第105話 紛れもなくヤツ……ではない
ボス部屋に飛び込んだリンネたちはボスの姿を確認することなく駆け出した。今回の目的はタイムアタックであり一秒でも早く倒すことが目的であり、仮に出てきた敵が件のミノタウロスであろうが関係ない。
ただ幸運? にも現れた五階層のボスはゴブリンジェネラルであった。その姿を確認したおり若干一名以外はこころなしかホッとしているように感じられる。ただ一名だけはここら残念そうにしており、走る速度を落とし手に持つムチを垂れさせている。
ゴブリンジェネラルは出現すると同時に配下を召喚しようとした。ただその行動は既に遅くゴブリンジェネラルが腕を振り上げたときにはその首は胴体から離れ地面へと転がると同時にその身を泥へと変えていた。
「よしっ!」
「負けたー」
結果としてはレイネがゴブリンジェネラルの首を切り飛ばし、アカリが一歩遅かったといったところだ。
「さてと結果はどうなるかな」
今までで最速と言ってもいい速度で五階層のボスを倒した事により、特殊階層へ行けるかどうか。ゴブリンジェネラルからは宝箱だけが手に入った。宝箱の中身は素材として使える属性石と呼ばれている魔石が入っていた。
この属性石は装備を作る時に粉状に砕いて混ぜ込むことにより防具に耐性や武器に属性をくわえることが出来る。ただ低級のものだと性能は大したものではないので装備品に使われることはない。
そもそも属性石の使い方が発見されたのが最近のことな上に、十全に使えるものがほとんどいない。では装備以外にどう使われているのかというと、使い捨てとしてダンジョン内で水を出したり火を付けるなどの用途として使われている。
リンネたちのように複数の物を収納できるブレスレットはまだまだ広まっていない現状、一番の重量とも言える水を持ち歩かずに済むというのは意外と大きい。他にもダンジョン都市の中であれば属性石を使えるということで、新たな発電として利用できないかという研究もされている。
ただ実現されるのはまだまだ先と言ったところだろう。発見される属性石自体が発電に使えるほどの数がないということや、発電施設としての新設などもなかなかと難しいようだ。
「ゲートは変わっているようには見えませんわね」
ミレイが言うように出現したゲートは、次へ進むゲートも帰還用のゲートもなんら変わっているものに見えない。
「なにはともあれくぐってみれば分かることだよ」
「そうだな、じゃあ行こうか」
再びリンネが先頭となり次へと進むゲートを潜り、それに皆が続いてくぐり抜けた。そしてたどり着いた場所は、過去に通った六階層とは様相が異なっているのがひと目でわかった。草原でも荒野でもないその場所は、石造りのこれこそダンジョンと言われそうな通路型のものになっていた。
「おー、成功かな? 成功だよね」
「そのようですわね」
「つまりはこの通路を進めば直接ボス部屋に行けるわけだな」
「そのはずだよ」
こういったダンジョンらしいダンジョンというものが逆に珍しいのか、キョロキョロと珍しげにナルミやヒビキたちもあたりを見回している。
「ボス部屋までは敵は出ないとは聞いているけど適度に警戒をしながら進もうか」
「そうだね」
リンネが念の為という感じで皆にそう言うと先頭にたち歩いていく。石造りの通路は曲がり角もなくただまっすぐと続いている。ただ距離はそこそこあるのかボス部屋に到着するまで一時間近くかかることになった。
「この通路もタイムアタックの対象だと面倒くさいね」
「その可能性もありますわね」
「そうなるとボスだけを早く倒しても駄目ってことになるのか」
ボス部屋前にあるゲートの前までたどり着いたリンネたちは、警戒をしながらも歩き続けたために一旦休憩をしようということで休みを取ることにしたようだ。それぞれが収納のブレスレットから背負カバンを取り出し、そこから水筒を取り出して水を飲んでいる。
「それで今回はスズネのワルキューレ化で戦っていいんだよね」
「そうだね、今回は譲るよ。ただし次のボス戦はボクとカリンだからね」
「それじゃあその次はうちとアズサとサラの出番やね」
スズネがレイネのそばで浮き上がり準備万端といった感じだ。
「ワルキューレ化をするから大丈夫だとは思うけど、それでも油断は禁物だからな」
「はい油断はしません、任せてくださいリンネママ」
スズネが可愛らしく手をピッと上げている。レイネもスズネのマネをするように立ち上がり片手をピッと上げて頷いている。その二人を見て大丈夫だろうかと不安になるリンネであった。
「それじゃあ突入前にワルキューレ化を済ませようか」
「「はーい」」
立ち上がったリンネとレイネは向かい合いお互いの目を見つめう。スズネが二人の中央に三角を形作るように浮いている。そしてリンネとレイネの唇がゆっくりと近づき触れ合うと同時に三人の姿は光りに包まれた。
まばゆい光に包まれたリンネとレイネとスズネの体は一つに溶け合い、光が収まるとそこにはワルキューレとしてのスズネの姿が顕現していた。