第20話 元同居人
リンネたちが声をかけてきた人物に顔を向けるとそこには金髪の少女がたっていた、少女の胸元にはロザリオが揺れている。身長はレイネと同じくらいなのに対して胸はリンネと同じくらいの大きさのようだ。
「ミレイいつ戻ってきてたの?」
「戻ってきたのはつい先程ですわ」
「そうなんだ、ちょうどよかったからミレイに紹介しようと思ってたんだよね。こちら私の従姉妹の姫咲リンちゃん、ちょっとした事情があってね来週を目処に私たちのパーティーに入る予定の新メンバーよ」
「あら、お綺麗なかたですわね、はじめましてわたくし耀静ミレイと申しますわ、よろしくお願いしますわ」
「おれ、いや、私は姫咲リンだ、といいます、どうかよろしく」
「普段通りの話し方でお話になってもよろしいですわよ、わたくしは気にいたしませんわ」
「そうか? それは助かる、改めてよろしく頼む」
リンネはミレイと握手を交わすと席にすわる。ミレイの方も飲み物を持ったまま空いてる席に座る。
「それで事情とはどういったものかしら、それに他のお二人も見当たらないようですわね」
「んーそうだね、簡単に言うとリンちゃんって最近覚醒したんだけど、それのサポートをしているんだよね。その関係でパーティー活動は一時休止ってことにしているのよ。ミレイもいなかったわけだし他の二人は休暇とか自己鍛錬って感じかな」
ミレイは手に持っている飲み物、中身はその外国人のような見た目に反して緑茶だったりするのだが、それを飲みながら相槌を打っている。
「そういったことでしたら、わたくしもお手伝い致しましょうか? 回復役はいたほうがよろしいでしょう」
レイネは少し考える素振りをして、リンネとアカリに目配せをする。それに対してリンネもアカリもうなずいて返す。実のところそれっぽい反応を示しただけで特に意味はなかったりする。
「それじゃあお願いしようかな」
「わかりましたわ、それで今はどこまで進んでますの?」
「中等部ダンジョンの最下層までだね、ボス部屋にはまだ入ってないよ」
「そうなのですね、それでは明日からわたくしも参加させていただきますわね」
「ミレイさん、よろしくお願いします」
「ミレイでよろしいですわ、その代わりわたくしもリンと呼ばせていただきますわね」
「ああ、それでいいよ、よろしくミレイ」
リンネはミレイを正面から見つめ、光をまとったような笑顔でミレイに笑いかける。何故か急に顔を真っ赤に染めてモジモジしだすミレイ、そしてそんなミレイを見てアチャーといった顔をしているレイネとアカリ。ミレイはまあそういう属性の人である、特に王子様系の女の子に欲情を催すタイプだったりする。
リンネは黙っていれば銀髪碧眼の美少女なわけだが、一言話せば男っぽい言葉遣いと性格なわけだ。そんなリンネだが、まだ学園に来てから10日くらいしか経っていないのに、既にファンクラブが出来ていたりする。
リンネもレイネもアカリも預かり知らぬことなのだが、知ったところでどうもしようがない。ちなみにレイネのパーティーメンバーは、全員それぞれにファンクラブがあるのだが、そちらは中等部の頃からあるものな上に、特に実害があるわけではないので諦めて好きにさせている。
「ん? どうしたミレイ顔が真っ赤だぞ」
そう言っておもむろにミレイの髪をかきあげて額を合わせようとしたが、すんでのところでレイネとアカリに引き剥がされる。
「おにい、リンちゃんそれは駄目だよ」
「ん? あ、すまんレイネと同じようにするところだったか、ごめんなミレイ」
リンネはそう言ってミレイに顔を向けると、先程よりも顔を真っ赤にさせたミレイが「はうふぅ」と言って倒れそうになるのをアカリがなんとか支えていた。
「あー仕方ないね、レイネもリンさんも先に帰っちゃっていいよ、ミレイはボクが連れて帰るから」
「その方が良さそうね、このままリンちゃんが一緒にいるとループに入りそうだし」
「いや、ミレイはどうしたんだ?」
「どうもしないわよ、じゃあアカリお願いね、リンちゃん帰るよ」
レイネは少し怒ったようにリンネを引きずるように歩き出す。
「あ、ああ、アカリまた明日」
「はい、また明日」
アカリはミレイを空いている長椅子に横たわらせてリンネとレイネを見送る。
さて普段と違う行動の多いリンネだが、なぜミレイに対してそうなったかというとリンネにとってミレイは懐かしい人物の一人だったからである。だがリンネ本人はこの時点では明確に覚えているわけではないし、ミレイの今の姿はリンネが知っているミレイと違っている。
ミレイは元々は髪の色が黒かったし、胸も当時は年齢相応だった。もうおわかりだと思うがミレイもアカリ同様にリンネやレイネが第一ダンジョン都市に引っ越してきてからの知り合いだ。
知り合いというだけではなく、一時期は一緒に暮らしていた間柄でもある。その頃からリンネは、家にめったに帰ってこないゲンタに代わる形で、レイネとミレイの親代わりのように立ち回っていた。そのせいか自然とミレイはリンネに懐いたし、リンネもそんなミレイを可愛がっていた。
その期間は数ヶ月だったことから、リンネははっきりとは覚えてなかったのだが、ミレイという名前を聞いて無意識に一緒に暮らしていた頃と同じ行動をしてしまったわけである。
「んー、あー……あっ、もしかしてミレイってあのミレイか!」
「急にどうしたのお兄ちゃん、ってもしかして気づいてなかったのにあんなことしようとしたの?」
「いやだってさ、変わりすぎだろ、髪の色も違うし背も伸びてるしそれに」
その視線はレイネの胸元に注がれている。
「悪かったわね、こっちは変わってなくて」
「いや、なんていうか、ごめん」
「その反応はその反応で私が悲しくなる」
うなだれるレイネの頭を撫でるリンネ。しばらく頭を撫でられながら歩くレイネだが機嫌がなおったのか顔を上げる。
「ミレイはね、私たちと暮らした後は養子縁組で引き取られたんだって。再会したのは学園の中等部に入ってから。その時にはああいった喋り方になってたし黒かった髪は金髪になってたのよね」
「なんとなくは覚えてるんだが、レイネと重ねてしまった感じだな」
「それは何となく分かるかも、あの頃は私もミレイもお兄ちゃんにべったりだったからね。それに背格好も似ていたし、髪型もあの頃は私もミレイも同じだったから」
「そうだったかな、その辺はよく覚えてないな」
その後は家に帰り着くまで、二人は今後ミレイとどう接するかを話し合ったが結局結論は出なかった。リンネの正体を明かすかどうか、明かした場合ミレイがどういった反応をするのか全く想像できなかった。
レイネ自身、学園の中等部で再会してから、ミレイからは一度としてリンネについて聞かれなかった。そしてあの性癖である、知られた場合どうなるのか……なんとなくリンネの貞操の危機が訪れるのではないかと予感めいたものを二人は感じていた。
 





