第146話 第一回会談
一時間ほど会談が続いたところで一度休憩に入るという事で、各国の代表者が自国の人間が集まっている所に戻ってきた。お互いに情報を精査して自国の人間と情報共有をして、この後どういう協力体制を築くかなどの話し合いが行われることになる。
「それで何かわかったかな?」
交渉チームの隊長である新崎が、交渉担当の男性に声をかけた。新崎の見た目は四十代後半で、モミアゲから顎にかけて髭に覆われている。覚醒者協会の職員ではなく大型クランのクランマスターをしている。
今回のチーム最年長ということで隊長に選ばれた。今回の参加理由は単純に他国に興味があったというものになる。元々は最前線で戦っていたのだが、ある時期からクランの運営に従事するようになっていた。
「今わかったことをお話します」
交渉担当である北条がメガネをクイッっとしながら話し始める。北条は覚醒者協会から今回の交渉役として選ばれた複数の多国語が話せるという、今の時代には珍しい人物だ。
「まずですが、他の国もある時を境にダンジョンが減りはじめたようです。そして各国にある原始ダンジョンだけが残ったということでした。この辺りは我々のところと同じですね」
ダンジョンが減り始めた時期もだいたい同じだということだった。その事から覚醒者協会が考えたように、原初ダンジョン以外の小規模中規模ダンジョンは役目を終えたということなのだろう。
各国もそういう結論に至っているようだった。それがなにかまでは確証が持てないでいたようだが、日本の状況を話すことで覚醒因子が世界中に広まったからではないだろうかという事になったようだ。
実際日本では、今まで頑なに覚醒をしないようにと、ダンジョン都市から離れて暮らしていた人たちも、次々と覚醒を果たすようになっていた。そもそも日本以外の国々は、原初ダンジョンの周りに都市を作り半隔離のようにしていない。
そのために未覚醒者というものがいない状態だということだった。あまりにも日本が特殊な状態だったということが浮き彫りになっていた。
「他の国ってそんな感じなんだね」
リンネたちは交渉の中心人物たちから少し離れた所から話を聞いている。
「日本みたいに複数の原始ダンジョンがある国というのも少ないのかもしれないな」
「他の国ってどれくらい原始ダンジョンがあるんだろうね?」
「もしかして日本の原始ダンジョンの数がおかしいだけだったりして」
「「「……」」」
アカリの何気ない一言に沈黙が訪れる。確かにこの場には起動しているゲートとしていないゲートが合わせて百近くある。そのうちの一割ほどが日本にあることを考えるとアカリの言うことが真実に思えた。いつしかリンネたちの何気ない会話に周りの視線が集まっている。それに気がついたアカリの顔がひきつっている。
「その所どうなんだ?」
「いえ先程の会談ではその辺りは聞いてないですね。この後ある会談で聞いてみようと思います」
「わかった。他にもなにか気になることがあればどんどん言ってくれていいぞ」
新崎が周りを見回し意見を求めている。
「それでは一ついいだろうか」
リオンが手を上げる。
「μα、それの有無をなんとか確認できないだろうか?」
「ああ、確かにそれも重要なことだな。その辺りはどうなんだ?」
新崎が北条に尋ねる。
「我々が使っているμαと同じかはわかりませんが、各国それに準じた物を使っているようでしたよ」
「ほう、それはどうしてわかった? 訪ねたわけではないだろう?」
「目の動きです。会談に参加していた全員がたまに視線の動きが不自然なところがありまして」
「視線か、そうか視線の動きでさすが北条くんだな」
リオンが北条の背中をバシバシと叩いている。
「先輩痛いのでやめてください」
「はっはっは、優秀な後輩を持てて私は嬉しいよ」
リオンと北条は先輩後輩の関係のようで、見た限りでは仲は良さそうだ。一見ふざけているように見えている二人だが、さり気なく人の輪から離れてコソコソと話をしている。集まっている人はそんな二人を気にすることなく、この後の会談に向けて意見交換をしている。
「さっきの話だと他国もμαかそれに似たものを何処かから手に入れたってことだよね」
「そうみたいですわね」
リンネたちも話し合いをしている輪から少し離れ、周りを警戒するふりをしている。詳しいことは後でリオンに聞けばいいやの精神だ。そんな時間が暫く続いた後に、少しずつ会談の担当者が中央へ戻り始めていく。
「では我ら護衛組は少し辺りの探索をする。各パーティーで固まって他国とはなるべくいざこざを起こさないように」
新崎の号令のもと各方面へとわかれていく。リオンはリンネたちとともに光の灯っていないゲートを調べることになっている。どうやら他国のチームも同じように起動していないゲートを調べ始めている。
起動していないゲートを調べる理由としては、こちら側から起動をさせることが出来ないかという調査でもある。あとは調べることにより、どの国に繋がっているのかがわかればいいのではという思いもある。
他国のチームとは付かず離れずで、お互いに積極的に接触することはなかった。お互いにどう接すればいいのか測りかねているのだろう。それから二時間ほどたち、結局ゲートについては何もわからないまま、一回目の会談は終了した。