第16話 お泊り
リンネがダンジョンに入り初めて四日目になった。初日は一階層、二日目は三階層まで進み、三日目は三階層で時間ギリギリまでリンネは戦わされた。そして四日目となった今では、複数のゴブリンシーフにも一人で対処できるまでとなっていた。
「今日もお疲れー」
「リンさんお疲れ様」
「あーー、つっかれたー」
家に帰り着いたリンネはリビングのソファーに倒れ込むように座り込んだ。レイネとアカリが顔を見合わせ、仕方ないなーといった感じで苦笑している。
どうしてアカリがリンネ達の家にいるのかと言うと、明日が土曜日なので泊まりに来ているというわけだ。学園の授業は土日が休みで、ダンジョンも基本的には入ることが出来ない。
そこで久しぶりにアカリはレイネに誘われ泊まりに来ているというわけだ。制服は寮で着替え、今は私服姿となっている。上はパーカーで下はワイドパンツというコーディネートになっていて似合っている。
リンネとレイネとアカリは、リンネたちが第一都市に引っ越してきてからの幼馴染なので、この家に遊びに来たり泊まりに来ることはそこそこの頻度だった。それでもアカリが寮住まいになってからは初めてのことだ。
「久しぶりに来たけど変わってないね」
「そんなに久しぶりだったかな?」
「うん、ボクが寮生活初めてからは来ていなかったからね」
「あっ、ごめん」
「あはは、気にしていないよ、もう吹っ切れているから、それにボクと同じダンジョン被害者なんていくらでもいるからね」
アカリの両親はアカリが中等部三年の時に、ダンジョンから溢れた魔物の事故で亡くなった。それ以降アカリは学園の寮で暮らしている。こういったダンジョン事故は頻繁に発生して少なくない人々が犠牲になっている。
リンネとレイネの両親は行方不明扱いになっているが、アカリの両親は死亡が確認されている。覚醒者が全員戦いに向いたクラスを得るわけではないので、ダンジョン都市に暮らしていても、突発的に溢れ出た魔物に対処できずに亡くなる人は多い。
ダンジョンを攻略して潰しても、すぐに次のダンジョンが生まれると言われていて、突発的に出現するダンジョンのすべてを管理することは出来ていない。
「お兄ちゃん、疲れてるからってそんな所で寝ようとしないで、せめてお風呂に入ってから寝てよね」
「あー、風呂か」
リンネは起き上がり壁にあるパネルを操作してお湯はりを実行する。
「よし、晩御飯は昨日のカレーの残りでいいか? それとも何か食べたいものある?」
「昨日のカレーの残りでいいかな、三人分は残ってるよね」
レイネは冷蔵庫に入っているカレーを取り出して、違う容器に入れ直し電子レンジで温める。それを横目に見ながらリンネがご飯を皿によそってキッチンに置いていく。
「カレーは見ておくからレイネは先に着替えて来たらどうだ」
「ん~、そうだね着替えてくる」
レイネがまずは部屋着に着替えて戻ってくる。それと交代するようにリンネも着替えに向かう。レイネは普通のパジャマだがリンネは上はTシャツで下は短パンとなっている。リンネが戻ってきた頃にはカレーも温め終わったようで、レイネとアカリが既にダイニングテーブルの上にあるランチョンマットの上に並べ終えて座りリンネが来るのを待っていた。
「それじゃあ食べるか」
三人は手を合わせる。
「「「いただきます」」」
リンネとレイネはお箸で食べ始め、アカリはスプーンを使って食べ始める。
「リンさんの料理って久しぶりな気がするね、うん美味しいです」
「そう? ありがとう」
リンネとレイネはお箸を使い器用にカレーを食べている、この二人は何を食べるのにも基本的にお箸で食べる。そんなわけなのでフォークやナイフで食べるタイプの食事は苦手だったりする。
