妹は変態なのかもしれない
舞台は変わり再び脱衣所。
女体化した自分の身体にも少しだけ見慣れてしまい、違和感を感じにくくなってしまった。
何も考えずバスタオルで身体を拭いていると、ふとした疑問が頭を過ぎった。
「なあ結月」
「どしたの? お兄ちゃん」
「パジャマってどうしたっけ?」
「ふっふっふ。それはだね」
結月はもったいぶって腕組みをしながら高笑いをしていた。それはもう、してやったりという顔で気分は良さそうである。
「パジャマは私の部屋に置いてきた!」
当たり前すぎて返す言葉が無かった。
僕の反応が思いの外、薄かったためか結月が何事も無かったかのように話を続けた。
「パジャマは私の――」
「聞こえてるからね。ただ、普通のことだったから反応に困っているだけだから」
僕はそう言って身体を拭き終わってから脱衣所を後にする。
バランス感覚も少しだが戻ってきたので普通に歩けるようになっていた。だが、一歩一歩踏み出す度に感じる浮遊感に気をとられていると足を取られそうになってしまう。
僕が結月の部屋の前に来る頃には本人に追いつかれてしまった。やはり身長が縮んでしまったことによる歩幅の違いは大きいなと改めて感じる。
「別に結月も急ぐこと無いと思うけど」
「いやね。ブラの外し方は知ってて――そう言えば童貞だったね。それはどうでも良いんだけど、付け方は知らないだろうから手助けをするために急いできたわけさ」
外し方も知らないが、付け方も知らないのも事実だ。初めて事をするときに教えてくれる人がいるのであれば教えを請うこと自体、悪いことでは無い。
ただ気になる点があるとすれば、結月の下心が透けて見えることくらいのものである。顔に出てしまっている辺りに子供っぽさを感じる。
「おっぱい揉まれたからって減るもんじゃないし、そんなに悩まなくても良いじゃない。それに揉んだら大きくなるって言うよ?」
「女子がその台詞を言うのか?」
「別にお兄ちゃんの主導権を触るわけじゃ無いから良いじゃんかー。どっちも大きくなる意味じゃ一緒かもしれないけど、おっぱいの方が触りたいじゃん」
「ただの下ネタじゃねぇか!」
決まったぜ、と言わんばかりに結月が笑顔だった。話の程度が男子中学生と同じレベルな事に少し悲しくなる。
「それで、付け方はわかるの? わかんないの?」
結月は痺れを切らしてきたようで、やや高圧的な口調になっていた。
全裸で詰め寄ってくるので、揺れる胸にどうしても目が行ってしまうのが男の性というものであろう。
「……お願いします」
「よろしい! ささ、入った入った!」
そう言って結月は僕の背中を押しながら自室へと入っていった。
入って直ぐにパジャマが床に散らばっているのが目に留まった。やっぱり、パンツが出ていないのは僕の見間違いでは無かったようだった。
「それじゃ、お兄ちゃん。スパッツを履いてみよう!」
素人が作った教育番組のようなノリで結月は僕が履くスパッツを手渡した。
僕自身スパッツを履いたことが無かったので、この肌触りは新鮮さがある。
「なあ結月」
「なぁにお兄ちゃん?」
「これ防御力低くない?」
「防御力を捨てて素早さに振ってるような防具だからね。武道家かアサシンが好みそうだよね。輪郭くっきりだし」
結月はそう言いながらソソクサと着替え始める。
「これ直履きじゃ無いとダメなのか?」
「パンツは貸したくないからね」
やはり、結月はパンツは貸したくないらしい。
僕が駄々をこねている内に結月の着替えは終わってしまった。
「ノーパンのまま寝ても……」
「括約筋の筋肉も減ってたら大惨事になるよ?」
「緩んでたら下着のあるなし関係ないんじゃ……」
「おしっこは無理かもしれないけど、大きい方だとどうするつもりなの?」
ぐうの音も出ない。
どれだけ駄々をこねてもスパッツを履かなければならない事実からは逃れられないので潔く履くことにした。
履いてみたが締め付けが強い。特に尻周りがきつい。股下も直履きしているためか、ぴったりと張り付いている感じが妙な感じだ。
「ちょうど良い感じだね」
結月は僕の下半身をなめ回すように見ている。一周、ぐるりと回ってから言葉を続けた。
「もうちょっとだけハイウェストにするよ」
そう言って結月はスパッツの位置を調整した。
結月は納得したようで首を縦に振っていた。
「やっぱりハーフレギンスって言えばこれだよね」
「僕は何が変わったのかイマイチわからないんだけど」
「じゃあ、写真撮るから待ってて」
結月はそう言ってスマホで流れるように写真を撮る。少し画面をポチポチしてから撮った写真を見せてくれる。
ガッツリと衣類を着ていない上半身が写っている。が、胸元は結月の采配によって最小限度の加工が施されていた。
「おっぱいじゃなくて下半身を見て」
目線で気付かれていたようで少し恥ずかしい。
スパッツに目を移すが大して気になることは無い。強いて言えば、スパッツのせいでスポーツクラブに所属している女子小学生感が増していると言うことくらいだ。
「ん、お兄ちゃん、もしかして気付いてない?」
僕の反応が薄かったからか結月が聞いてくる。
「えーっと……女子小学生感が増したとか?」
「それもある。でも、私が見て欲しいのはそこじゃ無いんだよね」
結月はそう言って写真を拡大する。必要以上にお尻部分を拡大してくるので伝えたいことが嫌でも伝わってくる。
「私の言いたいことその一!」
台詞を一度切って注目を引きつける。一呼吸を切ってから結月は言葉を続けた。
「お尻がエロい」
「え? え?」
いきなりすぎて困惑する。
兄――まあ今は女の子なのだが、尻がエロいと妹に真顔で言われるのは初めてのことでどうしたら良いモノなのだろうか。
困惑する兄にお構いなしに結月は話を続ける。
「お兄ちゃんのフェチは知らないけど、私的にはバレー部のお尻みたいでストライクゾーンなんだよ!」
「そ、そうなのか?」
「少なくとも私の周りにいる中じゃ五本の指に入るね」
結月はそう言いながら僕のお尻をなめ回すように撫でる。その手つきはさながら痴漢をしているようだった。
「やっぱり良いね、お尻。それじゃあ、本題の二つ目」
「尻を熱弁しといて本題じゃ無かったのかよ」
僕の言葉は聞いていないようだった。
結月はテンションはそのままに、無言で写真の股間部分をアップして見せつけてくる。
今回は一瞬で結月の言わんとすることがわかった。
「レギンスと言えば食い込みだよね」
そう言う結月の顔はやはりニヤケ顔だった。
確かに食い込んではいたが、よく見ないとわからないくらいのものだった。
さすがに中身が男だが兄として、食い込みに関して言及する気にはなれなかった。
応える言葉に迷っていると気まずくなったのか結月が先に声を出した。
「ごめん。そんな引かないで」
テンションのジェットコースターと言わんばかりに急降下した様子だった。




