妹と裸の付き合い
目を開けてお風呂場に入ってから直ぐに思い出した事がある。
入って直ぐに鏡があるタイプの風呂場なのだ。
詰まるところ、いきなり目の前に女の子の裸が現れたのだ。
心臓が一瞬止まったと錯覚するくらいに血の気が引くのを感じる。
だが血の気が引いたおかげで頭が冴え、一気に自分の身体の現状を把握できた。
確かに胸はほぼ無かった。だが、男子の胸とは確実に違うと理解できるくらいにもある。
少なくとも、銭湯の男湯に女子小学生と偽って入るとしたら、男子のセンターが反応する人は反応しそうなくらいにはある。
少し目線を変えると、男の時に生えていたムダ毛が全くないことに驚く。
四肢はもちろんのこと、脇と胸も無かった。
肉体年齢自体は結月の見立て通り小学生くらいのようだと下半身を見て感じる。
「お兄ちゃん、いつまで立ってるの?」
シャワーすら出さず、突っ立っていると結月が入ってきた。
「ごめん。ちょっと、自分をガン見し――」
背後から声をかけられたので思わず振り返ってしまい、結月の生まれたままの状態を見てしまった。
女体化した今の状態で妹と比べるのも違うと思うが、負けたと実感する。
僕の眼前に結月の胸があった。谷間が出来るくらいには大きい。ピンクと茶色の中間色のアクセントにも目を引かれる。
冷静になって考えると、女子中学生の生胸を初めて見たかもしれない。
僕の下心が見え見えの視線を感じてか、結月は自分の胸を持ち上げながら呟いた。
「……揉む?」
「揉まないよ!」
恥ずかしさとはひと味違う、人をもてあそぶようなサディスト的な笑みを結月は浮かべていた。頬が少し赤くなっている辺り本当は恥ずかしいのでは無いかと感じる。
「そうだ、お兄ちゃん。髪洗ってあげるよ!」
結月は嬉しそうに、僕に座れと促してくる。
結月の容姿が整っていることもあり、そういったタイプのことを店のような雰囲気を醸し出す。
「髪くらい、自分で洗えるんだけど」
思わず、引き気味に言ってしまった。
実際、いくら筋肉量が減っていると言ってもそれくらいは出来る。
「女子には女子の髪の洗い方があるんだよ」
断言して結月は距離を詰めてきた。圧力で忖度をさせにきている。
ただ、髪を洗ってあげたいという母性の欲求が溢れ出ているだけと好意的に解釈すれば、それを拒むのは悪い。
今日だけは素直に結月に任せてみる。
「じゃ、じゃあお願いしようかな」
声が裏返りながら僕は風呂椅子に座る。
「素直でよろしい。それじゃあ洗っていくよー」
鼻歌交じりで嬉しそうに結月は予洗いを始めた。
他人に頭を触られる経験が無いので変な感覚だ。
気恥ずかしいが安心する。
アニメで良く見る光景だが実際、されてみるとあんまりときめかない。もとより、頭ポンポンしたい欲が無いからかもしれないが。
「シャンプーだけど、私のを使うよ」
可否を問わず、結月は自分のシャンプーを手で泡立て始めた。
女子との距離が近くなったときと同じ匂いがする。
僕の何度かその匂いに心をときめきさせたものだが、その匂いをダイレクトに嗅ぐとなんだかありがたい気持ちになる。
結月は泡立てたシャンプーで僕の頭を洗い始めた。
他人に髪を洗われるのは意外と気持ちいい。
「ねえ、お兄ちゃん。今日から妹って事で」
「それはダメ」
「だよね。はい、目瞑って」
全体を洗い終え、シャンプーを洗い流す。
シャワーが止まってから目を開けると、鏡越しで結月は満足そうな笑顔を浮かべていた。
そのまま流れ作業でトリートメントまでしてくれた。
「終わりだよ。先に湯船に入っててね」
結月は上機嫌な様だった。そのままのテンションで背後から僕の胸をわしづかみしてくる。
胸を揉まれるときに結月と更に密着する。背中に結月の胸の柔らかさがダイレクトに伝わり、思わず動きが硬直してしまう。
「ねえ、お兄ちゃん」
「どうした、妹よ」
「これって心のアレは反応してる?」
普通に反応に困る問いをしてくる。
結月のしてやったりと言う顔は、明らかに確信犯だ。
答えは明白なのだが、いざそれを結月にカミングアウトするとなると恥ずかしさが段違いに違う。
苦し紛れに目線を逸らして言うことにした。
「滅茶苦茶してる」
僕からその一言を聞いて、結月は歯がゆそうに笑っていた。嬉しい思いを隠そうとしているが、顔は正直ににやけているといった感じだ。
「よかった」
結月は耳元で囁いた。
完全に兄を反応の良いオモチャとして扱っている。
僕の恥ずかしさの方が頂点に達したので、力尽くで結月の拘束を解こうとする。
だが、無理だった。
「残念だけど、お兄ちゃん。今の物理的な力は私の方が上なんだよ」
最後まで結月の思う壺だった。
結月は手を僕の胸から脇に移動して持ち上げる。
「はい、お風呂でちゅよー」
とことん子供扱いをしてくる。
兄が女体化したという事実を楽しんでいるようだった。
そして結月の顔は相変わらず満足そうだった。