今日から始まる学生生活
時刻は午前十時。
結月に連れられて、僕は病院へやって来た。
待ち時間が何とも言えない心地の悪さがある。
保険証に書いてある性別では男となっているのに、やって来た実物は女だったら、病院側が不審がるのも仕方が無いというものだろう。
もしかしたら、平日の午前中に学生が病院の待合室に居る現象に不審がっている、高齢者の目が痛すぎるだけかもしれない。
「渚さん。潮風渚さん」
テンプレートな呼び出しがかかった。
正直、病院でなんて話したら良いのかがわからない。
とりあえず、行かなきゃ話が始まらないので席を立つ。
「私もついてくからね」
そう言って結月も席を立った。
部屋に入り、流れるようにして椅子に座る。
「今日はどうされましたか?」
定型文を言うと見せかけて、話の的を得るような事を医者は言った。
「朝起きたら兄が女の子になっていたんです」
この雰囲気に屈すること無く、結月は話を切り出してくれた。
普通に考えれば、頭のおかしな病人が来たと思われてしまうことだろう。
実際にそう言われて、門前払いされても仕方ないと十分に理解しているつもりだし。
「なるほど……それでは検査しましょう」
予定調和と言わんばかりに、トントン拍子に話が進んでいる事実に、思っていた反応と違う、と僕は勝手に困惑している。
普通、朝起きたら突然性別が変わりました、と言ったら余程の聖人でない限り、疑ってかかるものだと思うのだけれども……
「突然性別が変わると言う病気があると言うことは認知していますので、驚かれなくても良いですよ。それに、前にあなたを診断したことがありますし」
そんな業務的な内容をしてから、結月と別れ、僕は看護婦に連れられて検査を受けることとなった。
その後、様々な検査をし、全て終えることには、時刻は余裕で昼を回っていた。
血液を採取したり、CTで内臓を見られたり、服を脱いで身体的特徴を見られたりしたのはもちろんのこと、身長や肺活量も検査した。
そして今、僕と結月は医者の前で話を聞くこととなった。
医者は何を考えているのかわからないくらいに難しい表情をしていた。
沈黙の緊張感がひしひしと伝わってくる。
「詳しいことは妹さんが話したいとのことですので、お聞きください。私から言えることとしては、命に別状は無いので入院の必要はありませんが、週に一回は通院してくださいね」
お大事に、と作業的に付け加えて言う妙にあっさりとした診断が返ってきた。
命に別状が無いと言うだけで、安心はできるのだが、僕が知りたいのはそういう事では無い。
「あと、お兄さんが一番、知りたがっている元に戻れるかについてですが、この病気に根本的な治療法はありませんので、過去の事例に戻った例があると言うことだけ、お伝えしておきます」
僕の気持ちを察してくれたのか、医者は最後にそう教えてくれた。
要するに治るか否かに関しては、希望観測と言うことだろう。
戻る可能性があると言うことだけでもしれただけで、僕は満足だった。
その後の色々な手続きは物凄く早かった。
早いとは言ったものの、月は変わり四月になった。
今日から晴れて高校生。
結月に細かいことを教わりながら着る、真新しい制服は僕の人生の再出発を一層、実感させられる気がする。
「これ防御力低すぎないか?」
「明日から下に短パン履いてけば良いじゃん」
結月はそう言って、制服姿の僕の写真を撮る。
「どこからどう見ても女の子だね」
「中身は男なんだけどね」
結局の所、春休み中に僕が男に戻ることは無かった。
身体の成長も止まっているのかは定かでは無いが、身長も体重もほとんど変化が無い。医者曰く、身体年齢は小学校高学年くらいで止まっているらしい。
「てか、これ大丈夫? 中学生って思われない?」
「中学生とは思われないと思うよ。良いところの小学校に通うお嬢様って思われるんじゃ無いかな?」
「ロリ化してるんだけど……」
「実際、天然でツルツルなんだし、ロリじゃん」
そう言われると、ぐうの音も出ない。
時計を確認すると、時刻はちょうど良い時間になっていた。
「それじゃ、時間も時間だし行ってくるよ。てか、結月は遅刻だけど大丈夫なのか?」
「私は大丈夫、大丈夫。部活をサボってる時点で内申点なんて無いようなもんだから」
「それはそれで、どうかとおもうんだけど……」
いつまでも、結月と話せそうだが良い感じで切り上げることにする。
そんな少し浮ついた気持ちで、僕の女体化した高校生活が幕を開けるのであった。
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