第21話 ツンデレさん
リンネたちは中等部ダンジョンの一階層に降り立った。今日はミレイを新たに加え4人でダンジョンに潜ることになっている。早速着替えを済ませる面々、リンネとレイネは複数の魔石の付いたブレスレットを使い、アカリは首のチョーカーを使っている。
そしてミレイは胸元に下げられているロザリオに触れ着替えを済ませる。ミレイの衣服は白い修道女の装いとなっており頭巾は被っていない。腰には凄くゴツいメイスが下げられている。あんな物で殴られたら余裕で頭蓋骨が割れるのではないだろうか。
「よーし今日もがんばろー」
「「「おー」」」
レイネの号令にゆるく答えるリンネたち。最下層まではリンネが戦闘を一手に引き受けて進んでいく。最初の頃に比べるとかなり余裕を持って進めているし、今のリンネは既にレイネやアカリと同じくらいの動きが出来ているし、壁蹴りからの立体起動もお手の物となっている。
リンネ達の今日の目的は、最下層にあるボス部屋の前まで行くことだ。そこまでリンネ一人で戦い、余裕を持ってたどり着けるまでボス部屋には入らないことにしている。
それに今日からはミレイという回復役もいるので気持ち的に余裕がある。リンネの戦いには余裕が見て取れるが油断はしていない。油断して挑めるほど最下層は甘くないのはわかっている。
「リン貴方のお手並み拝見させていただきますわ」
「お手柔らかに頼む」
「ふ、ふん、怪我をしたら治してあげますわ」
腕を組み顔を背けながらそう言っているが、頬は若干赤く染まっている。
「ツンデレか」
「ツンデレだね」
「ミレイってツンデレだよね」
「誰がツンデレですか、そんなこと言うなら回復してあげませんわよ」
「ちょっとした冗談だから」
「もういいですわ、行きますわよ」
「はいはい」
リンネは昔のことなんてなかったかのように自然にミレイに接している。いっぽうミレイは、昨日の出会いが初対面のはずなのに、自然体で話すことが出来ている自分に若干の戸惑いを覚えている。
しばらく進むとゴブリンウォーリアー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジ、ゴブリンモンクの集団を見つけた。ゴブリンモンクを始めて見たリンネは早速μαで情報を確認する。
登録されている情報によれば、武器を持たず素手で戦ってくる相手のようだ、そして厄介なのが回復もすると表示されている。
「それじゃあ行く、ヤバかったら援護頼む」
「気をつけてねリンちゃん」
リンネはレイネに手を上げ答えながら走り出す。
「ダッシュ」
ダッシュのスキルを使い移動速度を上げる。この時点でゴブリンたちに気が付かれるがかまわずにそのまま走る。盾を構えリンネの行く手を阻もうとするゴブリンウォーリアーの目の前に辿り着いたリンネは走る速度のままに地面を蹴り、右側に飛ぶ。
ゴブリンウォーリアーはリンネを追うように体の向きを変えたが、既にリンネは前方にステップで移動しており完全に見失ってしまった。そしてリンネがステップで向かった先にいた標的はゴブリンメイジである。
ステップを使ったことにより切れたダッシュを再び使い、すれ違いざまに斬り捨てる。ゴブリンメイジが倒れ泥のように崩れる姿を横目に見つつ、更に弓をつがえようとしていたゴブリンアーチャーへと斬りかかりそのまま倒すことに成功する。
次の標的としてゴブリンモンクを狙おうとしたのだが、逆に攻撃を受けることになる。ゴブリンモンクの拳や蹴りを避けながら後ろに一気に飛び下がり、ついでとばかりにステップを使って距離を開ける。
距離があいたことによりリンネはゴブリンアーチャーとゴブリンメイジが泥のように崩れ去ったのを確認し、苛立たしげに吠えているゴブリンウォーリアーとゴブリンモンクに向き直る。
「グルアァァァァ」
ゴブリンウォーリアーが吠え、盾を前にかざしながらリンネに向けて走り寄ってくる。リンネは迎え撃とうとショートソードを構えようとしたが、嫌な予感を感じダッシュを使い横に走り出す。
ゴブリンウォーリアーは一度走り出したら止まらない様子でそのまま走り去り、ダンジョンの壁にぶつかり止まる。リンネは横に移動したことにより、ゴブリンウォーリアーの後ろから走ってきているモンクに気がつくことが出来た。
ゴブリンモンクは走るのを止めることの出来ないゴブリンウォーリアーの背後から、リンネに向かって飛びかかってくる。そしてそれを迎え撃つリンネ、ゴブリンモンクはまず蹴りを繰り出してくるが、リンネは冷静にその蹴りをショートソードの腹で上へと跳ね上げ体勢を崩したゴブリンモンクの首をスラッシュで引き裂いた。
残るはゴブリンウォーリアーだが、壁にぶつかり目を回している標的を倒すのは簡単だった。ダッシュで走りより背後から首の後ろを突き刺し倒した。リンネは泥となって消えていくゴブリンウォーリアーを眺めながら落ちている魔石を回収する。
「ふぅ、どうだったかな」
「ま、まあまあですわ、それより怪我はしておりませんわよね」
「一発も当たって無いから大丈夫だよ」
「そうみたいですわね」
「リンちゃんおつかれ、いやーすごいね私でもあれほどスムーズに倒せるか分からないよ」
「うんうん、ボクなら無理やり正面から突っ込む感じに戦ってるね」
「アカリはいつもそうですわね、少しはリンやレイネみたいにわたくしの負担を減らしてほしいですわ」
「あんなくるくる移動しながら戦うなんてボクには無理かな」
しばらくそんなやり取りを続け再びダンジョンを進む。何度か戦闘を繰り返しリンネたちは奥へ奥へと進んでいく。そしてついにボス部屋の前までたどり着くことに成功した。
巨人がくぐれそうなほどの大きな門があり、その横にはダンジョン脱出用のゲートが見て取れる。
「意外と早くここまで来れたね」
「ほんとにね、リンさんも結構余裕で戦闘も出来てるしボス戦も行けそうだね」
「そうですわね、アカリと違って怪我もしませんし、この4人でなら余裕を持っていけますわね」
「いやー、流石にこのまま行くのはしんどいかな」
流石にリンネも一階層から最下層まで一人で戦うのはきついようでダルそうにしている。レイネもアカリもミレイもさもありなんといった感じでうなずいている。
「流石に今日は行かないよ、でも次回は私達も道中戦うからそれで問題なければボス戦に行こうと思ってるよ」
「念のためボクたち全員での戦闘を一日やってみたほうが良いかも」
「そうですわね、わたくしもたまには戦わないと体が鈍りますわね」
「ミレイは無理に戦わなくてもいいともうけど」
「新調したこれを使いたいですわ」
そう言ってミレイは腰に下げているメイスをぽんとたたきニコリと笑っている。リンネはドン引きしているが、レイネとアカリは特に反応を示していない。普段からミレイはこういった感じなのであろう。
「さってと、とりあえず出ちゃわない?」
「そうだな、いつまでもここにいても仕方ないし出るか」
アカリのその意見にレイネが答え、確かにこんなところで話していても仕方ないという事でダンジョンから脱出する。外に出たリンネたちは職員に軽く挨拶をしてから食堂へ向かった。





