第114話 壁は高い
「うりゃーー」
アカリがゴブリンキングへと連撃を繰り出す。対してゴブリンキングは余裕の笑みを浮かべながらアカリの攻撃を幅広の直剣で軽々と受け止めた。学園のダンジョンで初めて遭遇した時とは違い、ゴブリンキングの動きには一切の制限がないようだ。
アカリとゴブリンキングの戦いは何度か行われている。ただアカリがピンチになると周りが助けに入るので未だにアカリ一人で倒すことは出来ないでいた。それでもアカリは何度でも単独でゴブリンキングに挑んでいる。
ゴブリンキングは直剣を振るうと、アカリは手斧で受け止めつつ後ろへ跳躍することでゴブリンキングの攻撃を利用して距離を開ける。
「ふぅ……、ブレイブヒート!」
スキルを発動したアカリの体から赤い色のオーラが立ち上る。最初の頃は武器にのみオーラを纏わせていたのだが、スキルを使いこなせるようになった今は体全体にオーラを纏うことが出来るようになった。その御蔭で身体能力も上がり、攻撃力と素早さそして耐久もアップしている。
アカリの姿が一瞬ぶれるようにその場から消えたように見えた。そのすぐ後にゴブリンキングが直剣で再びアカリの攻撃を受け止め弾く。ズザザと靴底を滑らしながら後退するもすぐさまその姿はその場から消え再びゴブリンキングへと攻撃を加えている。
リンネ達にはそのアカリの姿を正確に捉える事は出来ていないが、ゴブリンキングは獰猛な笑みを浮かべながらも対処している。ただしゴブリンキングも防ぐだけで攻撃をしていない。アカリの素早い攻撃に反撃をする暇がないというわけではなく、アカリの動きを見極めているようにも見える。
ゴブリンキングの周りを飛び回るように駆けながら攻撃をしているが、ゴブリンキングの防御を崩せそうになかった。そして時間だけが過ぎアカリのスキルブレイブヒートの効力が消えた。
「これでも強くなったつもりなんだけど相変わらず理不尽だね」
初遭遇した時はダンジョンに囚われていたゴブリンキングだったが、ここ始原ダンジョンではそういったことはない。そのために初遭遇したあの時よりも確実に強く感じられている。アカリ自身も力をつけて入るがその差はまだ開いているようだ。
「アカリどうする? 俺達も手伝おうか? そろそろ時間も迫っているし」
「あー時間切れか、皆お願いするよ」
特殊ダンジョンのボス戦に関するタイムアタックの制限時間はだいたい分かるようになっている。今なら速攻でゴブリンキングを倒すことで時間が間に合うギリギリといったところだ。
「キング、今回はボクの負けだけどまた挑ませてもらうよ」
アカリはゴブリンキングに悔しそうにそう宣言してから、リンネたちとともにゴブリンキングへと再び攻撃を再開する。
ゴブリンキングが一瞬頷いたような気がしたが、リンネたちの攻撃をいなし始めたために本当に頷いたのかはわからなかった。
「ステップ」
リンネがステップを使いゴブリンキングの側面へ周り攻撃をすると、その反対側に回り込んだレイネも攻撃を加える。ゴブリンキングはまずリンネの攻撃を直剣を大ぶりに横薙ぎすることでリンネを後ろに下がらせ、そのまま一回転するようにレイネの攻撃に対処して見せる。ただしゴブリンキングに出来た攻撃はそこまでだった。
「ダブルクロス!」
アカリが左右の手に持つ片手斧をクロスさせるように左右から振り下ろしゴブリンキングの首へと叩き込んだ。アカリの手斧もリンネやレイネたちの武器同様にサキナが出来る限りの強化を施している為に、威力は申し分ない。
ゴブリンキングは回転斬りをしたためにその動きを止めているため、アカリの攻撃をもろに首へと受けた。アカリは首を深く切り込むとゴブリンキングの顔を蹴りその勢いで再び距離を取る。
ゴブリンキングはその首への攻撃が致命傷となったようでその姿を泥へと変えて消えていった。泥へとなる前にアカリと視線が交差する。アカリからはゴブリンキングからは再戦を待つといった用に見えた気がした。
「あーもう、まだまだ対練が必要みたいだね。武器の威力は申し分ないけど攻撃を当てることが出来ないとだめだね」
「ブレイブヒートの動きにもついて行けていますし、やはりソロで倒すのは難しいのではないかしら?」
アカリのぐちにミレイが答えている。リンネでさえもその動きを正確に捉えることが出来ないブレイブヒートによる高速戦闘も対処して見せるゴブリンキングに一人で攻撃を当てなければいけないのはなかなかの難易度だろう。
「それでもいつかは一人で倒してみせるよ」
「もういっそのこと重量武器で押し切るとかどうだろう」
「ワルキューレになればそれもいいけど、ブレイブヒートを活かすならあまり重たい武器はね」
ブレイブヒートで筋力は増えるとはいえ、重量武器での攻撃だと高速移動ができなくなる。それにアカリには力で押し切ろうにもあのゴブリンキングには軽々と対処されるだろうと思っている。
「まあ色々試してみるのもいいかもしれないね」
「言ってくれれば新しい武器を用意するよ、いい素材も手に入ったからね」
サキナがゴブリンキングが残していった幅広の直剣を腕のブレスレットに収納しつつそう言った。
「サキナさんお願いできるかな?」
「別に構わないよ、アカリがもし使わなくてそのうち使うものが現れるかもしれないから色々な武器のストックは大事だからね」
「ドロップの回収も終わったから次へ行こうか」
「「「はーい」」」
相変わらずのぬるい返事とともに、ゴブリンの集団が落としたドロップ品を回収したリンネ達は次の階層へと向かうゲートをくぐっていった。





