目覚め(意味深)
夕飯を無事に食べ終わることはできたのだが、お互いが気が気でなく、全く会話のない食卓となってしまった。
今は後片付けをして心を落ちつかせているのだが、結月が物凄くソワソワとしている。ソファーに顔を埋めて脚をバタつかせている辺り、そうとう恥ずかしかったのだろう。
洗い物が終わり、時は満ちたと言わんばかりに、結月は僕の方を見てくる。
いや、そんなに期待されましても。
僕から言わないといけないのか?
それをしちゃうと、僕が了解したようで、後戻りができなくなってしまいそうなので、それだけはしたくないのだけれども。
「そうする? ナニする? ナニヤる?」
期待している様子の結月だったが、顔は耳まで真っ赤で、これでもかと言うくらいに目線は合わせようとはしなかった。
「ナニもしないし、ヤらない」
「だよね」
お互いにヘタレムーブをかます。
食前の出来事が何も無かったかのようにできない辺りが、お互いに未経験である証明になってしまっている。
「あ、でもさ。今日は一緒にお風呂に――」
「だめ」
「ダメかぁ」
ブーッと結月は頬を膨らませる。
数十秒間、お互いに気まずい時間が流れる。
「お兄ちゃん、さきお風呂入りなよ。色々と大変なことになってるだろうしさ」
「その手には乗らないから。結月から先に入って」
「そ……その手にはって、なんのことかな?」
「いつも、勝手に風呂に入ってくるじゃん!」
僕がそう言うと結月は口ごもった。
実際、僕が先に風呂に入った場合、結月が途中乱入してくる確率はほぼ100%だ。
風呂場に凸してくる次点で確信犯である。
「じゃ、先に入ってくるよ。お兄ちゃんが乱入しても良いからね」
ニヤケタ笑みを浮かべて結月は着替えを取りに行った。
自室に戻り、ベットにダイブする。
「ん――がぁッ! 疲れた!」
柄でもなく、声に出して疲労感を訴えてみる。
今日一日で、自分がいかに押しに弱いのかがわかった気がする。
危うく、男にメス落ちさせられるところだったし。
ってか、寄りにもよって僕をナンパするかよ。
低身長で貧乳だぞ?
夏の砂浜でも優先順位が低いどころか、声をかけようものなら警察がやってくるレベルだぞ。
なんなら前に、まとめサイトで見たロリドール並の身体だったから、普通にその手の人たちに需要があるレベルの身体だぞ。
考えれば考えるほど、自分の身体がしっかりと価値をなしていると言う事実を突きつけられて複雑な心境になってしまう。
ふーっと深い吐息を漏らして一度冷静になる。
「押しに弱すぎるんだよなぁ」
事実、食事をするって言う名目が無ければ、絶対に頂かれていた訳だし。本気で拒否はしていない僕にも落ち度はあるのだけれども。
「んーーッ!」
思い返すだけで恥ずかしくなった。
結月からキスされたときに、一線越えてもいいやって思ってしまった僕を殴りたい。
いくら兄妹とは言え、お互いに思春期になってからのキスはマジのキスだと思うから、僕のファーストキスを奪われちゃったじゃないか。
ファーストキスなのに同時に股ぐらを本気でいじられたせいで、嬉しさよりも気持ちよさの方が勝ってしまったから、あの瞬間は完全にメス落ちしてたと思う。
それに下手に寸止めされたせいで不完全燃焼だし。
だけれども、夕食を食べたおかけで頭を冷やすことができたので、完全燃焼せずに済んだ。
今は燃料を供給していないので、燃焼することが無いので、性欲は押さえられている――そんなわけ無い。
僕だって思春期だ。
女体化してからなるべく性欲を押さえているとは言っても、今日は我慢できそうに無い。
人間の三大欲求には食欲、睡眠欲、性欲があるという。
その内、食欲は満たされている。睡眠欲は今は満たされていないが、いつも爆睡できているので問題は無いだろう。
一番の問題は性欲だ。
性欲を根本的に解消したのは女体化する前の、体調を崩す前だから約3ヶ月間は禁止していることになる。
その間に何度もムラッとした事はあるのだが、ゲームに打ち込むことで性欲から目を背けてきた。
今回も性欲をゲームで忘れれば良いだろうが、生憎、するゲームが無い。
携帯機にしろ据置機にしろ、ちょうど持ってるゲームはクリアしてしまっている。ソシャゲもスタミナ切れで、課金アイテムでスタミナを回復しなければ周回できない状態になっている。
