オーパーツたる一品
…ヤバイ、金がない。
ツレと一緒にカラオケに行く約束をしたが財布の中が空っぽだ。
待ち合わせまであと10分、今更キャンセルもできない。
…そうだ、父親の金を借りていこう。
ガサツな父親は自分の机の中に何でもかんでも詰め込む癖がある。
千円札や小銭なんかも一番上の引き出しに突っ込んでいるから…もらっていってもバレないはず。
がさ、がさ…。
引き出しを漁って五百円玉を三枚見つけた。
…もうちょっと欲しいな、そんなことを思いつつ奥の方に手を伸ばすと…高そうな小箱を見つけた。
もしかしてへそくりかも、そんなことを思ってふたを開けると…ペンダント?
ロケットになっているみたいだ、写真でも入っているのか?
手に取って、見てみると。
父親と…見ず知らずの、美しい、女性。
ずいぶん、親密そうな、写真だ。
見てはいけないものを見てしまったと…心が、冷えた。
カラオケに行き、ツレと大声を張り上げてみたけれど。
なんとなく心がもやもやとして…ノレなかった。
俺はなんだかんだ…仲のいい両親が、自慢だった。
あのロケットの女は、どう見ても母親じゃなかった。
おしどり夫婦のふりをして、女の写真を隠し持っている父ちゃんが…許せなかった。
「父ちゃん、…話、あんだけど」
「おお?なんだ珍しいな!」
その晩、母親が風呂に入ったタイミングで、父親に詰め寄った。
母親を悲しませるようなものは、即刻処分するべきだ。
「これ…なんなんだよ」
父親に小箱を差し出す。
「ちょ…おまっ!これ、どこでっ?!」
「机ン中」
慌てふためく父親を見て、怒りが増していく。
「そ、それはしまっとけ、でないと…」
「何言ってんだよ!こんなの…捨てろよ!!」
俺が声を荒げた、その時!
「なーに―?喧嘩?珍しー!」
烏の行水の母親が…もう出てきた!まずい!
…コロンっ!!
慌てた俺は、手を滑らせて小箱を放り出してしまった!
「ヤダー!!どこにあったの、これ!」
「父ちゃんの机の中に…」
もう隠せない…家庭崩壊は、間もなく…。
「懐かしー!これあたしと父ちゃんだよ!」
「はあ?!」
「母ちゃんはな!中学までは可憐な美少女だったんだよ!それが…こんなんなっちまって!体重なんか…三倍だぞ!」
「こんなんって何よ!ただの幸せ太りじゃないの!父ちゃんなんか中学の時からずっと同じ顔のくせに!老け顔!」
何やら大喧嘩を始めてしまった両親を見た俺は。
ペンダントが実に現代にそぐわない一品であるという事を、しみじみ感じたのであった。