第14話 急成長
リンネが初めてのダンジョンから地上へ戻ると、既に下校時間間近になっていたようで、ダンジョンの入り口を監視している職員に「もう少し余裕を持って」と怒られた。三人とも高等部なので、実は時間などはある程度融通がきくのだが、レイネもアカリも失念していたようで後ほど気がつくことになる。
その後リンネとレイネは寮住まいのアカリと別れバタバタと学園から大型ショッピングモールへ移動し買い物に向かう。途中で叔父の霧影ゲンタに連絡を取り迎えに来てもらうことになった。
リンネ用のバックパックや水筒に保存食、チョコやクッキーに飴などを購入した。合流したゲンタに連れられ覚醒者協会の地下へと向かい、そこでリンネは一通り軽めの検査を受けて、ダンジョンに入る前と入った後のデータを見比べることになる。
その他には収納のブレスレットに不具合がないか使い勝手はどうかなどの話がされ、中身の調整などがなされることになりゲンタに預けた。装備に関しては希望通りにしてもらえることになり、ついでにレイネもちゃっかり自分の分も要求していたりする。
リンネの装備関係はレイネとゲンタに任せて、リンネは祭音リオンと向かい合って話をしている。
「さて、リンネくんのデータを前回のと今回のを比較させてもらったが、今のところこれといった変化はないようだ。ウィードを100体程度しか倒していない割には成長率が高い気がするがまだ初回だからな、今後も継続して調べさせてほしい」
「それはかまわないですけど、思っていたよりも成長してるということですか?」
「私が想定していたよりも上がっているというだけだね」
「それはやはり、ユニーククラスだからということでしょうか」
「それが一番可能性は高いと思われる、成長率が良いからといって無理をして後遺症が残る怪我などしては元も子もないからな」
「無理をしないように気をつけます」
「それとだスキル関係だな、μαには何か情報は出てきていないかい?」
「今のところは何もないですね」
「ふむ、初期スキルすら不明というわけか、なかなか厄介なクラスなのかもしれないな戦乙女というクラスは」
「そうなんですか?」
「大体のクラスには初期スキルというものがある、私の賢者には解析というものがあり覚醒後すぐに使えた、まあμαがあるので解析自体は余り意味のあるスキルではなかったがな。あとは近接系統ならスラッシュやバッシュ、挑発やウォークライ辺りが初期でどれかがあるといった感じだな」
「そうですね、戦乙女も戦というところからそれ系のスキルがあると思ったので試してみたのですが無理でしたね」
「戦乙女が武器を持って戦う女性のことを表しているのか、北欧神話に出てくるヴァルキリーのことを表しているかで意味合いも違ってくるのだがね」
「武器を持って戦う女性ですか……、あの戦乙女の初期スキルってもしかすると女性化ということは無いですか?」
「それならμαに表記が、いやあり得るのか? 可能性としてはありえるな一度限りの効果として消化されたため消えたといったところか。ふむ、少し調べてみよう、他に初期スキルを持たなかった者が身体変化者かどうかなら調べようもあるだろうからな」
「仮にそうだとしても、今の俺にはどうしようもないですね」
「いろいろ試してみるのは悪いことではない、汎用スキルなどは練習をしていればそのうちスキルとなって習得できるからな、仮に後衛職だとしても初期スキルなら比較的覚えられるものだ」
「そうですね色々試してみます」
「今日はこれくらいで良いかな? 何か聞きたいことがあれば次回でもいいし、ゲンタに伝言してくれても良いから気軽に聞いてくれ」
「お世話になります、リオンさん」
改めてお礼を言ってリンネは部屋を出ていく。それをリオンは見送り、ホロディスプレイを立ち上げるとリンネの戦闘データや前回と今回のバイタルデータなどを見比べている。その瞳は好奇心に溢れキラキラと輝いているように見えた。
◆
「おうリンネ話は終わったか?」
「うん終わった」
「そうか、それじゃあこれだ受け取れ」
ゲンタが預かっていたブレスレットをリンネに渡す。リンネはそのリングを受け取り腕にはめた。
「ありがとう叔父さん、試しても?」
「いいぞ、それとだ追加で特殊なポーションを一つ入れている、試作品だが効能試験は終わっていて効果は保証する、もしもなにかあった場合はためらわずに使え」
「ポーションね、副作用とか無いよな?」
「それは大丈夫……だと思うが、作ったやつがヤツだからな、知らされてない可能性もあるな」
「それってあの人? 使うの怖いな」
リンネは苦笑を浮かべながら、ブレスレットに手を添えてμαとの連動を確認する。視界には入っている装備一覧が表示されていて先程購入したバックパックも入っている。
バックパックのことでわかるように、バックパックの中身も含めて一つという扱いになっている。リンネは一通り中身を確認した後、表示されている収納物の一覧から装備品を選択する。
一瞬のうちに装備が完了し、要望通りになっている。スカートの外側を囲むように、黒い革製の草摺のようなものが追加されていた。
「いい感じかな、どう?」
「似合ってるじゃないか、動きにくいとかはないか?」
「今のところ大丈夫かな」
リンネは色々な動きをして違和感がないかや引っ掛かりなどがないかなど確認して、問題は無さそうだと判断した。
「なんかあったら言えよ、調整してやるから」
「わかった、その時はお願いする」
「それじゃあ送っていくから先にレイネと駐車場にいっててくれ」
「わかったけど、そのレイネはどこ行ったんだ」
「レイネか? レイネなら──」
「たっだいまー、あっお兄ちゃん話し終わったんだね」
嬉しそうに笑いながらレイネが部屋に入ってくる。
「それでレイネはどこ行ってたんだ?」
「新しくこれもらったから倉庫から新しい装備借りてきたんだよ」
レイネは腕を持ち上げてリンネと同じブレスレットを見せてくる。
「叔父さんありがとうね、良いのがあったから借りていくね」
「おう、どうせ倉庫の肥やしだからな好きにしろ」
「一応協会の所有物では?」
「ん? 違う違う倉庫にしてるが一応俺の自室だ、あそこのは全部俺の私物だからな、リンネもほしいのあったら何でももってけ」
「そうだったんだ、それはそれでどうかとも思うけど」
リンネが苦笑交じりにそう言ってもゲンタはどこ吹く風といった感じだ。
「それより先に駐車場に行っておいてくれ、俺もすぐ行くから」
「了解、それじゃあレイネ行くぞ」
「はーい」
ゲンタは部屋を出ていく二人を見送り、しばらくμαを操作し、機嫌良さそうに鼻歌を口ずさみながら部屋を出ていく。