第133話 μαのコピー
食堂での食事を終えたリンネたちは再びリオンの研究室に戻ってきていた。そしてついにマイクロチップの解析が終わった。
「どうやら解析は終わったようだ」
リオンはパソコンを操作して解析データを慎重に調べていく。元のデータは暗号化されていたために、暗号の解析と中のデータの精査をしていた。普通のパソコンだと完全にスペック不足だが、そこはリオンはこっそり大学のスパコンにアクセスをしてスペック不足を解消していた。
本来スパコンを使用するには様々な手続きが必要になるが、使用用途が中身が不明のデータなために下手に申請するわけにはいかなかったということもある。ただその行為がバレた場合色々と面倒なことになる。それでもリオンにとっては未知の情報を得るほうが大事だった。
「それで何かわかりましたか?」
「ふむ……」
リオンはデータを読み進めながら思考をフルで働かせている、そのためにリンネの問には気がついていなかった。暫く待ってもリオンからの返答はなく、リンネとレイネは待つことにする。
「すまない、待たせたようだね」
「いえ、それで何かわかりましたか?」
リンネは先程と同じことをリオンに聞いてみる。
「そうだな。リンネくんは転生、もしくは輪廻転生というものを信じることができるかな?」
「転生、ですか。死んだあとに別のなにかに生まれなおすというのであっていますか?」
「ああ、その転生であっている」
「その転生とマイクロチップに何か関係あるってことですか?」
リンネとレイネはよくわからないというように頭にはてなマークを浮かべている。
「ちなみに私は信じていない。いや信じていなかった。これの解析結果を見るまでは」
「いったい中にどのようなデータが入っていたのですか?」
「そうだな、まずはそこから話をしようか」
そういってリオンはパソコンのモニターへと視線を向ける。
「そうだな、まずはこの中に入っていた情報の一つは、リンネくんが知るμαに関するもになる。もう少し詳しく言うならμαの作り方だな」
「えっ、そんな重要そうなものが入っていたのですか?」
「ここに書かれていることが本当のことならだ。それも一つ作ってみればわかるだろう。作り方もそう難しいものではない。このマイクロチップを親として一部のデータをコピーするだけだからな」
「意外と簡単なんですね」
「そうだな、それだけなら簡単ではある」
「その言い方だとなにか問題があるってことですか?」
リオンは頷いて一つのマイクロチップを手に持つ。それはリンネからコピーされたマイクロチップではなく更にコピーされたデータが入ったものだ。
「単純な話だがこのマイクロチップを脳に移植しないといけないわけだ」
「あっ、確かに。ちなみに脳に埋め込む以外の方法ってないのですか? それこそHMDをつかってなんかは」
「ふむ、いい目の付け所だな。後ほど試してみよう、コピー自体は簡単にできるからな」
もしHMDにセットすることでμαと同じ機能が使えるのなら危険性はずいぶんと減ることになる。ただし、それでうまくいくかは試してみないとわからない。HMDで代用できなければ結局は脳に移植しないといけないことになる。
「俺が渡したコピーと、そこからコピーしたそれってどう違うのですか?」
「そうだな、まずはμαに関するデータだけ入っていると思ってもらえばいいだろう。あとはバージョンが違う」
「バージョンですか?」
「ただ、詳細はわからない。そうだな親データがバージョンが1だとすると、コピーはバージョン0.1といった感じになっているようだ。なぜそうなっているのかはわからないが、どうやら時限でバージョンが自動的に上がる仕組みのようだな」
結局はなぜそうなっているのかは、リオンにもわからないようだった。親データとコピー後のデータでバージョンが違うのなら、リンネの脳内にあるチップはどうなのかも調べようがないのでわからないとのことだった。
「さて、μαも重要だが大事なのはもう一つの情報だ」
「μαよりも重要なんですか?」
レイネが訝しげな表情を浮かべている。
「いや、μαとはまた違う意味で重要だ。なんといっても未来の、いやリンネくんに関する重要な情報だからな」
「お兄ちゃんのですか?」
「俺のことですか?」
リンネとレイネの言葉にリオンが頷く。
「そこで先程の転生を信じるかという話につながる」
「転生ですか、正直にいうと信じられないですね。もしそんな事が出来たとしても証明しようがないですよね」
「まあそうだな。だがここには転生としか思えない情報が入っていた」
「それはどういったものですか?」
リオンはすぐに答えること無く、考えをまとめるように一度目を閉じる。
「リンネくん、君は今いるこの世界を君が元いた世界の別次元、つまりパラレルワールド的な物だと考えていないかい?」
リンネはリオンのその言葉に頷いて返した。ただわざわざリオンがそのように聞いてくるということは、そうではないのだろうと思い至っていた。