ならば残る手段は、三大欲求の一つである睡眠欲を満たすことにしよう。
眠りに落ちないにしても、瞑想の代わりにはなるだろう。
そう思って、目を瞑る。
「ん?」
電気を付けて寝たはずなのだが、部屋が暗い。
あと、自分の部屋のベッドで寝ていたはずなのだが、見知らぬ天井だ。もちろん、結月のベッドでも無い。後なぜか裸だ。
「夢か」
口を動かしてみるが、音が聞こえないので、夢で確定だろう。
明晰夢という、自分が夢を見ていると自覚をしたときに、その夢を自由自在にコントロールできると言うものなのだろうが、僕の見る明晰夢はそこまで便利な物ではない。
夢を見ているという確信でできることは、夢の途中で無理矢理に目覚めることができるという事、夢の記憶が残ると言う事くらいだ。
この夢が怖い夢だと、僕のSAN値が減るので夢から覚めよう。猿夢だったら嫌だしね。
そう思った時。
「お兄ちゃん……いい?」
結月が裸でそう囁いた。
僕が寝落ちする前の事を考えると、結月が夜這いをしかけてきている可能性も否定できないが、これは夢である。そのことを確信できる証拠があるのだ。
なんで結月の股間に生えてるんだよ。
しかもデカいんだよ。
いくら元、男だと言っても、臨戦状態になっているモノは一人称視点でしか見たことが無い。
肝心なところは見えてはいないのだが、完全にそういう体勢になって、結月は僕との密着度合いを高める。
顔を近づけて、そのまま接吻。
唇と唇が重なり合った瞬間に、意識が直くに現実に戻される。
気持ちよさと不快感が入り乱れた複雑な心地よさ。
「やっべ!」
目覚めに覚えがある。
この目覚め方は間違いなくアレだ。
そう思って自分の思い当たるところを確認してみる。
「……」
予想が当たっていた。
「性の目覚め……か」
ティッシュを取ろうと思って体勢を変える。
「「あッ」」
アワアワと口をパクパクとさせた結月と目が合ってしまった。見てはいけないモノを見てしまった、と言わんばかりに、顔を赤らめていた。
「性の目覚め……立ち会っちゃった」
結月はそう言い残して、逃げるように部屋を出た。
翌朝。
休日でも登校時と同じ時間に起きる僕にしては珍しく、十時の起床だ。
昨日はあの後、自家発電が忙しく僕にかまっている暇がなかったのか、それとも気を遣ってくれたのかはわからないが、結月がちょっかいをかけてくることは無かった。
お陰様でと言うべきか、昨日はぐっすりと眠れた気がする。
いつもは休日前になるとスマホで動画やマンガを見ながら寝落ちするのが僕のスタイルなのだけれども、今回は目を酷使するような寝落ちをしていない。むしろ今回は体力的に寝落ちしたと言った方が、正しいだろう。
そんなことは兎も角。
お腹が空いたのでリビングへと向かうことにする。
リビングへと向かうと、朝のランニングを終えた結月が朝食を取っていた。
「おはよ」
「おはよーお兄ちゃん。今日は遅いね」
「ま、まぁ、ちょっとね。よく眠れたよ」
よし、いつも通りだ。
このまま、いつも通りに凄そう。
冷蔵庫を開けて、豆乳をコップに注ぐ。
「肌ツヤツヤだね」
脈絡も無く、バナナを頬張りながら、結月が話し掛けてくる。
「ちなみにだけど、マンガ表現でよくあるじゃん?」
「……あるね」
「その意味は言わなくてもわかるよね」
マンガ表現における「肌ツヤ」表現。
女性ホルモンが活発に働いていると言うのを過剰演出として描いている、と一般的には言われている。
どのような経緯で女性ホルモンが活発的になったのかというと、それは大抵の場合、下的な意味合いが強い。
そのことを知ってか知らずか、結月が僕と間合いを詰めてくる。
「あの後、何回したの?」
「してない」
「音、漏れてたよ」
「え、マジで?」
「さすがに夜中にドタドタってされたら気付くよ。それに、シーツが洗濯物に出されてて、ビチャビチャだったし」
見てしまったこっちが恥ずかしい、と言わんばかりの赤面した様子の結月。
直接的に見られたわけでは無いにしても、事後を見られてしまった僕も恥ずかしいのだけれども。
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