連絡先の登録法を知らないのは機械音痴だから
「――はい、以上ですね。この後、配布物があるのでしばらく休憩」
担任はそう言って教室を後にする。
担任が不在となった教室では馴れ合いが繰り広げらるることとなった。
馴れ合いと言っても尋問に近く、イケメンに対してグイグイ行く肉食系女子と野球部が会話をしている程度なのだけれども。
イケメンや坊主頭の男子生徒は持ち前のコミュ力というのだろうか、それとも中学からの同級生なのかはわからないが、存在感を感じさせるのには十分な声で会話をしている。女子生徒も男子生徒と話している内容は同じようなものであった。
異性に対して話しかけている人達は妙にガツガツしてる感じだと初対面でも感じられるほどで、胃もたれをしてしまいそうだ。
上品に言うなら――肉食系を上品に例えにくい。肉食系はどこまで行っても肉欲に飢えている以上、下品になってしまう訳であって、頑張ったところでロールキャベツなのだ。
率直な感想を言うなら、少子化に貢献してくれてありがとう。
この居心地の悪さも入学式らしいと言えばそこまでなのだが、いいものでは無い。
青春の一ページにキラキラしている人たちがいる一方、僕は一人、席にちょこんと座ったまま、この場をやり過ごそうとする。
一定数、僕と同じ作戦をしている同士入るのだから「その人たちと話をすればいいじゃないか」と言われてしまいそうだが、それくらいに話を自発的にしようと思えているのであれば、今頃、僕たちもばりばりしゃべれる陽キャなわけである。
だがしかし、同じ中学の人が来ないような学校を自ら選んだ僕にも非はあるけれど、入学式初日から話し相手がいないとは思わなかった。
何でそんなにみんな、初対面の人とポンポン話せるのだろうか。
ひょっとして、陰キャの中に陰の陽が存在しているのではなかろうか?
あの特有の早口はきっとそこから――
「よっ!」
――しょうもないことを考えている僕を気にかけてくれてか、隣の席の女子生徒は声を掛けてくれた。
容姿端麗で黒髪ロング。加えて胸も大きい。
間違いなく男子受けが良いタイプだ。
声に反応して振り向いたら目が合ってしまい、一瞬ドキッとする。
「あ、あ、ど……どうも」
そんな隣席の美女学生が煌びやかすぎて、コミュニケーションが苦手そうななんとも情けない声が出てしまった。
初見でやべぇ奴ムーブをかましてしまった僕を茶化すことなく話を続けてくれる。
「あたしは相沢美愛。渚ちゃんと趣味が同じだから声をかけてみたよ」
初対面で名前呼び。しかも、ちゃん付けと、コミュニケーション能力の高さが窺える。
「こちらこそよろしくです、相沢さん」
「あたしのことは美愛でいいよ。んでんで、ゲームはゲームでもどんなのやるの?」
第一印象が美人だっただけに、がさつなしゃべりとゲームに食いついてくる辺り、ギャップを感じてしまう。これがサバサバ系女子なのだろうか?
中学の頃、同学年にゲームをやっているような女子がいなかっただけに、ジャンルを聞かれても話しづらい。
王道を行くRPGと言っておけば間違いない気がするが、近頃はソシャゲと言った方が無難なのだろうか。
「あたしは最近FPSやってるよ。ほらあの、銃で人撃つやつ」
「FPSやるのですか!?」
「なぜ敬語? んまぁ、何でもやってるんだけど、最近はって感じだね。流行に乗るタイプだからさ、あたし」
パッと見、ゲームとは無縁そうな見た目をしている相沢だが、日本ではまだマイナーに分類されるFPSをたしなんでいる辺り、かなりのゲーマーなのかもしれない。
そのことを察知した僕は、なぜこの美人が僕に話し掛けてきたのかがわかる気がする。
「んで、渚ちゃんはどんなゲームしてるの?」
「FPSは妹とやってるけど、私はあんまり得意じゃなくてね。最近は○○モンしてるよ」
「いいねぇ。あたしも三ヶ月前まではレートに潜ってたよ。それはそうと、ほい。私の連絡先」
そう言って相沢はQRコードが映し出されたスマホの画面を僕に見せてくる。
「あ、ありがとう……その……追加の仕方がわかんないんだよね」
今時、高校生にもなって連絡先の交換方法もわからないというのはいささか恥ずかしい。
きっと携帯電話が普及し始めた頃やポケベルの頃ならば笑い話で収まるのだろうけど、このご時世に置いては哀れな話である。
「んじゃ、やり方を教えてあげる。まずここ――」
哀れんだ顔をすること無く、相沢は僕に連絡ツールのやり方を教えてくれた。
友達の項目に公式アカウントを除くと妹しかいないのも見られたが、詮索されること無く終わった。
その後直ぐに、クラスのグループチャットに招待され、中学生の自分では考えられないくらいに初日は満足と行く結果となった。
次回更新は明日!
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