第100話 病
今年のバレンタインは昨年の惨劇を繰り返すことなく無難に手作りチョコをリンネと交換することで乗り切ったレイネだったが、今現在高熱でうなされながら部屋で寝ている。
バカは風邪をひかないという言葉があるが、どうやらそれは真実ではなかったようだ……、いや別にレイネが馬鹿だと言っているわけでは成績だけをいうなら優秀な部類に入る。ただ普段の行動があれなので勘違いされがちなだけである。
「けほっ」
「レイネママ大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。少し頭が痛くて寒気がして体中で関節痛がして食欲がなくて死にそうなだけだから」
「それは世間一般では大丈夫とは言わない気がします」
実の所レイネの症状は風邪なのかというと少し違う。そもそも覚醒をした人間はウィルスなどに対してはかなりの耐性を持っている。それでも全く病気にならないというわけではない。
症状としては一昔前に定期的に流行していたインフルエンザに似ているが今回レイネが苦しんでいる物は覚醒による後遺症とも言える。ただこの症状は出るものと出ないものにまず分かれ、出るものも覚醒したあと間もなく症状を発症し軽度の風邪程度で収まるものである。
それも一度かかってしまえば二度っとかからないという、はしかのようなものと言われている。レイネに関しては今までこの症状を発症していなかったために、重度の症状を受けているとも言える。
「みんなは?」
「学校に行かせたよ」
「はれ? リオンさん?」
「リンネくんに頼まれてね。リンネくんも未だにこの感染症にかかっていないようでな今のレイネくんを看病するわけにはいかないというわけだ」
「そう、なんだ」
少し寂しいと思うレイネだが、看病にかこつけてアレヤコレヤをやってもらえないのかという考えがよぎっているのは言うまでもないだろう。まあそこで考えるレイネではないわけで、ワンチャンリンネにうつせば看病にかこつけてアレヤコレヤが出来るなどといけない妄想をしていたりする。
「軽く診察したが今日一日安静にしていれば明日には問題なく治っているだろう。それまでは寝ていればいい。あとは水分を取って食事も少しは食べたほうが良いだろう」
「わかりました」
「今なら私が食べさせてあげられるがどうする?」
「えと」
「ちなみに作っていったのはリンネくんだ」
「食べます」
「ふふ、それが良いだろう辛いだろうが少し起こすぞ」
「お願いします」
「なら少し温めてこよう、その間スポーツドリンクでも飲んでいると良い」
リオンがレイネの背に手を回して上体を起き上がらせる。
「ずいぶん汗も書いているようだな、食事の後は着替えたほうが良いだろうな」
「確かに汗で背中が気持ち悪いですね。ベッドにまで染みてなければ良いのだけど」
「まあ着替えなどは後で手伝おう。まずは食事だな少し待っていてくれ」
リオンはレイネに飲み物を手渡し、階下へ降りていく。
「はぁこんなしんどいのいつぶりかな」
レイネの頭によぎったのはまだレイネが小学生の低学年の頃だっただろうか。あの頃は両親も健在だった。ただ忙しくしていて余り家に寄り付かなかったのを覚えている。その時は覚醒前だったので今とは違い病弱気味だったレイネは頻繁に寝込んでいた。そのためかリンネはよくレイネの看病をしていた。
「待たせたな」
リオンが部屋に戻ってきた時レイネは上体を起こしたまま寝てしまっていた。
「仕方がないな」
リオンは再び部屋を出てお湯とタオルを手にして戻って来る。レイネのパジャマを脱がしてお湯で濡らしたタオルで汗を拭い着替えさせる。流石に下には手を出していない。
「んん、おにいちゃん」
「リンネくんのことだろうか、昔の夢でも見ているのだろうな」
ささっと着替えを終わらせてから、レイネを再びベッドに寝かせる。
「どうやら熱は下がってきたようだな、もう問題ないだろう。リンネくんたちが戻ってきたら感染の心配はないと伝えて上げてほしい」
「わかりました、リオンさんはどうするのですか?」
「もう看病の必要はないだろうから帰らせてもらうよ」
「そうですか、わざわざレイネママのためにありがとうございました」
リオンが帰り、数時間後リンネたちが帰宅した。リンネはリオンからの伝言を受け取りレイネの部屋を覗くとまだレイネはねているようだったが、寝息は普段通りに戻っているようだった。
「んう、おにいちゃん?」
「ごめん起こしちゃったか」
「んーあっリンお帰り、なんか懐かしい夢を見ていた気がするよ」
目を覚ましたレイネは体を動かし調子を確かめてからベッドから抜け出す。
「もうバッチリかな」
「無理せずに寝てていいぞ。昼は食べなかったようだけど、なにか食べたいものはあるか? 重くないものが良いよな?」
「リンの作るのなら何でも良いかな、それよりも着替えたいからお風呂入ってくる」
「無理はするなよ」
リンネがレイネに近寄ろうとするとレイネは後ろに下がって逃げてしまう。
「?」
「その、汗臭いから、それにまだうつるかも知れないし」
「ん、あ、ああ、すまんそれじゃあ俺は飯を作るから風呂はいったら暖かくして寝ろよ」
「うん、ありがとう(おにいちゃん)」
昔の夢を見ていたためか、ついそう呟いていたレイネの言葉はリンネに届くことはなかった。
数日後同じ感染症にリンネが発症して、レイネを初めアカリやミレイアだけではなく、パーティーメンバーに甲斐甲斐しく世話をされ辟易したのは別のお話である。
沢山の誤字報告ありがとうございます。
漢字の変換間違いが多いようで恥ずかしい限りです。





