リンパの流れの終着点
「よ、よし! もう一回、椅子に座ってもらっても良いかな?」
「そ、そうだね。仕切り直しが大切だし、一回座るよ」
気まずさをかきかき消すために、空回りしたテンションで一旦、仕切り直しを計る。
まてよ。
絶対、入ってる現象の気まずさを隠すために、椅子に座ったところで何も変わらないのでは無かろうか。
普通、仕切り直すとしたら、僕が結月の体を洗うというのが自然な流れでは無かろうか。
「仕切り直しを兼ねて、上手く洗えなかった太ももを洗うよー」
「え? あぁ、うん?」
僕が思考を巡らせるよりも先に、結月は会話を再開してくる。
僕の不確定な返事を聞いて直ぐに結月は、身体を密着させてくる。
水分でより一層、密着度合いが高まっているせいでか、結月の胸の柔らかさがモッチリとした感じで背中に伝わってくる。
「ゆ、結月さん? 肌と肌の密着度合いが高過ぎはしませんかね?」
「じゃないと太ももが洗えないじゃん」
理由になっているのかはわからないが、結月はそう言ってやや強引に僕の太ももを泡のついた手で触り出す。実際に見たことは無いが、ドラマや動画で、女性の太ももを触るあのセクハラチックな手つきだった。
優し過ぎるくらいのソフトタッチに、ゆっくりゆっくりと力を加えてくる。
その力加減が絶妙で、閉じていた股が、徐々に空いていってしまっていることに気が付いた。
結月の手が段々と、中心部に伸びているのに気が付いて、急いで股を閉じようとする。
「別に力入れなくてもいいんだよ?」
「そうは言われてもね。身の安全が第一だし」
「意外と身体は正直なんだよ。ほら、また脚開いてる」
結月に指摘されてから、脚が自然と開こうとしていることに気が付いた。
同人誌でしか聞かないような台詞は実際に聞くと、シラケるのが定石なのだが、実際にその通りだと複雑な気持ちになる。
これ以上、結月の手つきに逆らっても、良くなる未来が見えないし、上手く行ったところで痛み分けで終わりそうなので、大人しく結月のいやらしい手つきを耐えることにする。
鼠径部付近を洗われるときに、時折その中心を触られるのが、どうしても気になってしまう。
だが、結月が下ネタとして使う頻度が高いハンドサインの構えで触ってきていないので、悪意は無い――と信じたい。
不慮の事故と言えばそうだが、故意の事故という可能性もある。
不幸中の幸いか今の僕は男では無いので、感情の高ぶりを結月に察知されないの救いだった。
もしも今の僕に男子のメタファーである主導権があったのなら、完全に結月に主導権を両手で握られるのは確実だったことだろう。
だけれども、今のこの状況ではあった方が良かったかもしれないとも思えてくる。
僕に女性経験が無いように、結月には男性経験がないのだ。
いくら兄のモノとは言え、大きめのソレを見れば多少は躊躇してくれそうな気がするという考えなのだが――ダメだな。僕が恥ずかしすぎる。
「そう言えばさ」
考えを巡らせていたため無言になっていた僕を堪忍したとでも思ったのか、結月が話を切り替えてくる。
「お兄ちゃん、おしっこしてないよね?」
結月はそう言いながら、手を太ももからお腹へと移動した。
僕としては、さっきまでしていた話とは、関係の無い話題が出てきたので反応に困る。
「トイレには行ってないけど……昨日も言ったけど、お風呂はトイレをするところじゃないかな?」
「この状況で、そんな台詞を言えるのかな、お兄ちゃん?」
結月は不敵な笑みを浮かべていた。
良からぬことが起こる予感は感じたが、行動の主導権を結月に握られている以上、今の僕にはどうすることもできない。
僕が直ぐに行動できないことを良いことに、結月は不意打ちのように僕の下腹部を押した。
きっと、結月は膀胱を圧迫することで、尿意を感じさせようという魂胆なのだろう。
だが、もとより、尿意を感じていない僕が、どれだけリンパを刺激されようと失禁することは無い。
「リンパから流れ出した老廃物はここに流れ着くから、出しちゃっても良いんだよ」
そう結月は優しく語りかけてくる。
だが、僕は尿意を感じない。
「しぶといね」
「何でそこまでして、人の排泄を見たいのか、僕にはわからないんだけ――」
話の途中で結月は、僕のお尻と座っている椅子との間にある隙間に指をツッコんできた。
なぜだかはわからないが、強烈な寒気が背筋に這い寄ってくるのを感じる。
「不意打ちしてみたけど漏らさないか」
ガッカリしたように、結月はポツリと呟いた。
そして直ぐに言葉を繋げる。
「攻守交代と行こうか、お兄ちゃん」
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