食事を終えて三人分の食器を洗い、テレビを見ながらくつろいでいるとリンネとレイネの壁にあるパネルからお風呂が沸いたと音で知らせが届く。
「お風呂湧いたようだし、二人のどちらか先に入っておいで」
「お兄ちゃん疲れてるでしょ? 先に入っていいよ」
「そうだよ、ボクも後でいいのでリンさんが先に入ってください」
「そうか? それじゃあ先に入らせてもらおうかな……レイネ覗くなよ」
「何言ってるの、アカリもいるのに覗かないよ」
「その言い方だとアカリがいなかったら覗くつもりだったのか」
「ソンナコトナイヨ」
レイネが顔をそらしながら棒読みで答える。
「おい」
「冗談だよ、ほら早く入ってきて」
リンネは用意しておいた着替えを持ち脱衣所に入ると鍵を閉める。いそいそと服を脱いでまとめて洗濯かごに放り込み洗い場へ入り再度鍵を閉める念の入れようである。
かけ湯をしてシャワーで髪の汚れを流していたリンネだがそこで何かを感じたのか脱衣所の方へ目線を向ける。ちょうどその時脱衣所を隔てる扉が開き、素っ裸のレイネとタオルで前を隠したアカリが入ってくるのが見えた。
「来ちゃった」
「いや来ちゃったじゃないだろ、覗くなって言ったよな、それも鍵かけてただろ」
「お兄ちゃん知らないの? この鍵って両方から開けられるようになってるんだよ。それに覗いてはいないよ、入ってきてるからね」
「アカリまで何してるんだよ、俺が男だって知ってるだろうに」
「えっと、その、レイネに誘われてね、ちょっと興味が……それにリンさんは今女の子ですから」
「はぁ、ほらそのままじゃ冷えるから風呂に浸かってろ、先に俺が体洗うから交代で入るぞ」
「はーい、背中洗ってあげようか?」
「いらんからかけ湯してはよ入れ」
レイネとアカリが湯船に浸かるのを確認してからリンネは髪と体を洗い頭にタオルを巻いてレイネと交代して湯船に浸かる。アカリはそんなリンネをずっと見つめている。
「どうしたそんなに俺を見つめて」
「あっ、いやリンさんのお肌真っ白できれいだなと思って」
「そうか? 俺はアカリのほうが健康的でいいと思うけどな」
病人のように白い肌のリンネと比べ、アカリの肌は適度に色づいていて健康的に見える。
「リンさんにそう言われると照れちゃうな、それにしても本当に女の子になっちゃったんですね、見た目も随分変わっちゃたし」
「信じられないよな、俺は今でも夢なんじゃないかとたまに思う」
「ここ数日のリンさんと話してボクの知ってるリンネさんと同じに思えたけど、知らない人が見たら信じてもらえないかもしれないね」
「アカリ洗い終わったから交代ね」
体と頭を洗い終わったレイネが髪にタオルを巻きつつアカリに声をかける。慌ててアカリが湯船から出て洗い場に出てレイネと交代する。
「何の話しをしてたの?」
「ん? 俺が本当に女になったんだなって再確認された」
「ふーん、そっか、まあ見た目も随分変わったからね、中身はお兄ちゃんのままなんだけど見ただけじゃわからないからね」
「俺でも同じ立場なら信じられないだろうな」
頭を泡立てて洗っているアカリをリンネは盗み見つつレイネと会話している。
(アカリって身長の割にはプロポーションは意外と良いよな)
今のリンネほどではないが、アカリの発達の良い胸とレイネのまっ平らな絶壁をそっと見比べてリンネはなぜだか少し悲しくなった。
「レイネ強く生きろよ」
「あん、どこ見て言ってんだ、こんにゃろー」
レイネはその両手でリンネの胸を掴み揉みしだく。
「やめ、こら、悪かったって、もげるもげる」
「うきーー」
浴槽の中でいちゃつき始めたリンネとレイネを少し羨ましそうにアカネは見つめていた。