第123話 偽銀
原初ダンジョン五十階層ボス部屋。
リンネたちはそこに辿り着いていた。そのリンネたちの前にはボスが立っている。その敵の姿は、リンネと瓜二つの容姿をしていた。他にもレイネやアカリにミレイ、ライチにアズサ、そしてサキナと瓜二つのものもいる。ただミノ太郎の相手だけはいないようである。
「ドッペルゲンガーってやつかな?」
「見た目は同じようですが、流石に装備までは同じ物ではなさそうですわね」
ミレイが言うように、ドッペルゲンガーと思わしき敵たちの装備はどれもがサキナが作ったものとは比べようもないほどの物のようだ。
「装備のさはわかったけど、腕前はどうなのだろうね」
『戦ってみたらわかるよ」
「確かに」
レイネの言葉に頷きながらリンネもサキナ製の武器を手にとる。
「それで相手をするのは自分自身でいいのかな?」
「それが混乱しなくていいかな?」
「みんな聞いての通り戦う相手は自分の姿をとっているドッペルゲンガーだ。装備の差があるから負けることはないだろうけど気をつけて。
「「「はーい」」」
実のところ、リンネが誰かとワルキューレ化してしまえば簡単に事は済んだと思われる。だがリンネたちは、それぞれが自分の分身とも言える存在と戦うことに決めた。
どのドッペルゲンガー達も、装備が同じだとしたら見分けがつかないほどにそっくりに出来ている。そんなリンネのドッペルゲンガーを見て、持ち帰りって出来るのだろうか? などと不届きなことを考えている者がいたとかいなかったとか。
装備の差はあるとしても、ドッペルゲンガーの戦闘スタイルは本人とまったく同じと言って良いだろう。
「この私にそっくりなの、結構強いよ!
アカリが拳同士を打ち付けあい、難なく自分の攻撃を捌くドッペルゲンガーにに対して驚きを隠せないでいた。ただやはり装備の差は大きいのか、最初は拮抗していた戦闘も気がつけばドッペルゲンガーが倒され、泥となり消えるという結果になっていた。
「いやー、意外と強かったね」
レイネの言葉に皆が頷く。
「こう自分自身と戦ってみると、自分の悪い部分がなんとか分かるな」
リンネが武器を鞘に収めてそう呟いた。全てのドッペルゲンガーを倒し終えたことで、宝箱と先に進むゲートと帰還用のゲートが出現する。早速宝箱を開けてみると中には一本のインゴットが入っていた。
「インゴット? なんだろうこれ? サキナさんわかります?」
「見てみるよ」
レイネが宝箱からインゴットを取り出してサキナに渡す。
「これは……。私も見たことがないかな?」
「売るもの?」
「売るにしてもなにかわからないと売れない気がするけど」
仮に何かがわからずに売ったとして、これの価値がわからないままだと騙されないとも限らない。
「とりあえず外に出て、誰かに聞いてみるのが良いかな?」
「そうですわね、サキナさんがわからないとなるとわたくしたちにもわかりませんわ」
「五十階層の宝箱だからきっと良いものだと思うけど」
「もしかしてオリハルコンとか?」
「流石にオリハルコンが出るには五十階層はまだまだ浅いきがするけど」
「確かにねー、サキナさんはオリハルコンって見たことありますか?」
「残念ながら私は見たことがないね。おじいちゃんなら見た事あるかも」
「それだ。サキナさんのおじいさまに聞いてみるのが一番確実かも」
そう言う結論が出たところでリンネ帯は帰還することに決めた。忘れ物がないかを確認して順番に帰還用ゲートに乗り込んだ。
◆
「ふむ、これはミスリル銀じゃな」
「ミスリル銀ですか? 高価なものだったりします?」
「値段はわすれてもうたが、高くはなかった気がするぞ。ミスリル銀は別名偽銀と言われていて、余り市場には出回らない。だがどうしても使い方を発見するという意気込みで、研究しているものもいる」
「おじいちゃん、もしこれで何かを作るとしたら何を作ったら良いかな?」
「このミスリル銀じゃがな、金属のように見えるが金属ではない」
「それってどういう……」
サキナの祖父は手元にあるハンマーでおもむろにインゴットを叩いた。その様子を見ていたリンネたちは、叩かれたインゴットから返って来るはずの金属を打つ音が聞こえて来なかったことに驚きを見せる。
「見ての通り、偽銀というのは木材系の素材になる。故にハンマーで叩いたとしても金属を打つ音はならないのだよ」
「加工方法はわかる?」
「これの面白い所は他の金属と同じで、炉で熱し叩けば他の金属素材と変わらないということになる」
「つまりは杖なんかの木製武器に使えるってことだよね。サキナさん試しにうちの作ってくれないかな?」
「弓もお願いします、です」
サキナとアズサがサキナに頭を下げている。
「んー、わかった。やれるだけの事はやってみるよ。でも余り期待しないでほしいかな。初めて使うものだからね」
こうしてサキナは新たな素材へ挑戦することになった。一方リンネたちはサキナを抜いたパーティで、偽銀を探すためにダンジョンの五十階層へと再び潜ることになった。どうやら五十階層には偽銀が必ず出現する、いわゆる固定報酬になっているようだった。