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第124話 パラレル?

「んっ、……、ここは?」

「あっ、お兄ちゃん気がついた?」


 リンネは寝かされていたベッドから体を起こして周りを見回す。かすかに違和感を覚えながらも、ここが自分の部屋だという事がわかった。


「俺はどうして──」


 そこまで声に出したところでリンネは自分の声がおかしい事に気がついた。その声は聞き慣れた自分の声ではなく、男性のそれに聞こえた。


「なあレイネ、俺ってどうなっている?」

「どうって、もしかしてまだ痛いところとかある? 治療はしてもらったのだけどちゃんと病院で検査してもらったほうが良いのかな」


 リンネは今更ながら体がおかしいことに気がついた。まずは手が大きい。胸元に手をやると、いつも感じていた弾力はなく真っ平らな手応え。そして下半身の懐かしき物を感じた。


 勢いよく布団を跳ね除け立ち上がる。


「お兄ちゃんどうしたの?」

「ちょっと洗面所に行ってくる」


 リンネはレイネの答えを聞いて、一階に降りるとそのまま洗面所に向かう。洗面所に辿り着いたリンネは、鏡を見る。


「これはどういうことだ?」


 鏡には、青年が映されていた。適度に引き締まった肉体。顔立ちも女性のそれではなく、どこからどう見ても男性に見える。それも女性化する前のリンネにどことなく似ている容姿で、成長したような姿が映っている。


「これはどういうことだ? そういえばレイネは今の俺に何の違和感を持っていないように思えた。仮に自然と性別がもとに戻ったというのなら問題ない。いやあるのか?」


 リンネは今の状況がよくわからず、どうしたら良いのかわからなくなっている。とりあえずは一度落ち着いて状況を確認したほうが良いのかもしれない。洗面所からリビングに移動するとそこにはレイネが待っていた。


「どうも心配かけたようだな」

「う、うん、お兄ちゃん本当に大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」


 久しぶりにお兄ちゃんと呼ばれて変な気分になるリンネ。


「レイネ、俺って倒れたんだよな? どうして倒れたのか覚えてないんだけど」

「そうなんだ……」

「それと他のみんなは?」

「他のみんな? お兄ちゃん本当に大丈夫?」


 リンネはレイネの反応を見てどうもおかしいと改めて感じた。最初に目覚めてからレイネ以外の、アカリとミレイが近くにいないこと。そして他のみんなと聞いて、レイネの他に誰もいないといった反応。


 色々と疑問は浮かぶが、一度落ち着いたほうが良いだろう。ふと心のなかでカリンやスズネの名前を思い浮かべながら呼んでみるも反応がない。そこでリンネはあることに気がついた。


「μαがない?」


 あることが当たり前過ぎて気がついていなかったが、改めてμαを使おうとしてもまったく反応しない。このわけのわからない状況は夢なのだろうか?


「そうだコーヒー入れるね。お兄ちゃんは座っていてよ」

「わかった」


 リビングのソファーに腰掛け、思考を巡らせる。まずはμαがないということ、これがないと様々な恩恵を使うことが出来ない。次にアカリやミレイの存在が近くに確認でいないこと。そして女の姿ではなく、男の姿になっている自分自身。


 このよくわからない状況を相談出来るのはきっとリオンだけかも知れない。そもそも家の外の状況がまったくわからない。


「はいお兄ちゃん」

「レイネまりがとう」


 レイネが作ってくれたコーヒーを一口飲む。どうもいつもと味が違う。レイネに視線を向けるも、首を傾げて返してくるだけだ。


「なあレイネ、最初俺が起きた時「気がついた」って言ったよな?」

「言ったけど」

「俺って気絶でもしていたのか?」

「もしかして覚えてないの?」

「ああ覚えていない。だから何があったか教えてほしい」

「実は私もよくわかっていないんだよね。ただ部屋の前で倒れていたお兄ちゃんを寝かせたのは私だよ。心臓の鼓動も感じられて、呼吸も安定しているので問題ないなと思って寝かせるだけにしたんだよ」

「そうか。それはありがとうな」


 自然と手が伸びてレイネの頭をなでていた。その事に違和感を覚えるリンネ。リンネ自身、幼い頃ならまだしも、レイネの頭をなでたことがないはずだ。それなのに自然と手が動き頭をなでていた。無意識にしたことだからこそこの今のリンネの肉体は普段からやり慣れているのだろうと。


 目覚めてから今までの事を思い浮かべ、今のリンネの肉体は本来のリンネとは違う肉体だと言う結論にたどり着いた。という事になると、なぜこのようなことが起きたのか。ただ少しだけ似たような物を最近見た覚えがあることに気がついた。


 それは、リオンに一度相談した様々な可能性の世界の存在だ。もしかすると今の状況はそういう別世界の、いわゆるパラレルワールド的な世界の別のリンネの体に自分の意志が入っているのだろうと。


 そして結局、この状況からもとの自分に戻るにはどうしたら良いのだろうか? と次々と情報を頭を過ぎ去った。


「レイネ、コーヒーごちそうさま。ちょっとまだ本調子じゃないから部屋で休ませてもらうよ」

「わかりました。それではゆっくり休んでくださいね、お兄ちゃん」


 そう言ってレイネは自然な動きでリンネと唇を重ねる。あまりにも自然すぎて避けることも出来なかった。そして唇を重ねると同時にワルキューレ化するのではないかと考えたが、そう言った兆候もなく唇が離れた。


 レイネはそれ以上何の反応もなくコーヒーカップを片付け始める。レイネの反応やリンネの体がキスに対して特に反応をしていない事から、この世界の二人は普段からそういった行為をしているのだと、うらやまけしからんと思っていた。

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