妹は変態である
髪を乾かし終わり場所はリビングへと移った。
スポブラとスパッツだけでソファーに寝転がるのは意外と気持ちが良い。
「ほい、お兄ちゃん、パーカー」
結月が投げたパーカーは綺麗に僕に覆い被さった。服の匂いから結月の私物であることがわかる。
「一応、病み上がりなんだから着なよ? それに、お兄ちゃん今、身体は女の子なんだからお腹冷えるのはよろしくないよ」
結月は冷えたコーヒー牛乳を飲みながら助言をしてくれる。
確かに僕は病み上がりなので、また風邪――女体化したから風邪じゃ無いのかもしれないが、再び辛い思いをするのはごめんなのでパーカーを着ることにする。
前後にファスナーが無く大きめのパーカだったのか、着てみると履いてないように見えそうだ。袖も少し長く腕をまくらないと萌え袖になってしまう。
「なあ結月。パーカーでかくないか?」
「まあオーバーサイズのだからね。私でも少しダボッとするからそんなもんだよ」
そう言って結月は勝手に写真を撮ってくる。
写真を撮った後に僕の周りをぐるぐると回り始めた。
何周か回ってから結月はスカートめくりをするようにしてパーカーをめくりあげた。
「なるほどね」
「何の納得!?」
「履いてなさそうって良いよねって確認」
結月の心中に男子中学生でも飼っているのかと言うくらいに欲望に忠実だった。
その後結月は寝転がって下からスパッツを覗き込むような体勢になった。
その姿はもしかしなくても盗撮しているようだった。
「……良い眺めか?」
「うん。このまま……いや言わないでおくよ」
ここは突っ込むべき事なのだろうか。
結月の顔は見えないが台詞の途中でテンションがあからさまに下がったので言おうとしたことはなんとなく想像が付く。
たまには見えすぎた地雷を踏み抜いていくのも良いかなと思い会話を広げてみる。
「良からぬことを言おうとしたな?」
「……ドン引きされそうなことを言おうとしたね」
「怒らないし引かないから言ってごらん」
言葉面だけは反省している様子であるが、結月は依然として僕のスパッツを下から見上げ続けている。
数秒間の沈黙の後、結月が潔くなぜかイケボで思ってたことを口にした。
「この状態でスパッツに顔を埋めてスーハスーハしたい」
「……うん。思うだけならタダだからな」
「お兄ちゃん引いたよね!?」
「引いてない。引いてないぞ」
完全に引いてないと言えば嘘になる。
せめてスパッツを覗き込みながら言うのは止めて欲しい。確かに、面と向かってその台詞を言える人間は正気度がゼロに近いと思うので、好意的に捉えれば結月はまだ人間としての理性を保っていると言うことになる。
だが、結月の気持ちを尊重するのも大切だ。
結月の外には漏らしにくい欲求を受け止めるために神様が僕を女体化させたのだと捉えれば、それもまた兄としての勤めだろう。
「なあ結月。どうしてもやってみたかったら、やってみても良いよ?」
「……良いの?」
そう言って結月は顔を出した。その顔は意外と真面目そうで少し驚く。
しかしいざ面と面を向かい合わせて、スケベ行為を促すのは恥ずかしい。
こう言うときに蔑んだ眼を出来るのはサディストの才能がある人だけなのだろう。
「今日は色々としてもらったからな。それぐらいのサービスはするよ」
僕がそう言うと結月は無言で再びスパッツを見上げるポジションに着いた。
「ゼロに行くよ」
結月はイケボでそう言った。言い方がいかがわしいのが少し気になる。
今思い出したが、人間はエロいことを考えている時ほど真顔になると言う言葉を思い出した。
そして、いざスケベをされると考えると恥ずかしい。
「三……二……一!」
ゼロを言う前に結月は上体を起こした。
結月の荒い息づかいがスパッツ越しに伝わってきて変な感じがする。しかも口の位置がちょうど僕の股下なので色々と恥ずかしい。
この辱めは一分程度で幕を閉じた。
結月は僕と顔を合わせないようにして立ち上がる。
顔は見えないのだが、耳が真っ赤だったので感情は容易に読み取れる。
「ねぇお兄ちゃん」
「ど、どうした結月?」
その後に続く言葉が無かった。
お互いに呼び合ってから気まずい空気にリビングが包まれる。
「次はもっと上手くなってからするよ」
「何を――あ」
言ってから失敗したと思った。
ラッキースケベでは無く、ただのスケベで「上手く」とはつまりそういうことだからだ。
「ごめん。私は満足したけど……その……ごめん」
終始、結月は声を震わせていた。自分の欲望に忠実になってみた結果、終わって冷静になってみると恥ずかしくなったようである。
僕としては謝られても困る訳なのだが……言葉に困る。
「大丈夫だから気を取り直して。僕ちょっとトイレ行ってくるよ」
結月に微妙な刺激を受けたせいで尿意が少し起きたのは事実だ。
生理現象を理由にしてこの場から逃げだしたい。
「う、うん、わかった。一人で出来る?」
「……出来ないって言ったらどうするの?」
さすがにこれ以上、二人しかいない潮風家に冷ややかな空気をもたらすわけにはいかないので、思わず真顔で言ってしまった。
気にして結月を見ると動きが硬直していた。だが目線は泳いでおり、様々な考えが交錯しているようだった。
「い、言わないでおくよ」
「賢明な判断だね」
お風呂で「おしっこしたくない?」と聞いてきていたので少しばかりの葛藤があったことだろう。
「一応だよ。私は扉の前にはいるからなにか非常事態があったら言ってね」
そう言って結月は僕の後ろを歩くのであった。