水着を買いに行こう
土曜日。
休日だからと言って午後まで寝ることが出来る身体では無いので、学校に行くときと同じくらいの時間に目が覚める。
ベッドの上でソシャゲのログイン回りを終えてから、リビングに行くが結月の姿は無かった。
冷蔵庫にあるホワイトボードにはランニングと結月からの連絡が書いてあった。
僕の朝は早いほうなのだが、結月の朝は更に早い。
一緒にランニングしたことは無いのでどこまで走りに行っているのかはわからない。
「ただいま!」
と結月の声が聞こえた。
時刻は6時。
何時から起きているのだろうか。
おかえり、と返事をして僕は朝食を食べることにする。
豆乳を飲みながら菓子パンを頬張っていると朝風呂上がりの結月がやって来た。
風呂上がりは全裸でうろつく結月だが、朝食時間と言うことで、さすがに服を着ていた。
「お兄ちゃん。今日はお出かけするよ」
「いきなりだね」
冷蔵庫から牛乳を取り出してプロテインをシェイカーで混ぜながら、結月は話を続ける。
「そろそろプール開きがあるじゃん? お兄ちゃん、水着持ってないから買いに行こうかと思ってね」
「あーそっか。そんな季節だったな。でも、水着は持ってるから買いに行かなくて――」
「お兄ちゃんは今、女の子です」
「そうだった」
僕、今、女の子だったわ。
性別が違うのだから、水着を買いに行かなくてはプールの授業に参加することは出来ない。
でもだ。
「水着ってアレだよね? スク水だよね」
「そうだよ」
頭痛がしてきた。
別に女体化してから女性下着は着用しているが、水着は別だ。
中学の頃に、目の保養と言わんばかりに女子の水着を見ていたから、僕も男子から同じ目で見られるのだと思うと、得体の知れない恐怖を感じる。
いや、別にネタにされるのが嫌だというか……むしろ元男として供給してあげるのが優しさと言うか使命というか……
「まぁお兄ちゃんの気持ちもわかるよ」
「わかるんだ」
「スク水を着ると股間の感じで、あっメスになったって感じちゃうんだよね。メス落ち感じちゃうね!」
「メス落ち言うな。それに、若干違う!」
確かに、これもメス落ちの一つだから結月にとっては興奮材料の一つな訳か。
「兎も角! 今日はお買い物行くよ! アタシはお兄ちゃんと一緒に海とかプールとか行きたいからね!」
牛乳割りプロテインを一気飲みして、結月は高らかに宣言した。
結月が一緒に海に行きたいと言っているのだ。
妹の頼みを聞くのがお兄ちゃんの役目だしね。
場所は変わりショッピングモール。
移動手段が自転車と公共交通機関しか無いから到着時刻は早い。
「ふっふっふ。久々にお兄ちゃんとデートだ!」
眼を輝かせながら結月はガッツポーズをする。
「嬉しいのはわかるけど、結月。お兄ちゃんじゃ無くてさ」
「おっと、そうだった。お姉ちゃんだったね」
ニコッと嬉しそうな笑顔を結月は浮かべる。
確かに、今の僕はお兄ちゃんじゃ無くてお姉ちゃんだ。それは紛れもない事実だし、変わることは無い。
だけれども、他人が見ると、結月の方が姉だと思うことだろう。
事実、ファッションが結月の方が大人びているのだ。身長も相まってモデルといっても過言では無い。実際、男子が何人も、結月を見て振り返っていたし。
では対する僕はどうだろうか。
僕にファッションに関する教養はゼロに等しい。なので、結月にお任せしているのだが、結月は僕の好みを知っているのでちょうど良いコーディネートをしてくれている。
ホットパンツとパーカーなのだが、さすがセンスが女の子。
僕を初めとしたモテない男子が好きそうな感じになるのでは無く、女子受けも良さそうに仕上げてくれている。
「あ、そうだ。学校用と普段用の水着を二着買うからね。普段用がどんな水着が良いか考えててね!」
「普段用の水着ってどんなの?」
「ビキニとかあんなのの事だね」
「ですよね」
ビキニとか言われても、僕実物見たことが無いんだけど。
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