第5章 譲葉って意外と・・・
まずは更新が遅れてしまったことに謝罪を。申し訳ありません。
それから今回少し短めの上に前回言った戦闘がほぼ全くありません。
代わりと言っては何ですが、コメディー部分に力を入れてみました。・・・あれ、それじゃ今までと同じじゃね?
「うわわわわわっ!」
襲い掛かる無数のコウモリを振り払いながら翔輝は真っ暗な森の中を走り回る。
やっと全てを振り払い上空を見ると、そこには紅蓮の髪をした吸血鬼が月をバックに怪しく微笑んでいた。
「おいコラ!降りて来ねぇと斬れねぇだろうが!とっとと斬らせろ!死なねぇんじゃ無かったのか!?」
「嫌よ、死ななくても痛いんだから」
「だったら攻撃を止めろ!二つに一つだ、どっちがいい!?」
「第三の選択肢、『降りないで攻撃を続ける』にするわ」
「んな選択肢があるかああぁぁ!」
現在翔輝はレイによる指導と称したいじめの真っ最中である。
事の発端は一時間ほど前―――
『ヴァ、ヴァンパイア?』
『ええ。吸血鬼とも言うらしいけど、大体みんなヴァンパイアって呼ぶわ』
『れ、レイさん、何を言ってるんですか?きゅ、吸血鬼なんているわけ無いじゃないですか・・・』
『そんなあたしの存在を否定するようなこと言わないでよ。証拠だってあるわよ?ほら』
そう言ってレイはもう一度はっきりと笑ってみせる。そこには確かに、人間の犬歯とは明らかに違う鋭くとがった歯が上下に各2本ずつ付いていた。
『きゅ、吸血鬼ですよ!?アイルランド人作家ブラム・ストーカー氏の恐怖小説に出てくるあのドラキュラと同じってことですよ!?同じくアイルランド人作家のジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ氏の怪奇小説カーミラと同じってことですよ!?あるわけ無いじゃないですか!?』
『よくもまあそんなに変な名前がホイホイと・・・。相変わらずスゲェな、お前』
『な、何それ?そのブラムって人がファニュさんとやらのストーカーなの?それとあたしが同じ?失礼ね、あたしはストーカーなんかじゃないわよ!』
『そうじゃなくて、本当に吸血鬼かって話です!』
『嘘つく理由なんて無いし今歯見せたでしょ!これ以上どうやって証明しろって言うのよ!?』
『翔輝さんの血を飲んでください』
『ブッ!?』
すっかり傍観モードに入っていた翔輝は村を出る前にテリアにもらった水を飲んでいたのだが、予想外のタイミングで矛先が自分に向いたことに驚いて吹き出した。
『おやすい御用よ!』
『待て待て!他にいくらでも方法があるだろ、空飛べとかコウモリに変身しろとか!ってか何で俺!?』
『何言ってるんですか、人が空を飛べるわけ無いですし、コウモリに変身なんて質量保存の法則により不可能です。吸血鬼に実現可能なものなんて吸血くらいじゃないですか』
『何でお前はそこだけ冷静なんだ!?ってかその理屈を無視するから魔物なんだろ!?』
『ちょっと、あたしを取り残して色々話を進めないで!っていうかむしろあたしに話を進めさせて!』
『お前はちょっと黙ってろ!』
『黙るのは翔輝さんです。とにかく黙って吸血されてください。というか吸血されなさい』
『お前はどこまで上から目線だ!?』
『だからあたしを置いていかないでって言ってるでしょ!?』
そんなやり取りを四十分ほど延々続けた挙句、当初の目的を忘れた三人は十分間うなり続けた後思い出し、レイが説明を始めた。
『つまり、今確かにあなた達は力を手に入れたけど、使い方を知らないんだからまだそこら辺にいるアリ以下よ』
『いくら力が無くたってアリなんかに負けてたまるか!アリに負けるなんてもはや人じゃねぇだろ!』
『今はそんなことどうでもいいでしょ!?言葉のアヤよ。だから、練習がてらあたしを倒してみなさいってこと』
『そんな軽く言わないでくださいよ・・・』
『力があるならそんなに大変じゃないわよ。あたしそんなに強くないし』
『お前の言うことはどういうわけか信用ならん』
『つべこべ言わずとっととやるから外に出なさい』
『めんどくさいからヤダ』
『翔輝さん、つべこべ言わずとっとと出てください』
『譲葉まで・・・。第一お前戦闘なんて出来るのか?』
『あら?私が翔輝さんに運動で一度でも負けたことがありましたかしら?』
『・・・無かったっけ?』
『ありません』
『何翔輝、あんたこんないかにも「か弱いですよ~」って感じの子にも勝てないの?』
『外で特訓すりゃいいんだな?とっとと行くぞ』
『逃げたわね』
『逃げましたね。ところで魔闇さん、さっきから飲んでいるそれは何ですか?』
『ん?ああこれ?昨日捕まえた鹿の血。あっちの冷蔵庫にまだ数本あるけど譲葉も飲む?』
『遠慮しておきます!!』
というやり取りを終え、冒頭の部分へと戻るのだが―――
「翔輝~あたしもう疲れた。とっとと練習終わろうよ~」
「てめぇもう黙れ!」
