もちもち王女は醜いと王国を追放された私は、帝国の皇太子にいつも抱かれてしまう
「貴様の様な醜い娘は不要だ、レル!!その様な姿で王子の側にいられると思うのか!?」
美味しい食事をいつもより食べ過ぎてしまい、キツくなったドレス、それをつい緩めてしまった時に部屋に響き渡る声。
私の父、ヴィリタニス国王であるガシウスは私にだけそう名指しで怒鳴りつけます。
1番上の姉ラヴィスニア、2番目のリズタニアは正妻の娘、そして私は妾の娘。
扱いが違うのは当然、でもそれ以上に許せないことがありました。
「もちもちがそれ以上食べてどうするのでしょうね?食料の無駄ではありませんこと?」
「いえ、きっと私たちに隠れて食糧庫の物を食い漁っているのですわ……ああ、まるで害獣ですわ!」
(どうして私だけこんな体質なのですか!?)
食べるものは一緒、量も。
それでも私だけが姉より二周りも身体が大きくなってしまったのは母親譲りでしょう。
美味しい食事と平和な生活の為、我慢してきたけれどそれも限界。
「……わかりました、それでは今までありがとうございました!失礼します!」
◇ ◇ ◇ ◇
「とは言っても……どうしよう」
勢いで出てきてしまい、持ち物は鞄1つどうすればいいかは考えていなかった。
身動きし辛いドレスも、今はメイドが使っていた麻のスカートを頂いてどこにでもいる平民の姿。
でも……これなら……
「頂きます!!」
家からくすねてきた首飾り、それをお金に変えて酒場で注文したのはワイルドボアのヒレステーキ。
換金した10万ヴィルのうち5000ヴィルも使ってしまったけどこれはどうしても食べたかったもの。
滴る肉汁、香ばしい香りが辺りに広がり、ナイフに軽く力を入れるだけでそれは簡単に切ることが出来る。
「それじゃ……いただきまぁ、す?」
口に含もうとした瞬間、その手が掴まれる。
いつの間にか酒場には私と手を掴む男以外誰もいなかった。
「俺と来い、さもなくば……殺す」
赫い瞳、私を握る力強い手、黒い革手袋の裏側には帝国の証である蛇の紋様、さらにその内側の褐色の肌には火傷の跡が見えた。
食べた後でもいいですか?なんてことは言えない。
「私の様な醜い落ちこぼれを誘拐した所で王国な知らんぷりするでしょう、これは互いの為になりませんよ」
一応忠告してみます。
「黙れ、それを判断するのは俺様だ。ついてこい」
やはり無理でした……そして目隠しをされて連れられて来たのはザイディア帝国、その城。
目の前には帝王ザディ様と、その息子、つまり皇太子様であるシャール様。
「どうやら私を人質にして父を殺そうとしているようですがそれは無理でしょう、ラヴィ姉やリズ姉ならまだしも私は捨てられた身、我関せずで父は無視するだけで……」
「……お前は先程から何を言っている?」
「え?私を人質に王国を脅すのでは?」
「馬鹿かお前……親父こいつを俺の伴侶にする、この抱き心地はそんじょそこらの女じゃ無理だからな」
……は?抱き心地?
私は枕か何かだと勘違いしてませんか?
そんなもの扱いで婚約なんてする気はないですと、私の手を握るその手を振り解いた時でした。
「……それは」
出会った時に少しだけ見えた火傷の跡、それは手だけではなく腕全体に広がっていた。
帝国と王国の戦で負傷したのでしょう。
「あの、私にそれを治癒させるというのならそんな力はありませんよ?ですから私を解放して……」
そう言った瞬間、私は何故か抱きしめられていました。
「これだけでいい、ただ抱かせてくれるだけで……冷たいその身体のおかげで、それで俺の身体の痛みは止まるのだからな」
まさか、本気で私に抱きつく為だけにこの方は誘拐したのでしょうか?
「……本当ですか?」
「ああ、男に二言は無い」
わかりません。
わかりませんが、ただ1つだけわかったのは何かに怯え顰めていた表情が、心底安心した表情に変わっていたことだけでした。
「なら、私からも条件があります」
「何だ?言ってみろ」
「美味しいもの、たくさん食べさせて下さい!」
◇ ◇ ◇ ◇
結果から言えば、ただ抱かせてくれなんて言うのは大嘘でした。
裏切られた……のですが、それは嬉しい裏切りでした。
「母上!今日はどこに行かれるのですか!?」
私に駆け寄る男の子、それはシャールと私の息子スインです。
「昨日食べ過ぎてしまったから運動ですよ?健康の為には毎日運動しないといけませんからね」
「それでは僕と一緒におにごっこをしましょう!」
「それは……私が鬼になったら一生捕まえられそうにありませんから遠慮させて下さい」
「何をしている?運動など必要無いだろう、レルは今のままでも十分に綺麗だろ」
会議帰りのシャール様が私をお姫様抱っこして連れ去ろうとする。
こうして甘やかされるからますますもちもちになってしまうんです。
「であれば尚更です!私は身体に溜め込みやすい体質なのですから、現状維持も大変なのですよ?」
「そうか…………すまない」
シャール様はそう言うと私を下ろして抱きしめる。
私を左腕に、そしてスインを右腕に。
「シャール様の様に身長が高く、身体がが大きくなければ2人一緒には抱けませんね」
「済まなかったな、あの時の嘘をついてしまった」
ただ抱かせてくれといったあの時の約束、シャール様も覚えていて下さいました。
「何のことでしょう?今も昔もシャール様は抱いているだけ、ですよね?」
「……ああ、そうだな」
何故だが分かりませんが、シャール様の全身の酷い火傷跡は綺麗さっぱり消えてしまっていました。
私に治癒の力なんて無いはずなのに……
「父上、母上、一体何の話をしているのですか?」
ええと、これは……息子にはまだ早いかもしれません。
「教えてやろう、実はな……」
「駄目です!それはいつか、いや……スインに好きな人が出来たら分かりますから、ね?」
「ずるいです!教えて下さい!」
スインにもいつか分かる時が来ます。
どんな人にも、必ず愛してくれる方がいるのだと。
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