第106話 スリラーは踊りません多分
「いやーーーー、あれは嫌ーーーー」
ボス部屋にスズネの叫び声が響き渡る。五階層のボスを倒し特殊階層へとたどり着いたリンネたちはボス部屋への直中回廊を通り、階層としては十階層とも言えるボス部屋にたどり着いていた。
そしてリンネとレイネそしてスズネは意気揚々とワルキューレとなりボス部屋へと突入を果たしたわけだが、問題は中にいたボスである。この階層のボス部屋も特殊階層らしく変わり種が用意されていたようで、それが目の前の参上であったりする。
「臭いしぐちゃぐちゃだし斬りにくいし、斬っても簡単に死なないしあれはわたしの天敵ですよーー」
「そんなこと言わないでせっかくワルキューレになったのだからさくっとね」
「そうですわ、タイムアタックをするのでしょう?」
「でも、だって、あれは……うぅ」
そうは言いつつも諦めたどこからともなく薙刀を取り出して構えスズネは手前へ出る。
『俺が変わろうか?』
「いえここは久しぶりの出番なのでわたしがやります」
『わかった、無理だと思えばすぐ変わるからな』
「はいありがとうございます」
他の面々も見守る事を決めているというよりも、誰もあれを相手にしたくないというのが本音と言ったところだろうか。そんなスズネたちの前方には無数とも言えるほどの数の腐った死体、いわゆるゾンビがうめき声を上げながら歩いてきている。
実のところリンネたちはアンデッド系の魔物とあったのは初めてではない。学内のダンジョンでも何度か遭遇したことはあるが、まともに戦うといったことは殆どなかった。だいたいが遠距離からの攻撃で対処しており、試しにゾンビ系の魔物と戦ったときには腐肉が武器にこびりついたり散々な目にあっている。
その状況を知っているからこそスズネは刀ではなく薙刀という少しでも離れて攻撃出来る武器を選んだのだろう。
「ふぅー、行きます!」
スズネは一度大きく息を吐いてゾンビの大群へと向かい走り出す。まだ接敵までの居類はあるがスズネは片手に持つ薙刀を大きく横るう。
『斬り裂け、桜花一閃』
薙刀の刃から桃色の斬撃が横一線に放たれてゾンビの集団に飛んでいく。その斬撃に触れたゾンビはすぐさまその身を泥に変える。それを見たスズネだが思ったよりもその評定はすぐれないでいる。
それもそのはずで、ゾンビの数は一向に減っているように見えないからだ。むしろ倒したそばから増え続けているようにも見える。
「レイネママ、リンネママ、これはどう思います?」
『どこかにこのゾンビを生み出しているものがいるのかも知れないな』
『そうかも知れないね、ただどこにいるかは倒し続けないと駄目かな』
「はぁ、今回はタイムアタックは諦めたほうが良いかも知れないですね」
そもそもスズネは複数の敵を相手にするには向かないタイプである。こういった集団戦ならブリュンヒルドのサラのほうが大威力での一掃が向いているだろう。今回はボス部屋に突入する前にワルキューレ化をしたための失敗とも言える。
『今からでもライチとアズサにお願いするか?』
「むむそれが良いかも知れないですね、どう考えてもわたし一人ではいえわたしたちでは対処しきれないと思います」
そう言うと、スズネはもう一度斬撃を飛ばした後に皆が待っている後方へと一度下がっていく。ゾンビは相変わらずゆっくりとした歩みで向かってきていたが、横一線の斬撃によりその数を和賀ばかり減らしただけだった。
「すいみません、どうやらわたし一人では倒し切るのは難しいみたいです」
「あーうんボクもそんな気がするよ、仮にカリンだったとしても無理かな」
「リィンですとなんとかなったかも知れませんわね」
「ミレイさんとリィンなら向いていたのかも知れないですね」
曲がりなりにも聖職者のクラスを持つミレイならなんとかなったのかも知れないが今回は既にスズネが顕現しているために交代するわけにもいかない。
「そこでですね、ライチさんアズサさんそれとサラに手助けをしてもらいたいのです」
「うちとアズサに? まああの数やしそれがいいかも知れないね」
「わたしもそれがいいと思う、です」
『私も問題ないですよ』
ライチとアズサ、それからサラからも了承が得られたことで改めてスズネがお願いをする。
「それではお願いします。私は少しでも数を減らそうと思います」
スズネはそう言うと少しでもゾンビの数を減らすために再び薙刀を片手に持ちゾンビの集団へと向かっていった。そしてアカリとミレイに後輩三人が見守る中でライチとアズサは空中に浮くサラを中心にして見つめあう。
そしてライチとアズサはお互いに手を繋ぎながら瞳を閉じ、そっとお互いの唇を触れさせた。二人の唇が触れた瞬間ライチとアズサとサラを包み込むように光が溢れだしその身を包んだ。溢れ出した光が収まるとそこにはブリュンヒルドとなったサラが権限を果たしていた。
「久しぶりの出番です、乱れ打ちます!」





