第128話 検査結果
「まずは結果から言おう」
数日後リオンから連絡がありリンネとレイネは白桜女子大学の研究室まで来ている。この日は休日ということで、大学内の人通りは少ない。
「リンネくん、君のここには何かが埋まっているようだ。そうだねマイクロチップのような物といえばいいだろうか」
リオンはそう言って自らの額を軽く指でつついた。
「それって」
「状況から考えて話に聞いていたμαというやつだろうな」
「いや、待って下さい。どうしてこの体にμαがあるのですか? それにもしそれがμαだとすると起動していない理由がわからないのだけど」
リオンはリンネの額内部の画像をモニターに表示してリンネたちに見えやすいように動かす。
「疑問などは後にしてまずは検査結果を説明する。それでいいかな?」
「えっと、はいお願いします」
すぐにでも疑問に答えてほしいという思いはあるが、焦っても仕方がないのと検査結果が気になるということもありまずはリオンの話を聞くことにした。
「体に関しては何ら問題は無かった。成人男性としては問題ない数値になっている」
「そうですか」
「他には脳波に関しても特に異常は見られなかった。ただ先程も言ったように脳に埋め込まれるように、かなり小さいマイクロチップが見つかった」
「多分これがμαだと思うのですが、他になにか気がつくような所はありましたか?」
「そうだな、あえて言うなら、誰がどのようにしてそこに埋め込んだのかということだろうか。ちなみにリンネくんの世界ではどういう風に埋め込むのかわかるかい?」
「どういうふうにですか?」
リンネは考えるように腕を組み目を閉じる。
「μαのナノマイクロチップは俺達の世代に関しては、ダンジョン都市で生まれた人間は全員、生まれると同時に埋め込まれるというのは聞いています。ただどうやってという部分は知らないですね」
「その行為によって死んだり後遺症が出たりということはないのかい?」
「聞いたことはありませんね。もしそういう事例があったとしても、わざわざ広めたりはしないでしょうからなんとも言えませんけど」
「それもそうだな」
「ただ、俺達の世代になるとμαが導入されて百年は過ぎていますから。μαが生み出された頃はどうやっていたのかまではわかりません」
「ふむ、そうか。ちなみにそれを取り出すことは出来たりするのかい?」
「んー、多分出来ないとは思います。それに出来たとしても取り出す事にメリットはないですからね。バージョンアップもチップを弄る必要もないですから」
「確かに、額を切り開いて頭蓋に穴を開け、小さなマイクロチップを取り出すとなると、危険が伴うのだろうな。それに取り出すメリットもないというわけか」
リオンはパソコンのキーを打ち、今の話を入力していく。
「ちなみにリンネくんは、そのμαを動かす何かを知っていたりはしないかい?」
「動かくなにかですか……。物心つく頃からずっと使っていたので、停止とか起動をすることはなかったですね。唯一……」
「唯一?」
「唯一使えなかったのは、μαが動作しない場所に入ったときくらいですね」
「ほう、そのような場所があるのか」
μαが動かない場所としてリンネが思い浮かべたのは、中等部入学前に入った覚醒のためのコクーンがある覚醒者教会の施設だった。あの時は結局リンネは覚醒が出来ずに数年引きこもることになった。
「それにしてもこの体は、この世界の俺というかリンネのものなんですよね?」
「その可能性は高いが絶対そうだとは言えないな。だが君が女性の体になっていたのなら別と考えるほうが自然だろうな」
「確かにそうですね。だとするとこの体にμαがある理由がわからない」
「仮説でいいのなら私の考えを言ってもいいが、聞くかい?」
「よろしくお願いできますか? それによってはなにか手が思いつくかも知れませんし」
「そう難しい話でもないのだけどね。君の頭の中にあるμα、それ自体がその体の中に転移のようなもので現れたのではないかと思っている。理由としては埋め込まれた痕跡がないことになる。耳からとも考えたが、耳にも異常は見られなかった。他の可能性も考慮した結果、やはりリンネくんの元いた世界からμαが移動してきたと考えるのがあっていると思ったわけだよ」
「そう言われるとそれが正しい気がしますね」
頭を切り開いた痕跡がないということは、外部からμαが埋め込まれたとは思えない。仮に外部からμαを埋め込んだとしても、誰がということになる。
「それとだ、リンネくんの世界からμαだけが来たのなら、今のリンネくんについても説明ができるかも知れない」
「えっと、どういうことですか?」
「それはだね、リンネくんの意識、魂それか思念。そういったものが君の頭の中にあるμαから出力されているのではないかということだ」
「俺の意識がμαの中からですか?」
「そうだな。もしくはμαには、何らかのバックアップ機能のようなものがありそこに別の世界のリンネくんの記憶が保存されていてということも考えられる」
「その保存されている記憶が今の俺ということですか……」
リンネにはまったく実感がないが、μαそのものが謎の技術ということはわかっている。そう考えるとリオンが言った事はあながち見当違いとも思えなかった。
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