D-2 謎だらけ
「ポコ、何があった。」
釜戸神、悠然として。え?
「何が、とは。」
使わしめポコ、すっ呆けることに。
「エイが怒った。」
そりゃ、怒るでしょう? 人ですから。ポロッと言いかけた。でも、耐えた。
「珍しいのでしょうか。」
あくまで、控え目に。
「珍しい。」
気だるげな御様子。ポコ、首を傾げる。
「村では、にぎやかだ。」
「はい。」
「祝になると、静かだ。」
「はい。」
「泣かぬ。騒がぬ。」
「はい。」
そういえば、そうだ。
「確か、五つでしたね。」
「そうだ、小さい。」
子に祝など! と思いましたよ、はじめは。けれど、古狸から見ても、良く務めていると思います。
ただ、賢くても人の子。怒ることくらい、ありますよ。
「ポコ、泣いている。」
「私、泣いてなど。」
「ポコではない。エイだ。」
釜戸神に仕えて、数百年。いまだ謎だらけ。
「ポコよ。」
「はい。」
「見て参れ。」
・・・・・・。
「我はな、ナガに言われたのだ。」
「はい。」
「触れるなと。父として、娘を守ると。」
な、なんと! 親の前で、何を。
「その、なんだ。」
「なんです。」
「少し、な。」
「少し。」
「遊び。」
ポコから怒りの炎が、メラメラと。
「ぽっ、ポコよ。」
「はいぃ?」
「遊んだ。それだけ、それだけ。」
なぁぁにが、それだけ。ですか!
「父親を怒らせるような、そんな遊びを?」
本気を出した古狸。迫力満点!
「ち、違う。火傷を。」
「やぁ、けぇぇ、どぉぉ。」
それほど、深刻な話ではない。
柔らかそうな頬だなぁ、と思った。で、触れようとした。
メラメラが、娘に触れようとしている。そう感じたナガが、エイを抱き寄せた。
おかげで? 軽い火傷で済んだ。
良かった、良かった。と、なるワケがナイ。たった一人の娘。その娘の顔に、跡が残ったら、どうする!
ナガに激怒され、釜戸神は学んだ。娘の父を、怒らせてはイケナイと。