第1章 『神隠し』
始めましての方は始めまして。
お久しぶりの方はお久しぶりです。
初めてファンタジー小説に挑戦です。とは言ったものの、基本的にはコメディーなのですが・・・。
少々展開が速いかもしれませんが、誰でも楽しめるファンタジーコメディー小説を目指しておりますので、もしお時間があるなら読んでやってください。
それではどうぞ。
「『神隠し』?」
「はい、聞いたことありませんか?」
学校の昼休み、高校1年生の夢幻 翔輝 は冬夜 譲葉の話を聞いていた。
「10年ほど前に発生していた人間消失事件ですよ。その名前のように、家に知らない人、知らない住所から手紙が届き、それを開けると手紙から光があふれ出て別の世界に飛ばされるらしいです。消えた人間がいたところのそばには必ず『招待状』と書かれたカードが置いてあり、中には何も書いてないそうです。今でも時々起こるらしいですけど」
「何でお前はそんな詳しいんだ?」
「つい最近その『神隠し』から戻ってきたと言う人がいるんです。その人が色々と言ってるのを昨日ニュースで見ました」
「へ~。そいつはいつ『神隠し』に?」
「8年前ですね」
「そんなに!?」
「はい。しかも何て言ってると思います?『私はあの光の先に別世界を見た!獣人に魔物、エルフなどが共存し、平和な社会を築いていた!世界は他にもあるんだ!』ですって。どう思います?」
「本人が言ってんだからあるんじゃねーの?」
「ありえませんよ、そんな非現実的な事」
「現実主義者め」
「常識で考えてるだけです。それはそうと、昨日のテストどうでした?」
「いつも通り。お前は?」
「別段変わりは無いです」
「だろうな」
そんな会話を繰り広げながら二人は昼休みを過ごした。
夢幻翔輝は16歳の高校一年生で、譲葉とは幼稚園からの幼馴染。長めの黒髪に漆黒の瞳。勉強もスポーツも人よりできるが、それ以外はほとんど目立つこともないごくごく普通の高校生。強いて言うならば、遅刻・サボりの常習犯で、身長は比較的高め。めんどくさい事が大嫌いで、常に楽する方法を考えている。
一方、冬夜譲葉は長い黒髪を背中の真ん中辺りまで伸ばしている黒い瞳の15歳の高校一年生。才色兼備の完璧少女で成績は全国トップ、学校一の美人という噂を持ち、一年生にして生徒会会長兼クラス委員、さらにはソフトボール部部長である。また、生徒や教員からの信頼も厚く、「成績優秀、スポーツ万能」の言葉に収まらないほどのスーパーウーマン。翔輝とは幼稚園からの幼馴染だが、長い付き合いの中で翔輝が譲葉のタメ口を聞いたのは数えるほどしかない。
さて、時は流れ、放課後―――
「で、さっきの話だがな」
「さっきの?」
「ほら、『神隠し』の」
「ああ、はい。あれがどうかしましたか?」
「気をつけろよ?こういうのって話した奴らが意外とその世界に引き込まれたりするんだよ」
「そんなことあるわけ無いですよ。マンガの読みすぎです」
「だといいけど。とにかく封筒きたら電話しろよ?」
「絶対来ませんよ。さ、帰りましょう」
「はいはい。」
帰り支度を済ませ、二人肩を並べて教室を出る。
「鞄持ってやろうか?」
「はい、お願いします」
翔輝は右手で自分の鞄を肩に掛けながら持ち、左手で譲葉の鞄を持って譲葉の隣を歩く。二人の家は隣同士で、毎日一緒に登下校している。
「本当に無いと思うのか?」
「ありません!絶対に!」
「何でそう言い切れるんだよ?もしかしたらある日突然家に差出人不明の手紙が来るかもしれないだろ?」
「仮にそれが来たとしても、開けなければいいだけです」
「まあいいからとりあえず手紙に変なのあるか調べてみようぜ?」
「イ・ヤ・です!」
「とは言いつつ家に入ったら手紙を隅から隅までチェックする譲葉なのであった」
「っもう!いいから鞄返してください!」
「御意。じゃ、また明日」
既に二人は家の前に着いていたので、翔輝は鞄を返して譲葉が家に入るのを見送った。
「・・・譲葉~!」
「何ですか?」
「あったか?」
「翔輝さん!」
家の中から怒鳴り声が聞こえたので、さすがに翔輝も退散して自分の家に戻った。
「なんだよ、譲葉の奴。あんなに怒ることねーだろ」
と、愚痴を言いながらも少しからかいすぎたと罪悪感を感じながら自分の部屋に戻る。
やはりどんな人間にも弱点というのはあるわけで、譲葉の場合はこれがそれだった。
つまり、オカルト系のもの全般がダメなのだ。
妖怪、怪談、心霊などはもちろん、宇宙人や透明人間、さらには今回のような怪奇現象なんかも全然ダメなのである。
