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第115話 サキナの戦い

 四十階層ボス部屋に相当する特殊階層ボス部屋は今緊縛……ではなく緊迫した空気に包まれている。


 一人敵と向かい合っているのはムチを片手に持ち構えている刀燐サキナである。その後ろではリンネたちがなんとも言えない表情で待機している。


「えっと、その、皆でささっと倒してしまわない?」


 少し遠慮がちにレイネがサキナに声を掛ける。


「ごめんなさい、なんとなくなのだけどあれとは一度戦わないといけない気がするのよね。嫌だけど、すっごく嫌だけど」

「あ、はい。えと危なくなったら乱入しますね」

「その時はお願いね」


 サキナが一歩前へ進む。敵もそれに合わせて進んで来る。サキナと対峙しているのは一匹のミノタウロスである。はち切れそうなほどの上腕二頭筋、最初に遭遇した時は貧者であった下半身は今となっは上半身と遜色ないほどの筋肉質へと変わっている。


 その身の丈ほどの両刃の戦斧を両手で持ち、その歩みには迷いがない。その身を包むはボンテージで、浮かべている表情がどこか恍惚としたものでなければこのなんとも言えない空気が漂うことはなかったであろう。


 ヒュッという音が鳴ると同時にミノタウロスの持つ戦斧がガキンという音を鳴らし震える。ミノタウロスはサキナの攻撃を防いだものの革製のムチとは思えないほどの威力が戦斧を通して伝わったのかその笑みを深める。


 サキナのムチの攻撃は縦横無尽という言葉が会うほどだ。正面だけでなく上下左右にムチを振るいその軌道は変則的でミノタウロスを翻弄しているようにも見える。ただすべての攻撃をミノタウロスはかなりの重さがあろう戦斧で的確に防いで見せている。


 サキナ自身侮っていたわけだはないが、ここまで攻撃を防がれるとは思っても見なかった。いやむしろすべての攻撃を自らの肉体で受け止めるものだと思っていた。どこからどう見てもただの変態にしか見えないミノタウロスなのだが、その戦闘能力は特殊階層四十階層に見合った強さを持っているということだろう。


「思ったより強い、こうなったら私も本気でいかせてもらうわ」


 サキナはそう言うと一度仕切り直しとでも言うようにミノタウロスから距離を取るために後ろに跳躍する。一方ミノタウロスはムチでの攻撃がやんだ隙に頭を下げ、角を正面に向けると駆け出した。


 サキナはギリギリのところで攻撃を回避しながら、ミノタウロスと位置を入れ替えるように反対方向へ移動し収納のブレスレットからもう一本ムチを取り出した。


 ヒュッという音が二重に鳴りミノタウロスを襲う。さすがのミノタウロスもムチ二本による攻撃を防ぐことは出来ずにその身に受けることになる。


「ブモォォォォォ」


 サキナの攻撃によりミノタウロスの体には無数の傷が出来上がっている。ただしミノタウロスの表情はどこか恍惚とした表情を浮かべている。ミノタウロスはムチでの攻撃を戦斧で防ぐことを諦めたのか再び頭を下げてサキナへと向かい突撃をする。


 サキナはここぞとばかりにそのミノタウロスの頭頂部へと二本のムチで攻撃を加え続け、ミノタウロスの突撃に合わせて再び回避しすれ違う。


「あれって当たってない?」

「あのミノタウロスかすかに頭を反らしているよね」


 リンネとレイネが言うようにサキナによるミノタウロスの頭への攻撃は、その頭頂部に当たること無く肩や背中に当たっている。頭頂部の攻撃は危険だと思っての行動だろうが、ムチが頭に当たる瞬間かすかに頭を動かし逸らすことで直撃を回避している。そしてサキナの頭を狙った攻撃は打点がずらされることで威力が減少し肩や背中に直撃しても威力は落ちているようである。


「流石に頭に当たると脳震盪になるかもしれないからだろうね。それはサキナさんの攻撃が正確だから可能なんだろうけど、思ったよりもあのミノタウロスすごいね」

「だけど気持ち悪い、です」

「そうですわね。どうしてああなったしまったのでしょうね」


 それはきっとミノタウロス自身にしかわからない、永遠の謎というものなのかもしれない。


 サキナとミノタウロスの攻防が続く。一見ダメージを受けること無く一方的に攻撃をしているサキナのほうが有利に見えるが、大したダメージを受けていないミノタウロスとムチを振るい続ける事で両腕に疲労がたまり続けるサキナ、どちらが優勢なのか微妙なところだろう。


「はぁはぁ、そろそろ限界かもしれない」


 そのサキナの声を聞いたのかミノタウロスがムチの届かない距離まで下がり立ち止まる。


「ブモォォ」

「分かったわ、次が最後ね。私があなたの頭に当てることができれば私の勝ち、もし無理だったら私たちは撤退して出直すってことでいいのね」

「ブモォォォォ」

「ええ、それじゃあやりましょうか」


 サキナは二本目のムチを収納に入れて、ムチを構える。


「えと、なんだか会話しているように感じたんだけど」

「何か通じるものでもあったんじゃないかな?」


 突然ミノタウロスと意思疎通を初めたサキナを疑問に思いながらも、最後の勝負を見守るリンネ達。


 ミノタウロスが何度も足で地面を蹴り突撃の準備を始める。


「ブモォォォォォォ!」

「来なさい!」


 一人と一匹、駆け出すミノタウロス、ムチを振りかぶり迎え撃つサキナ。サキナの攻撃はミノタウロスの頭に向かい空気を切り裂く。ミノタウロスは頭を軽く逸らすことでムチを避けニヤリを笑みを浮かべ……その場に倒れた。

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