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秘密の花園に潜入した代償は羞恥でした。

 カレー作りはその後もお喋りに花を咲かせながら淡々と進んでいった。

 そしてできあがった訳なのだが、味の感想と言われても結局、宿泊学習で作るカレーだからと言って特別美味しくなるわけでもないし、何ならトッピングのバリエーションが福信漬け以外無い訳なので物足りなく感じる人も居るだろう。

 強いて食レポをするならば、米の状態くらいのもので、これは完全に人の好き嫌いに左右される気がする。

 トドの詰まるところ、結局はカレーはカレーなのだ。

 余程、料理が苦手な人では無い限りそれなりのモノができるのだ。


 そんな感じで本日の日程はほぼ終わりを迎えようとしていた。

 今日ある残りの日程としては一時間の学習と風呂――風呂なのだ。

 ある意味、僕にとっての宿泊学習最大のミッションと言っても過言では無い。


 だって中身は男だぞ。

 同級生の裸を見るのは……抵抗? と言うのは失礼だし……むしろありがとうなんだけども……

 まぁ結月のように同性であったとしても危険な存在は居るわけだし。

 僕が肉食的じゃ無いからがっつかない分、良かったのでは無かろうか。


「お風呂の順番はクラスごとだってさ」


 班長と言うことで会議に出向いていた琴乃葉が気怠げそうにそう言った。


「ちなみに順番は二番目。風呂の時間は20分。かなり忙しいわね」


 ぼやくように言いながら琴乃葉は淡々とお風呂の準備を始める。準備とは言っても、そんなたいそうなことは無く、シャンプーなどが入った袋と着替えをいれるようの袋を取り出して着替えを詰めているだけなのだけれども。

……って下着が見えた!

 意外とブラのサイズが小さいぞ!

 別に下着フェチじゃ無い僕とは言っても、さすがに陽キャの下着には気になってしまうのは男の性だよね。

 ちなみにこの間、体感で約2秒。

 時止め能力者と同程度の演算処理をしたと言っても過言では無い。

 同性の下着をガン見したと悟られないように、僕もお風呂セットの準備を始めることにする。


 ふと思ったのだが、女子同士の風呂ってどんな感じなんだ?

 アニメとか漫画では「どんなシャンプー使ってるの?」とか「肌綺麗」とか言ってるけれども、リアルはわからない。

 結月と風呂に入ってはいるけれど、胸を揉んできたり、お触りNGなのにリンパマッサージと称して意味深なことをしてくるような事は二次元ではあっても現実では、ほとんど無いだろうし。

……きっとこの考え方をすること自体が、僕の悪いところなのかもしれない。


「お風呂の順番だよー早く行ってくださーい」


 と女教師の声が聞こえてきた。所々、言葉を伸ばしているとは言っても、かなりキツい声質だ。

 早歩きでもしているのか、靴の音が速いペースで近づいてきて催促してくる辺りに、運動会の定番曲の剣の舞のようだった。


「人が多くなる前に行くわよ。みんな、準備はいい?」

「オッケーだよー」

「オッケだね」

「いこいこ」


 琴乃葉のかけ声と共に僕たちは足取り軽く浴場へと向かうのであった。




 女子浴場は男子浴場とで何か大きな違いがあるわけでは無い。こういう場所あるあるなのだろうが、大浴場と小浴場があり、その時その時で男女で入る風呂が違うという程度だ。あと、のぞき対策のためか、それぞれの浴場は少し離れた位置に位置している。

 まあ、僕は今から女子風呂に入れるのだけれども。


 女と書いてある赤い暖簾をくぐって脱衣所に入った。

 ついに秘密の花園への侵入だぜ、テンション上がるな。

 脱衣所では前のクラスの生徒がまだ少し残っていたようで、体操服に着替えているようだった。


「よぉし! 作戦通りクラス的には実質、一番風呂ゲットぉ!」


 初の女子風呂に内心でテンションが上がっている僕よりも、テンションが上がっている琴乃葉はガッツポーズをしていた。

 なんだよ、この可愛い娘。

 スクールカースト上位のイケイケ系陽キャだと思ったけど、性格面で上位の方に位置する娘だよ、きっと。


「なんかテンション上がってるけど、どうしたんだい? 普通に処理忘れたから、人に見られる前に早く入りたいとか?」


 引き気味の美愛が靴下を脱ぎながら話し掛けた。


「そこはぬかりなく……ってムダ毛如きはどうだっていいのよ。アタシはただ大きなお風呂にゆっくりと入りたいのよ」

「なんかすごい、おじさんだな」

「なんだったかな、妹から借りた漫画にあたしの気持ちを代弁してくれる言葉があったような気がするんだけど……」


 到底ピチピチのJKとは思えないような内容をギャルと美女が会話に花を咲かせていた。

 この話をしている間、衣類を脱ぎながら話をしている訳なのだけれども、僕の動きは今は止まっている。


 いや、なに、その……うん。


 ムダ毛の話で思い出したのだ。

 僕、生えてないじゃん。

 高校生なら生えてそうなところが生えてないんだよ。

 別に生えていなかったからと言って、デメリットが思い浮かばないけどさ。

 なんか恥ずかしいじゃん。

 そう。それは、小学五年生のプールか宿泊学習の風呂の時のように。


「潮風さん、動き止まったけどどしたの?」

「ん? いや、ちょっと考えご……どぉッ!」


 下着姿でフリーズしていた僕を気にしてか、橘は声をかけてくれた。

 それも一糸まとわぬ姿で。

 ロリ顔なのに胸が大きい。それもそこそこ大きい結月よりもだ。着痩せどうなってんだよ、って言うくらいには胸がある。ついでに言うなら、僕には生えてないところが普通に生えそろっていた。


「今、童顔なのにおっぱい大きいなって思ったでしょ?」


 しっかりとバレていた。

 それも無理は無いよな。

 変に声が上がっちゃったし。


「思い……ました」


 素直に白状してみたけれど、これが存外、恥ずかしい。

 恥ずかしがっている僕を面白がってか、橘は小悪魔的な笑みを浮かべていた。


「ムッツリさんだなぁ。真っ赤だよ、渚ちゃん」


 橘はまるで小動物を見るときの優しい顔つきになっていた。

――ってちゃっかり僕のことを名前にちゃん付けになってるし。


 いつまでたっても、女体観察で目の保養をしていては時間がいくらっても足りないので、思い切って服を脱ごう。

 古来より、こちらも脱がねば不作法というモノという言葉もあるわけだしね。

 生えてない、本当の意味での生まれたままの姿なんだけどね。


 ソソクサと下着を脱いで体を洗うようのタオルを探す。そしてこういう時に限って、捜し物が見つからないというのはお約束というモノ。


「タオルなら落ちてるよ」

「あ、ありがと」


 礼を言いながらタオルを拾い、橘の方を振り向く。するとキョトンとした表情をした橘がいた。

 まぁ、前を隠してないわけだし……言いたいことはわかる。


「二人とも何でお見合いしてんの……っておぉ」


 奇妙な光景を不思議がってか美愛が話し掛けてきた。

 美愛は美愛で僕を見て声を漏らしているが、僕も僕で圧巻の声が漏れた。

 デカーい! 説明不要!


「潮風さんって養殖?」


 首にタオルをぶら下げた琴乃葉も更に話に入ってきた。そして、核心を突いてくる。

 琴乃葉は……うん。僕よりある気がする。うん。気がする。


「養殖って具体的に……」

「パイパ――」

「天然です」

読んでくださりありがとうございます。

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