翔輝はそれを知っているのだが、完璧少女の唯一の弱点なのでやはりからかいたくなってしまうのだった。
ちなみに弱点はもう一つあるのだが、それは今は伏せておこう。
翔輝の部屋は2階にあり、ちょうど譲葉の家に面している。譲葉の部屋も2階の翔輝家側にある。
その間には2本の糸が張ってあり、その内の1本の両端には紙コップがくっつけてあり、いわゆる糸電話が設置されている。
この糸電話はちょうど二人が2年生の頃に遊びで作り、それ以来高校1年生現在までずっとそのままにしてある。
もう1本の両端には鈴がついており、引くとお互いの部屋につながっている鈴が鳴ってちょうど携帯で言う着信音のような役割を果たす。
翔輝はその鈴がついた方の糸を揺らし、譲葉を呼び出す。しばらくして―――
『・・・な、何ですか?』
と明らかに不機嫌そうな声、というか何かに怯えたような声が返ってきた。
「いや、一応謝ろうと思って・・・。ゴメン、からかいすぎた」
『・・・はあ、し、仕方ありませんね。もういいですよ』
「ああ、ありがと」
『あ、謝られて許さないわけにはいかないですから。そ、それでですね、翔輝さん』
「ん?なんだ?」
『・・・あ、ありました』
「は?」
『だから・・・て、手紙です。』
「差出人は?」
『シャ、シャルル=エティエンヌ・ブラッスール・ド・ブルブールです』
「住所は?」
『ム、ムーです』
「・・・悪ふざけじゃねーか、完全に」
『で、ですよね~』
「・・・」
『・・・』
「・・・」
『・・・翔輝さん』
「なんだ?」
『そっち行っていいですか?』
「いいぞ」
そう返事を返すと、譲葉の家からドタドタとすごい音が聞こえ、ほんの数秒で譲葉は翔輝の部屋に飛び込んできて―――
「しょ、翔輝さあぁぁん!!」
「ゴフッ!!」
猛スピードで翔輝の腹部に体当たりを喰らわせた。
「な、何でこんな手紙が!?誰よシャルル=エティエンヌ・ブラッスール・ド・ブルブールって!?ムーって何!?いや、何かは知ってるけど何で住所のところがムー!?何でこのタイミングで来るの!?これってつまりシャルル=エティエンヌ・ブラッスール・ド・ブルブールとムーが兄弟で実は私が彼らの先生で○×□▲♪!?」
「お、落ち着け!何言ってんのか分かんねぇ!ってかよくその名前かまないで言えたな、おい」
譲葉が敬語を使わない時には大体2つの原因がある。
1つは翔輝がからかいすぎて怒った時。1つは何かに怯えて余裕が全く無い時だ。
譲葉が敬語使わないときはろくな事が無いんだ、と頭の中で呟きながら翔輝は号泣している譲葉が手に持っていた手紙を取り、封筒を見る。
差出人:シャルル=エティエンヌ・ブラッスール・ド・ブルブール
住所 :太平洋、ムー
それ以外には何も書いていない。
「イタズラだよ、心配すんな」
「な、何でそう言い切れるのよぉ!?」
「つい5分前お前が『神隠し』を否定してたのと同じ理由で」
「そんなの通用するわけ無いでしょ!?」
「お前がそれ言っちまったらさっきまでの議論が意味を成さないんだが・・・」
「と、とにかく!翔ちゃん、開けてみて!」
「何で俺が?お前宛なんだから自分で開ければいいだろ?」
「私を恐死させたいの!?」
「なんだよ、恐死って」
「恐ろしくって死ぬって事に決まってるでしょ!?」
「決まってないから」
とは言ったものの、譲葉がこの状態のときに逆らうのは無駄なことは翔輝も知っていたので、観念して封筒を空ける。
中には折りたたまれたカードのようなものが入っていて、表には『招待状』と書いてある。
「開けていいのか?」
「う、うん。あ、でもちょっと待って!お母さんにさよなら言ってくる」
「何不吉なこと言ってんだ!?大丈夫だよ、万が一何かあっても俺がいる!」
「・・・ふぇ?」
「・・・ぁ」
数秒硬直してから自分が何を言ったのかを理解し、翔輝は自分の顔が紅潮していくのが自分でも分かった。
「翔ちゃん、それってどういう―――」
「あ、開けるぞ!」
翔輝は顔が赤いのを誤魔化そうと急いでカードを開く。次の瞬間、カードから光があふれ出て二人を包んだ。
「きゃああぁぁ!!」
「ま、マジかよっ!?」
二人は何も無い空間を落下するような錯覚に陥り、そのまま意識を失った。
いかがでした?
やはり最初ということであまりコメディーはありませんが、これから次第に増やしていく予定です。
気に入ってくれれば幸いです。これからもどうぞよろしくお願いします。