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第109話 初詣に行こうか

「あけましておめでとうございます」

「「「あけましておめでとうございます」」」


 クリスマスが終わり、気がつけば新たな一年が始まった。リンネ以外の三人である、レイネ、アカリ、ミレイ、そしてライチとアズサは進路として、リンネのクランであるヴァルキュリアに所属することになっている。


 そのため既に出席日数もクリアしていることから学園へ通う必要がない。クラン立上げのため忙しく動いていたリンネも、クラン設立に対する一通りの手続きを終えたことでゆっくり出来るようになっていた。


「おせちを食べて予定通り初詣でに行ってみる?」

「外は晴れているし初詣日和ってやつだね」

「ボクも賛成かな」

「みなさんが行くのならわたくしも行きますわ」


 ダンジョン都市では初詣というイベントが無くなって久しい昨今、正月のこの時期でさえ神社へ行ったとしても人通りは少ない。ダンジョン都市の外では今でもそう言った旧来のイベントというものは行われているので、ダンジョン都市の内と外ではこういった事には温度差がある。


 ダンジョン都市内では、支払いのほぼすべてが電子化されているために、お賽銭というものがなくなっているためかも知れない。一時期はお賽銭を電子通貨で支払うといったことも行われていたが、それもいつしか廃れてしまった。


 そしていつしかお参りというものがされなくなっていったという経緯がある。元々信仰心というものが曖昧だった民族性というものも影響しているのかも知れない。ただ未だにクリスマスやバレンタインのようなものが残っている辺りは流石といえば良いのか、お祭りという物自体は無くならないようである。


「それじゃあ、お昼前に出て初詣をしてどこかでご飯を食べて帰って来るでいいかな?」

「お昼はおせちの残りじゃなくて良いの?」

「聞いた話だとおせちは三が日の間に食べるものらしい、本当かどうかは知らないけど」

「そうなんだね、確かに一回で食べるには量が多いね」

「だからアカリは無理して食べきろうとしなくていいから」

「あ、あはは」


 アカリは笑いながらごまかすように箸を置いて重箱の蓋を閉じる。


「えっと冷蔵庫にはいるかな?」

「一つにまとめたほうが良いかも知れませんわね」


 冷蔵庫の中身を思い出しながらミレイがそう言うと、それぞれが残っている物を持ち寄り一つの入れ物へと集めた。共同生活を初めてもうすぐえ三年も経つ。今更誰が箸をつけたなどといった揉め事は起きない。


「これなら入るスペースはあるかな」


 重箱にまとめ終わった所で全員で手を合わせる。


「「「ごちそうさま」」


 リンネとレイネが中身の入った重箱を持ち、レイネが食べ終えた食器などを持ち台所へ向かう。今日の当番はレイネとリンネの二人になる。


「それじゃあ、先に出かける準備しておくね」

「わたくしも着替えてきますわ」

「わかった、洗い物が終わったら俺たちもすぐに用意する」


 アカリたちが二階へ上がっていくのを見送り、リンネとレイネは洗い物を済ませる。


「それにしてもどうして初詣に行こうなんていい出したの?」

「ただの思いつきけど、なんとなく行っておいたほうがいい気になってな」

「ふーん」

「それからスズネたちも神社に興味があるって言ってたから」

「そうなの?」


 レイネはリンネの肩に座っているスズネに声を掛ける。


「少しだけどういうところなのか気になっただけです」


 小さな妖精とも言えるサイズの少女が、リンネの肩から飛び上がると空中に浮きながらレイネに応える。


「んー、神社って特になにもないと思うけど、ダンジョンが出来るまではお正月になると屋台とか出て賑わってたみたいだけどね」

「それは寂しいことなのかも知れないですね」

「ダンジョンが突然現れて、覚醒者が出始めてそれどころじゃなかった時期があったって学校で習ったな。それにダンジョン都市の出来た事で外と一時期隔絶されていたというのもあるかもな」


 ダンジョン都市の生まれた最初の理由は、表向きには覚醒者と未覚醒者との軋轢を回避するための保護と言われているが、実際の所は覚醒者の隔離という方面が強かった。いつしか覚醒者の数と未覚醒者の数が逆転し、海外からの資源が入りにくくなりいつしか途絶えることとなった。


 そのうち魔石や魔物の素材を資源としての活用法が見出され、それと同時に未覚醒者がそれらに長く接触することで覚醒が促される。その事がわかると未覚醒者、主に権力者は率先してダンジョンやそれに関わるものから離れていった。


 その結果、資源が潤沢にあるダンジョンとは生活、技術、インフラが充実し、ダンジョン都市から距離を取った者たちは乏しくなっていく資源で生活するようになった。そんな生活に限界を感じ始めた富裕層の未覚醒者の一部は、最終的にダンジョン都市へ居を移すがダンジョン都市内での権力を持つことは叶わず市井へと埋もれていくことになる。


 俗に言う紙幣やダンジョン都市の外でしか機能しない電子資産などは、ダンジョン都市内では全くの無価値なものと扱われたためである。ダンジョン都市の中でのみ生活する者たちにとってダンジョン都市外の土地など提供されても困るというものだ。


 未だにダンジョン都市の外で生活しているものは、富裕層の中でも旧来よりその土地に根付いていた者たちになる。そういう訳で、ダンジョン都市の外では初詣などを初めとした旧来の神事などは受け継がれていたりする。


「それじゃあ行こうか」

「「「はーい」」」


 着替えを済ませ色違いのコートを着たリンネたちは、いつもどおり気の抜けるような返事をしながら家を出た。

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