「翔輝さ~ん。ぶつぶつ文句ばっかり言ってないで頑張ってくださ~い」
再度襲い掛かってくるコウモリを何とか追い払い、翔輝は譲葉の方を睨む。
その先には木にもたれかかり何かの本を読んでいる譲葉の姿があった。
「そんでもって譲葉お前は何やってんだ!?」
「見て分かりませんか?本を読んでます」
「理由だ理由!練習しようって言ったのはお前だぞ!?」
「そんなことは一言も、一秒も言っていません。私はただ単に『やってください』もしくは『やりなさい』と言っただけです」
「その時点でふざけんな!第一力を使う特訓をしなきゃいけないのはお前も一緒だろ!?」
「力を使うための特訓?ごめんなさい、私の目がおかしいのでしょうか?私にはどう見ても翔輝さんのなさっている特訓は攻撃を避ける、もしくはヘタレる特訓に見えるのですが・・・」
「ケンカ売ってんのか!?どこから来るんだお前の暴言は!?」
「悪意90グラム、嫌がらせ5グラム、人をバカにする優越感3グラム、軽蔑2グラム、愛情1グラムに冗談1グラムで私の暴言は構成されています」
「何だよグラムって、って言うかほとんど悪意じゃねーか!」
「あ、でもこれじゃ100グラムピッタリになりませんね。訂正します、悪意90グラム、嫌がらせ5グラム、人をバカにする優越感3グラムに軽蔑2グラムです」
「その二つを抜くな!それを抜いたらお前はただのSじゃねーか!?」
「心配しないでください。大丈夫です、ただのSではなくドSですから」
「何がどの辺が大丈夫!?微塵も大丈夫じゃねーよ!」
「何だったら悪意を殺意に変えてもよろしいですよ?」
「俺にいったい何の恨みがあるんだ!?」
「先日ジャンケンに負けたことですかね?」
「いつの話だ!?しかも何で質問形!?」
「まぁぶっちゃけ特に理由は無いです」
「ねえのか!?っつーか、とっとと参戦しろ!」
「嫌です」
「何で!?」
「今勉強中だからです」
「何の!?」
「何って、力のですが何か?」
「・・・待て待て、何?」
「だから、私の『時の延長』の能力について読んでるんです。意外と面白いですよ」
「・・・さっきから気になってはいたんだが、その本は何だ?」
「あぁ、これですか?説明書です。先ほど魔闇さんにいただきました」
「オイ、レイ!」
「何よ?」
「俺の説明書は?」
「『見つからなかった、ゴメンね♪』だって」
「神アノヤロー。差別だ」
「それは人種差別ですか?性別差別ですか?それとも翔輝差別ですか?」
「翔輝差別って何だよ!?」
「翔輝さんだけを差別する特殊な差別法です。5年ほど前に私が考案して実行しています」
「実行するな!っていうかそんな昔から俺は差別されてたのか!?」
「気付きましょうよ」
「無茶言うな!っていうかとっとと働け!」
「働くんですか?申し訳ありません、私の視力が悪いのか翔輝さんの頭が悪いのか、この辺りには工場も会社も見当たりません・・・」
「お前はもう黙ってろ!」
「了解しました。ただしその『黙る』は体も黙るという意味で受け取るので、結局さっきの状況に逆戻りですがよろしいですか?」
「じゃあ黙って参戦しろ!」
「いいですよ」
「だから何で・・・っていいのかよ!?」
「本の内容は大方把握しました。そろそろ実践に使ってみようと思っていたところですし」
「ああそう。ちなみにどんなことが出来るわけ?」
「今現在確実に出来ることなら一つあります」
「それは?」
「翔輝さんの重大なミスを指摘することです。ついでに頭の無さも」
「頭の無さってなんだよ?って言うかそれ以上にミスってなんだ?」
「順を追って説明しましょう。翔輝さんの能力は『刀剣の増殖』でしたよね?」
「そうだったな」
「えぇ、しかし翔輝さん、肝心の刀剣はどうしました?」
「・・・あれ?あ、そっか」
「ミスに気がついたところで早速名誉返上しましょう。まずは先ほどの小屋から使いたい刀剣を持ってきてください」
「ちょっと待て、名誉を返上してどうする?」
「失敬、間違えました。そもそも名誉はありませんでしたね。訂正します、汚名挽回です」
「そこじゃねーよ!また違うし!」
「もうどうでもいいのでとっとと行ってきてください。早く私の力試してみたいです」
「ついさっきまで寝てたくせに随分とえらそうに・・・」
「いいから行ってください」
「了解~・・・」
翔輝はため息をつきながらも小走りでさっきの小屋の横にあった倉庫に向かった。
「譲葉、あんたって意外と毒舌なのね」
「心配ありませんよ、これは翔輝さん専用のモードですから。今は普段の私です」
「それは嫌いだからやってるの?それとも逆?」
「・・・さあ、どっちでしょうかね?」
譲葉は微笑みそう答え、レイに小さくウインクした。
なんだか譲葉のキャラが自分の中でも当初の予定と変わっています^^;
でもまぁ、このほうが面白そうなのでいいですよね?
次回こそは戦闘をやってみたいと思います。お楽しみに!