第116話 新クラス
ミノタウロスはうまくムチの攻撃を避けたように思われたが、サキナは手首をわずかに動かすことでムチの軌道をわずかに変えることで正面からではなく横面に当てることに成功していた。
「やった……やった!」
「サキナさんすごい」
喜ぶリンネたちだが、ミノタウロスが気絶をしていたのは一瞬の事ですぐに目を覚まし立ち上がった。
「ブモォォォォ」
よくやったというようにミノタウロスは声を上げ、手に持っていた戦斧を地面につきたてた。そしてゆっくりとした動作でサキナの下へ歩いていく。そんなサキナを守るようにリンネたちが前へ出るもミノタウロスからは攻撃をする意志が感じられないことに戸惑いを覚えた。
ミノタウロスはそんなリンネたちの横を通り、リンネ達もミノタウロスの雰囲気に飲まれたのかそのまま横を通り過ぎるのを見送る。ミノタウロスはそのまま進み、サキナの眼の前で立ち止まった。サキナはそんなミノタウロスをただじっと見つめている。
そしてミノタウロスは唐突にその場でお腹を上に向けて寝転がった。いわゆるへそ天というものになる。ただしミノタウロスがそのようなことをしても全くかわいくない。筋肉ムキムキのミノタウロスがヘソ天をしても全く可愛さを感じないどころか気持ち悪いという感想しか出てこない。それを見つめるサキナの目からはハイライトが消えているように見える。
ピコンという音はならなかったが、サキナを含むこの場にいる全員のμαにメーッセージが映し出された。
<ミノタウロス特殊個体が仲間になりたそうにこちらを見ています。仲間にしますか? YES or NO>
と表示されていた。
そのメッセージを素早く確認したサキナは何のためらいもなくNOを選択する。そうすることで一度メッセージが消えたが、再び同じメッセージが表示されることになる。
サキナは再びNOを選択するが再びメッセージは消えるもすぐに表示されてしまう。リンネ達も同じようにNOを選択するが結果は同じようだ。そんな中リンネだけはこんな感じで選択肢がループするレトロゲームがあったなーと考えていた。
「このまま放置で帰るか、とどめを刺せばこれ消えるかなー」
サキナが何やら不穏な事をつぶやいているのが聞こえたが、リンネたちは特に止めようとは思わないようだ。
「それも手ではあるけどわざわざμαを通してこんなメッセージが表示されるのにはなにか意味があるのではないかしら?」
ミレイのその言葉に、それもあり得るのかと思いわするものの、ここでYESを選択するのはためらわれる。
「リオンさんがいればなにか指針の一つでも教えてくれそうなんだけどな」
「確かにね、そもそもモンスターって仲間にできるものなのかな?」
「ボクたちの知らない所でテイマーみたいなクラスがあるのかもしれないね」
「そうですわね。そもそもクラスにしてもよくわからない物も多いですからね」
あーでもないこうでもないと、へそ天しているミノタウロスを視界に収めないように議論しているリンネ達。結局答えは出ないまま時間が過ぎていく。ここまできてしまえば今日のタイムアタックはここで終了となると考えている。
「あっ……」
そんな中、ひたすらNOを連打するように視線で選択をしている死んだ魚のような目をしていたサキナがそう言って動きを止めた。
「サキナさんどうしの?」
そう言いながらリンネの視界に映ったままの選択肢が目に入った。
そこには<ミノタウロス特殊個体が仲間になりたそうにこちらを見ています。仲間にしますか? YES or はい>となっており、はいの部分が選ばれたことを示すように点滅を繰り返していた。
「どうしよう」
泣きそうな声でそう言ったサキナの視界からメッセージが消え、新たにメッセージが表示された。
<おめでとうございます。新たなクラスを獲得しました。この時を持って【調教師】及び【テイマー】のクラスが開放されます。>
「これってもしかして新しくクラスが生まれたってことになるのかな?」
「そういえばクラスが発見された時代には頻繁に新しいクラスが生まれていたって授業で習ったね」
「つまりこれはそういうことですのね」
あえて全員がミノタウロスから視線を外して会話をしている。いっぽうのミノタウロスはへそ天の状態から立ち上がり、未だに立ち直れないでいるサキナの前でひざまずいている。その姿だけを見れば、騎士の叙勲を受けている場面にも見える。
「あーもう分かったわよ。詐欺みたいな方法だけど選んじゃったからには諦める。それであなたは一体何なのよ」
キレ気味にサキナがそう言うと、ミノタウロスからかすかに意思のようなものが流れてくる。結果的にサキナがテイムしたことになっておりパスのような物が繋がっているようだ。
「名前、名前ね。よしあなたは今日からミノ太郎よ」
「「「……」」」
流石にそれはどうなんだろうと、この場にいるサキナ以外の意見が一致した瞬間であった。
「ブモォォォォ」
ただ等の本人、本牛? はその名を気に入ったようであった。





