攻守交替
攻守交代と言うことで、僕と結月は立ち位置を入れ替わる。
先ほどまでセクハラをしていた結月は、全く気にすることも無く、お風呂椅子にちょこんと座る。
今、ここで一緒になって僕も結月にセクハラ身体洗いをしては、ろくな事にはならないことは目に見えている。ボディーソープを泡立てながら、こみ上げていた邪な下心を落ちつかせる。
「明日は病院だったな」
「そうだけど、いきなりどうした?」
「どうしたって言われてもね。その……元に戻れるのかなって」
返し方までは考えていなかったので、歯切の悪い返答をしてしまった。
ごまかしとして、僕は結月の背中を洗い始める。
「元に戻れるかって言われたら、難しいかもしれないけど、なるようになるさ。私も居るわけだし」
結月は呟くようにそう言った。
場の雰囲気が凍り付くとまでは行かないが、気まずくなってしまった。兄が妹に向けて弱音を吐いた次点で、こんな感じになることは目に見えていたのに、言ってしまった僕の責任だ。
少しでも空気の吸いやすい雰囲気にするために、兄として、地雷を避けた話題を振る。
「今日も一緒に寝る感じか?」
「私はそのつもりだけど、無理にとは言わないよ。もしかしたら、女の子生活が最後かもしれないから、お兄ちゃんも一人でやりたいこともあるでしょ?」
「別に一人ですることは無いんだけど」
「じゃ、二人でする?」
「何をやるんだよ」
「そりゃぁね。ナニをヤるんだよ」
途中から回答がわかってて話をしていただけに、何とも言えない、気持ちになってしまった。
もしかしなくても、昨日の続きをしたいと誘っているのだろう。
昨日の出来事を思い出していると、恥ずかしさがこみ上げてきたので、洗う場所を変える。
そんな感じで、洗い合いをすること数分後。
「前は自分で洗ってよ」
「はいよー」
定型文的な会話のあと、結月は僕の方を振り返った。
振り返った時、偶然、結月の顔の位置が僕の股間付近だった。
振り返ったとき、目の前に股間があるというのは兄妹であってもさすがに気まずい。
「生えてたら当たってたね」
「……そうだね」
気まずい。
さすがの結月でも、股間をガン見してしてしまうのは恥ずかしかったようだ。
「私は前を洗うから、お兄ちゃんも洗ってないところを洗いなよ」
そう言って、結月は僕が椅子に座るよう促してくる。
僕も恥ずかしかったので、結月と変わるようにして、椅子に座ることにする。
その後、お互いに洗っていなかったところを洗うこと数分。
我先にと、結月はシャワーを手に取った。
「よし、それじゃ流すよー」
口でそう言いながら、同時進行で身体に付いた泡を洗い流す。
ようやく、気まずいお風呂が終わる。
一瞬そう考えたが、実際は違っていた。
なぜだかはわからないが、結月は必要以上に、僕の下腹部にシャワーを当ててくる。
「なんで、そんなに集中して股にシャワーを当ててくるんだい?」
「尿意を促進させようかと。もう諦めるから」
寂しそうに結月はそう言って、泡を流し始めた。
その後、夕食を食べて、安息の時間となった。
特に何かすることも無いし、この後、一緒に寝ることを考えたら、結月の部屋でもうスタンバイしていた方が良いのでは、と考えて、結月のベッドに転がり込む。
自分のベッドに兄がダイブしたのを気にしていない結月は、パソコンを立ち上げて何かしらの作業を開始した様子だった。
「結月ー漫画借りるよー」
適当な結月の返事を聞いてから本棚の物色を始める。
今まで、趣味の違いから漫画を借りたことが無かったのだが、こうして改めてみてみても、一目惚れするようなタイトルのものがない。
とりあえず、適当に三タイトルの一巻を抜き出して、ベッドの上に再び寝転がる。
一冊目は今の僕と同じ状態の漫画――つまるところキャラクターが女体化した漫画だった。何とも言えない、シンパシーを感じる。
二冊目は男の娘漫画。帯にボイスドラマ発売と書かれているので、人気がある漫画と言うことがわかる。
三冊目は……三冊目は何だ?
青年向け雑誌の連載で、僕も知ってるレーベルなのだが、ジャンルがわからない。
「その本のジャンルがわからないって様子だね、お兄ちゃん」
ヘッドホンを外した結月が話し掛けてくる。
「そのタイトルはまとめサイトでも常連だから、お兄ちゃんも見たことがあるかもしれないけど、その漫画は内容に深くツッコんじゃダメだよ」
ドヤ顔で、結月は僕に対して助言をしてくれた。
自分の言いたいことだけ言って、結月は再びヘッドホンを耳に当てた。
まぁ夜は長いのだ。
とりあえず、寝落ちをするまで、結月の持っている漫画を読み漁ることにしよう。
読んでくださり、ありがとうございます。
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