堕ちないという意思
お買い物が無事に終わり家路に着く。
僕がナンパされたのがきっかけなのかはわからないが、結月が妙によそよそしい。
変に気を遣っているという訳では無いのだろうが、ナンパをされた本人である僕が、そのことに関して口を挟むのは悪手だろう。
だからと言って、何かしらの会話をしていないと、僕自身がナンパをされた事実で変な気持ちになってしまうので、なにかしら話がしたい。
「ね、結月。今日、何食べたい?」
「……」
珍しく結月からのレスポンスが遅い。
と言っても「今日、何食べたい?」と聞いたところで、具体的な料理名が上がって来ると、全国の主夫と主婦は苦労をしない訳なのだけれども。
疲れちゃったかな?
久々の兄妹でのお出かけだったし、はしゃぎすぎたのかもしれないよね。
「精のつく食べ物」
「ナニする気!?」
ってか精のつく食べ物って言われても、僕、牡蠣しかわかんないよ!?
「あ、ごめん。えっと……ニラ玉が食べたい。あと冷蔵庫に豚肉があるから、それで何か作って」
大ざっぱな要望の後にしては、具体的な食品名が出てきて驚く。
精のつく食べ物の後に出てきた要望と言うことは、きっとニラと卵と豚肉は精のつく食べ物なのだろう。
ぎこちない会話をすること十数分。
家に到着して、晩ご飯の準備をすることにする。
潮風家では夕食は調理当番で作ることにしている。
僕が夕食を作るときは、結月は「お腹を空かせてくる」と言って走りに行くことが多いが、今日はリビングでくつろいでいるようであった。しかしながら、リラックスをしているという様子は無く、動きがどことなくぎこちなく、相当緊張しているように見える。
何をしようとしているのか、察してしまいそうな自分がいるが、そのことをツッコまないのが兄としての勤めだろう。
ちなみに、結月が料理当番の時、僕が何をしているのかというと、大体マンガを読んでいる。最近のトレンドは偉人バトルモノ。
テレビから流れるニュースを作業BGM代わりに包丁で切るモノを全部切ってしまう。
冷蔵庫を開けて、他にもう一品作ろうかなと頭の中で思考を巡らせるが、パッと思い浮かばなかったので見なかったことにする。
冷蔵庫の扉を閉めたタイミングで僕の背中に柔らかい感触が伝わる。
「お兄ちゃん」
背後から抱きついてきた結月が僕の耳元で囁いた。
耳にかかる吐息で背筋がぞくっとする。
汗とシャンプーが混じった匂いが、血の繋がった兄妹とは言えど、男としての本能で過剰に反応してしまう。
料理中のバックハグは恋愛マンガやドラマでは定番とも言える胸キュンシーンの一つであるという知識くらいは僕にもある。
された瞬間は気が付かなかったが、興奮で脳内の思考回路が爆速で回るせいで、今になってから気持ちが高ぶってしまう。
きっと、世の中の男子や女子であれば、一度は夢見るこのシーンを実体験したら、理性のタガが外れてしまうのも無理は無いだろう。
それが例え、禁断の恋であったとしても。
「……料理、出来ないんだけど」
だけど、僕はそこら辺はわきまえているつもりだ。
この思いが勘違いでは無いと言うことはわかってるからこそ、理性を保てている。
「お兄ちゃん。今日……さ。今日……どうだった?」
結月は結構、誘ってきたり、変態的な言動をしているが、ヘタレ童貞なのだ。
わかってる。
「楽しかったよ。結月と久しぶりのお出かけだったし」
「う……うん。それもあるけど……その……」
言葉に詰まるも結月は僕を離そうとはしない。
「ナンパされたことか?」
僕がそう訊くと結月は黙り込んだ。
「そりゃ、されるなんて思ってなかったからさ。今、いくら女の子だっていってもさ。僕、小さいじゃん? だから、ナンパされないって思ってたよ」
「そうじゃなくて」
蚊の泣くような声で結月が切り返してくる。
ここで言葉をたたみ掛けるのが定石だろう。そうしたら、誤魔化せるかもしれない。
「……いや……じゃ……なかった?」
思わず口ごもってしまった。
そりゃ、いくら身体が女の子とは言っても精神は男なのだ。
嫌かどうかと聞かれれば、嫌になる。
「まぁ……その。身の危険は感じたね」
あえて、質問には直接的に答えようとはしなかった。
「アタシはさ。お兄ちゃんが声をかけられているのを見てさ……その……手放したくないって思ったんだよね」
そう言って結月はより僕により密着してくる。
心拍数の高鳴りで思考がより早くなる。
下腹部辺りがもどかしくなり、そのもどかしさが心が溶けてしまいそうだ。
何分が経過しただろうか。
相対性理論の外側とでも言える、時間の流れがとてつもなく遅く感じたが、実際はほんの数秒。
「お兄ちゃん」
結月はそう囁き、手を下の方へと下げてくる。
服の下から、胸をダイレクトで揉まれ、肩が反射的に上がる。
このまま流されても良いかな、とさえ、一瞬の迷いで思ってしまう。
結月の吐く吐息が次第に熱を帯び、荒さも増していく。
「結月ストップ」
「やだ」
制止を聞くわけもなく、更に結月の手つきが下へ下へと伸びてくる。
さすがにこれ以上は後戻りできない――気がする。兄と妹という関係に置いても、性別という概念においても。
力尽くで振り解こうとするも、力負けして、冷蔵庫に壁ドンされる形になってしまう。
改まって、接近した状態で結月の顔を見上げると、格好良さを感じてしまう。
有無を言わすこと無く、結月は僕の太ももを念入りに触り始める。一度、僕と眼を合わせ、ほんの一瞬考えた素振りをしてから、結月は顔を首筋に顔を近づけてくる。
「ご、ご飯! 続きは……さ。ご飯食べてからでもいい……かな?」
完全に落とされる前に、せめてもの抵抗をしてみる。
若干――というか、かなり念入りにガッツリとなで回されたせいで、僕としても虚しい。
僕の言葉を聞いても依然として、手の動きを止めない結月。
僕の限界値はまだ大丈夫だけれども――結月の機嫌次第というモノだろう。
「そう……だね。うん。焦らすのも乙なモノがあるし」
そう言って結月は恥ずかしそうに笑った。
よし、仕切り直しが出来た。
「でも、こっちだけは先に頂くね」
「ふッグっ――!」
そう言って結月は僕にキスをした。
深い奴では無いにしても、下半身への攻めはかなり本気だった。
「我慢できて偉いぞーお兄ちゃん」
ニヤケ顔で結月は耳元で囁くのであった。
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