第107話 サキナの一撃
「乱れ咲け、咲産華!」
大量のゾンビの群れに向けてサラの攻撃が放たれる。ゾンビ自体は大して硬いということもなく、一つ一つが小さい弾丸へと分かたれた攻撃であっても一撃で倒すことが出来ている。
ただそれでもソンビの数は減っているようには見えないでいた。スズネも斬撃を飛ばしサラほどでもないがゾンビを倒し続けているが、焼け石に水とはこういう状況を言うのかも知れない。
「これはどこかに核となる魔物がいるのかも知れませんわね」
「問題はそれがどこにいるかかな?」
ミレイとアカリが言うように、減る気配のないゾンビの群れのどこかにこれらのゾンビを操っている核となる魔物がいるというのは分かる話だ。ただその魔物がどこにいるのかを探すのが難しい事になる。
結局当たるに任せてサラが標的を絞らに攻撃を続けているが、特に変わった反応をする魔物の気配を感じられずにいる。攻撃に参加していない後輩の三人やサキナも突破口を見つけようと変わった場所はないかと探しているが未だにわからずにいた。
「見つけ、ました!」
それに気がついたのはサキナだった。ふと見た時に違和感を感じた事が何度かあった。ただ違和感を感じ見直したときにはその存在は感じられなくなっていた。ただその違和感も十数回と続いた時見つけ出すことが出来た。
「サキナさん、対象はどこにいますか?」
「いままた見失いました。だけど次に見つけた時は確実に仕留めてみせます。なのでサラさんは今のようにゾンビを倒し続けてください」
そう言ってサキナは腕輪の収納からボウガンを取り出した。ただ普通のボウガンとは違い全て金属でできている。よく見ると弦自体もメタリックな光を放っておりただのボウガンでないことがわかる。そして矢のボルトも全て金属となっている。
そのボウガンはサキナがふとした思いつきで作り出したものになる。全てが金属とはいえ重さは見た目ほど重くはない。サキナはこのボウガンをいかに軽く、そして威力も兼ね備える事をコンセプトに作り出したものだ。
サキナは片膝立ちになりボウガンを構える。狙うは違和感を感じたゾンビが不自然に下げていたロザリオになる。そのロザリオは何度か目についていた、だがそれに気が付き見直したときには無くなっていた。それが何度か続いた時にそのロザリオが頻繁に移動していると気がつくことが出来た。
サラとスズネが攻撃を続ける中、サキナは集中してただ前方の一箇所を見ている。あちらこちらに視線と照準を彷徨わせても意味がないと思っての選択になる。同じ姿勢のままターゲットを絞り待つ時間は永遠のように感じられる。
一分が過ぎ、五分が過ぎ、十分が過ぎ……、そしてその時はやってきた。サキナの指が引き金を静かに引くと音もなくボルトが放たれる。そのボルトは不思議なことに、狙いを定めていたゾンビの胸元にロザリオが現れたと同時にボルトが刺さり砕けちった。
ロザリオという存在がこのボス部屋の核だったことを示すように、大量に溢れていたゾンビの姿が全て泥となり消えさる事になった。
「サキナさんすごいです」
スズネが疲れたのかその場に座り込みながらサキナに賞賛を送っている。
「よくわからなかったけど何が核だったのですか?」
結局サラには何が核だったのか最後までわからなかった。そのことは遠距離職として少し負けた気になっている。それもブリュンヒルドという規格外の力を持っていたことも特にそう思わせられているのかもしれない。
「合っていて良かったよ。なんかゾンビなのにたまにロザリオを下げているゾンビがいてね、それをよく見ているとサラやスズネの攻撃を避けるように移動しているのがわかってね。もしやと思って狙ってみた結果だね」
「それにしてもサキナさんのそのボウガンかっこいいですね」
全てが金属でできたボウガンに何か感じるものがあったのか、ナルミが興味深そうに見ている。
「持ってみるかい?」
「いいのですか?」
ナルミは差し出されてボウガンを受け取りまずはその軽さに驚く。
「これってずいぶん軽いですけど何で出来ているのですか?」
「ふっふっふ、それはね全てオリハルコンと言われているもので作ったものだよ」
「オリハルコンですか、えっオリハルコンってあのオリハルコンですよね」
「といっても砂粒のようなものを地道に集めて使っているので、全てがオリハルコンというわけでは無いけどね。これだけの物を集めるのに五年はかかったから役に立ってよかったと思うよ」
「すごいですね」
試しに弦を引いてみたナルミはそのあまりの軽さに更に驚いている。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
サキナはナルミからボウガンを受取り収納に直す。その頃にはワルキューレ化と解いたリンネとレイネに、ブリュンヒルド化を解いたライチとアズサも合流をしている。
そんなリンネの肩には疲れ切ったというような雰囲気のスズネがぐったりとしている。あまり見どころのなかった久しぶりのワルキューレ化で疲れたのだろう。
「結局今回のタイムアタックはここで終わりかな?」
レイネがそう言うと皆が仕方ないという反応を返す。流石にこのボス部屋に入り一時間を経過してしまっているので、次の階層は通常に戻るだろうと予想をした。実際に次の階層へ言ったときには通常の十一階層になっていた事から、特殊階層はいかに早く突破するかにかかっていると実感を得られた事が苦労してゾンビ軍団を倒した唯一の成果だったのかもしれない。