第3六話 あれか、これか
「あれでもない、これでもない」
ある学者が悩んでいた。
というのも、彼の悩んでいたことは、
至極単純な言葉でこう、書かれていた、
「あ」という言葉と「い」という言葉、
それを突き詰めるために、
ひいては、あい、というのはなぜ、生まれたのか?
どうして、存在するのか?
それを考えると、ある学者は悩みに、
頭を拗らせていた、
次第に無音の状態の規則正しい部屋が、
嫌になって、
彼は荷物に対して、無頓着になった、
着ていた服が道端に落ちようとも、
汚れていようとも着ていたし、
または、悩んでいる子供がいようとも、
博愛の精神を書いた聖書に目にもやらずに、
ただ、歩くのは、死体と血で染まった、
治安の悪い街路樹ダッタ。
並の人間だったら、帰ろうとするも、
男は帰ることをせず、
そこに踞る、
あるのは、絶望と未来に対する不安であった。
「出来ることならもう、これ以上は書きたくない」
博士は悩んでいた末の悩みを
カウンセラーに相談する。
彼女は頷くと、
それに対応した薬の配合を
使い込んだカタログのように、
品定めをして、
機械的に済ませる。
かの男はこの時、悟った。
人は自分以外に興味の対象が向かないことが、
本質なのかと、
男は頭を振って否定する。
何をしようにもため息と煙草の煙が黙々と雲を作るだけ、
沈黙の雨とはまさにこの事か……




