部活動の勧誘は断りずらい
翌週の学校。
宿泊学習の効果があってか、クラスでは男子にしろ女子にしろ幾つかのグループができあがっており、それでもなお、ぼっちを貫いている人は二、三人しか居なくなっていた。
「渚ちゃん、一緒に部活動見学回らない?」
ボーっと人間観察をしていたら美愛が誘ってくれた。
今日から一週間、部活動見学がある。
この学校の名目は文武両道と、自称進学校にありがちな事を銘打っており、そのせいでやけに部活動の種類が多い。マンモス校だから納得はできるけど、その中で一体、どれだけの部活動が優秀な成績を収めているかと聞くのは、禁句という始末だ。
「ちなみに瑞月ちゃんと芽依は入る部が決まってるからって事で先に行ってるよ」
「琴乃葉、部活入るんだ」
琴乃葉が部活動に入るというのは意外だった。
人を見た目で判断するのはよくないが、ギャル的な見た目から部活動に所属して活動している姿よりも、放課後にカラオケやバイトをしているイメージの方が似合っているだけに、思わず気持ちが漏れてしまう。
「私も意外だなって思ったよ。でも二人とも文科系の部活動だね」
「文科系……てっきりマネージャーでもするのかなって思ったよ」
「写真部らしいよ。運動部みたいに本気でしなくてもいいし、マネージャーじゃ無くても運動部との関わりが深そうって理由らしいけど。因みに発案者は瑞月ちゃんだね」
さすがは橘。打算的に男子とかかわりを持とうとするあたりが実に小悪魔。
そして橘の意見に賛同しちゃう琴乃葉は、どれだけ男子にモテたいんだよ。
「僕としては女子マネの献身的な感じも良いっておもうんだけど」
「だな。私が男子ならそっちを選ぶ」
モテるモテない以前に、女子力皆無な会話をしてしまってる僕と美愛。
こんな会話をしている間にも教室に残る生徒の数は段々と減っていき、廊下にはまるでキャッチのように新入部員を捕まえようとしている上級生の姿が見えてきた。
「美愛はなんか部活入るの?」
と僕は美愛に聞きながら、スカートを脱がずに体操服の短パンを履く。
「私は高校になったら部活しないって決めてたからね。好きなことしたいし。あと、パンツ見えてたぞ」
「スパッツだし。別に見られたところで減るもんでも無いじゃん?」
「翌日の男子のDNAと亜鉛は減るわよ」
「……遠回しの下ネタだね」
それだと、オカズが一品増えるから良いんじゃないか、と思ってしまった。
流れでスカートも下ろして上着も脱ぐ。あとは、長袖の体操服を着て準備完了。
長袖を着たところで美愛は僕のことを見つめていた。
「もっと恥じらいを持ったほうがだな……」
「教室で下ネタ言うよりは良いじゃん」
「それを言われると……ま、着替えも終わったようだし行こうか」
痛いところを突いてしまったからか、美愛は逃げるようにして話題を切り替えるのであった。
教室を出るなり直ぐに第一部活動勧誘に捕まった。
長袖長ズボンの体操服に手ぶら。そして女子が二人。
校舎に居るって事は室内競技か文化部。服装を考えると、バスケかバレーボール、吹奏楽と言う辺りだろう。
僕の見立てでは吹奏楽部だ。
理由は偏見だが、バスケ部は短パン率が高いということ。バレー部にしてはお尻に魅力を感じられないことだ。
「お二人とも入る部活って決まってますかぁ?」
美愛と目を合わせる。
決まってないってよりは入る気が無いので、回答に困ってしまう。
「確定では無いですけど……」
やんわりとした返事を美愛はする。
僕も断言はできないので頷いておく。
「あ、そうなんですか。もし良かったら、うちの部、見学しませんか?」
ですよね。
勧誘ですよね。
しかも、暇かって尋ねて暇と答えてから用件を言ってくる辺りに、退路を断ってきているのでかなりの手練れだろう。
「ちなみに吹奏楽部ですか?」
「正解だよー。ってなんでわかったの?」
「へ? い、いやぁ……たまたまですよ」
体つきでわかった何で口が裂けても言えない。
しばし、美愛と見つめ合ってから「行きます」と渋々返事をして音楽室へと向かうのであった。
音楽室。
「二人来てくれたよー」
と勧誘員の言葉と共に視線が一気にこちらを向いた。部員の人よりも一年生の方が多い。
その中でも入りたくて見学しにきたと言う人は少なそうで、大多数が僕たちのように断るに断れなかったと言った様子である。
居心地があまり良くない部活動見学が終わり、既に一時間過ぎ去っていた。
あまり興味が無いことを体験しなければならないというのは、精神的に疲労が蓄積される。
「あれ、奈央がいる」
「知り合い?」
「同中だね。ってか同じクラスだよ」
「まだ、顔と名前が一致して無くてね」
目線を逸らしながら相槌を打っておく。
居たっけなぁそんな子。
ざっくりと眺めてみた感じ、女子しかいないし。
女子なら風呂に入ったときに顔は覚えているはずなんだけど、全然、見覚えが無い。
「よっ、奈央。吹奏楽部に入るのか?」
「ちょっと断り辛くてね……あはは」
美愛が声をかけて、奈央さんの顔と名前が一致したけれども、お風呂で見た記憶は無い。
容姿は可愛いらしいし、声も美愛より高いので、覚えていてもおかしくないはずなんだけどね。
「あ、潮風さんと話すのは初めてだね。雪峰奈央だよ。よろしくね」
「あ、うん。どうも。潮風渚です」
自己紹介をしてみた感じ、雰囲気は橘に似ていて、小動物感が男心をくすぶらせる。それでいて、橘の私可愛いでしょ感を出していないので好感度が高い。ただし、胸は琴乃葉くらいだ。
「あの……そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど」
しまった。バレた。
「ご、ごめん。ちょっと……うん」
「渚ちゃん勘違いしてそうだから言うけど、奈央は男子だから」
「「え?」」
僕だけで無く、吹奏楽部の部員の人たちからも驚きの声が出た。
「僕、男の子だよ」
その男の子は男の娘と言うことだよね。
「ホントに?」
「嘘ついても仕方ないんじゃないかな」
「奈央が男だって事は私が保証するよ。なんせ、幼馴染みだからな」
どれだけ聞いたところで、確証は得られないんだ。
それはシュレーティンガーの猫のように。
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