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ショートショート7月~2回目

やらかしがち

作者: たかさば

……やらかした。


彼女が、出て行ってしまったのである。


同棲生活もかれこれ五年、煮え切らない俺に愛想を尽かしたらしい。

十日間の出張から帰ってきたら、やけにすっきりした部屋と、机の上の置手紙が…俺を迎えたってわけだ。


なんで、なんでこのタイミングで?!

ようやく昇進が決まって、給料が上がるこの時期に、俺、なに捨てられてるわけ?!


ありえねえ、俺はさゆりと一生を共にすると決めている!


仕事が忙しくてかまう事ができなかった日々を、誠心誠意詫びる。

昇進を果たし、これからは余裕のある暮らしができるようになると説明するも、ダメだ、ブロックされた!


「先輩ふられたってマジっすか!コンパ行ってはっちゃけましょーよ♪」

「俺は…俺はまだフラれてなど、いない!!」


なりふり構っていられない。

共通の知人に片っ端から声をかけて、さゆりの動向を探る。


「細かいくせに煮え切らないことしてるからだよ!さっちゃんかわいそー!」

「いっつも割り勘してたじゃん、宝くじ当ててプロポーズしに行けばwww」


仲間内ではいつも割り勘をしていたが、さゆりと二人で外食する時…いつも支払いは。


―――いーよ、いーよ、あたし払っとくし!


おおざっぱで、きっぷの良いさゆりにいつも、甘えっぱなし、だった。

……くそっ、こういうところが、ダメだったんだよ!


俺はいつも……さゆりに、助けられていて。


神経質で几帳面すぎる俺に、さゆりはいつだって、寄り添ってくれていた。

一生懸命俺に合わせてくれるさゆりに、遠慮なしにダメ出しをしていた俺に、天罰が下った。


……不愛想な俺に、笑顔を惜しみなく与えてくれていた、さゆり。


好奇心旺盛で、俺の話をいつもワクワクしながら聞いてくるのがうれしかった。

ドジっ子な所も、かわいくて…いつもいじっては、泣かせてしまっていた。


さゆりのいない生活なんて、耐えられない。


あいつはすぐに体調を崩すから、俺がきっちり健康チェックをしないとダメなんだ!

ガサツなくせに人の言葉に敏感で、すぐに落ち込むから…俺が元気づけないとダメなんだ!


今頃、さゆりは寝込んでいるかもしれない。


ダメだ、気が気じゃなくて、仕事に支障が出始めてしまった。


……いい機会だ、たまりまくっていた有休をとってやる。


「皆さん、協力、お願いします……。」


めちゃめちゃ謝るぞ。

めちゃめちゃカッコ悪いけど、絶対に許してもらうぞ。

めちゃめちゃ恥ずかしいけど、みんなの前で……言うぞ!


「おお?!やんのか?!ついに!!」

「もう!!遅すぎなんだよ!!」

「いつ?今日でいいよね!!」


……必死になって貯め込んだ、僕のボーナスを、見せつけてやる日が……、やってきたんだ!


……清水の舞台から飛び降りて買った、ダイヤの指輪を見て…腰抜かしやがれ!!!


抜かして下さい、お願いします……!


抜かしてもらえなければ、俺は、俺は―――!




ようやく、彼氏に見切りをつけることが、出来た。


……ずっと一緒に過ごしてきたけど、限界だったのよね。


結婚しようねって言ってたのにさ、全然お金貯めてくれなくって!

お財布は完全別にしてたから、結婚資金貯金通帳作ったんだけど、入れるのは、私だけでさ。


いつもお金がないって言うから、ずっと私が食費負担してて…貯金も、ほとんど、ない。

このまま一緒にいても、たぶん、きっと、共倒れに、なる。


ロミオメールがめっちゃ来たからそっこー着拒してやった!

ラインめっちゃ来るから即ブロックしてやった!


やっぱ男は見た目で選んだらダメだね、真面目で誠実な人が一番だね。


次はどんな彼ピ、できるかなー。

ブサだけど羽振りの良いおっさんタゲろっかなー。


あいつ地味にいろいろめんどくさくってさ、いちいち細かくってホントもうA型は勘弁っていうか!


ちょっと財布の中にレシート貯めたら、うるさいこと言ってくるしさあ。

熱が37度あるって青い顔してたから、それくらい大したことないよって言えばガサツって言ってくるしさあ!


…ホントあいつといると疲れちゃうんだよね。


あいつのせいで、すごく気遣いするようになっちゃったんだよね。

あいつがうるさいから、注意されないようにめっちゃがんばってさ。


あいつの機嫌が悪くならないように、ずっと努力してさ。


あいつにバカにされるたびに、自分の頭の悪さを恥ずかしく思ったんだ。

あいつに怒られるたびに、自分の要領の悪さに涙が出ちゃったんだ。


……いっつも、あいつが、中心にいた。


ダイエット中だって言ってるのに、バイキングに連れていかれたり。

ネズミの話はしないでって言ってるのに、いつもネズミの動画見せてくるし。


……うっとおしくて、仕方がなかったんだけど。


なんでかな、気のせいか、毎日張り合いが、ない。

どうしてかな、派手にツッコめない毎日がつまらない。


……付き合い始めて、もう八年か。


今更、別の人と付き合うのも、めんどくさい気持ちも、あるんだよね。

なんだかんだ、あたしの事、一番知っててくれる人、だし。


あたし、心だけは、ちょー広いんだよね。


めっちゃ謝ったら、許してあげない、事もないんだけど!

あたしぐらいだと思うよ、あいつの細かさについて行けるのは!


あたしの不満、ぜんぶ吹き飛ばすような何か、持ってきたら許してあげようかな!


ま、どーせいつもみたいに、言い訳三昧でヘタレてくるだけだと思うけどね!


とりあえず、着信拒否、解除してあげようかな。


……ふふ、すぐに電話、かかってきキタ━(゜∀゜)━!


しょうがないなあ、もう。


……久しぶりに、彼氏の声を聞いた。


それから、しばらくして。


……私に、几帳面すぎる、やらかしがちな……、家族ができた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >>> 今頃、さゆりは寝込んでいるかもしれない。  草 >ダイヤの指輪  草 [気になる点] おわー! ケンカだったー。ってダイヤだよ。どーすんのさ [一言] まあまあ、まあまあまあ…
[良い点] ㊗おめでとう!!! [気になる点] あれ?気のせいかな?。プロポーズがダイヤの指輪?じゃあ結婚指輪は別?。そして指輪の値段を聞いて怒られるパターン。 [一言] でも二人が幸せならいいの。(…
[一言] おぉ。 なんだかんだで見せつけられただけじゃないですかぁぁ〜。 末長く爆発してくださいませ。
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