリを助けようと走り攻撃をくわえようとするが間に合わずアカリは勢いよく投げ飛ばされる。
「うひあああぁぁぁぁぁ────…………」
アカリの投げ飛ばされた先にはボス部屋のゲートがあり、飛ばされた勢いのままアカリは叫び声を上げながらボス部屋へと続くゲートの奥へと消えていった。
そしてアカリを投げ飛ばした事で無防備になったゴブリンナイトの鎧の隙間にリンネとレイネの刃が貫いた。
「グガァァァァァ」
ゴブリンナイトはそう咆哮をあげると、どこか満足そうな笑みを浮かべ泥へと変わり消えた。ゴブリンナイトの消えた後には拳大の大きな魔石と直剣だけが残されていた。
「アカリ!」
ゴブリンナイトが泥になり崩れていく姿を見る事なくリンネはボス部屋のゲートへ駆けていく。
「お兄ちゃん待って!」
とっさにそう叫びレイネもリンネを追いかけて走り出す。走りながら一度振り返り「ミレイ!」と呼びかけ、魔石に目線を向ける。それを察したミレイは魔石と直剣を回収し、周りを警戒しながら待っていたレイネと共に、アカリとリンネが消えたゲートへ駆け込んだ。
ゴブリンナイトが倒されリンネたちが去ったその場所に残されたゴブリンの集団は、何事もなかったかのように再びボス部屋へと続く道だけを作るように左右に別れ隊列を組み始めた。





