何気ない日常が良いんだよ
年齢的には結月が小学生に恋をしたところで、何の問題は無い、と本人が高らかに宣言すること数秒後。
間の悪い静寂がお風呂場を包み込んでしまった。
「それで……お風呂の良さについて教えてくれるのかな?」
悪くなった空気を気にしないふりをして、結月は話を続ける。
正直な話、妹に自分の性癖について語りたくない。
だけれども現状、会話にしても肉体にしても主導権は結月に握られている事を考えると、そうは問屋が卸さない気がする。
「ちなみにだけど、拒否したらどうなるのかな?」
「そりゃ……まぁね」
結月ははにかむ笑顔でお茶を濁した。
口では大人しそうだが、ハンドサインはドギツイことをしている。
興味本位で聞いてみたのが間違いだった。
「早く言わないと、本当に入れるよ?」
「わかった。わかったから、深呼吸!」
焦れったくなったのか、結月は脅迫まがいなことをしてきたので覚悟を決める。
「イチャイチャできる感じが良いじゃん?」
若干、言葉を濁して言ってみたが恥ずかしかった。
温度差の違いからか、結月は納得していないと言いたげな表情をしている。
「別にお風呂じゃ無くてもイチャイチャできると思うけど」
懸念していたことを結月は、僕に気を遣うこと無く言った。感情のこもってない声だったが、手は依然として、僕の背中を擦っている。
確かにカップルなら、お風呂場に限らなくてもイチャイチャできるだろう。
潔癖症でも無いので、汚れたくないと言うのは理由にならないわけだし。
「裸の付き合いと言いますか……恥ずかしくて隠したくても隠せないって言うシチュエーションに萌える……のかな?」
なぜ自分の性癖を妹に説明しなくてはならないのだろうか。
そもそもの話、自分の性癖を説明しなさいと言われて、詳しく説明することができる人は、果たしているのだろうか。
「なるほどねぇ。確かに、お兄ちゃんくらいのサイズなら手で隠せないし、タオルを巻いてもテントが張るんじゃなくて、テントの軸が突き出してきそうだし」
僕を辱めるのを楽しんでいるのか、結月はニヤケ顔を浮かべながら話している。
身体を洗う手は背中から腕に移動し、肩から腕へとリンパを流すように、ちょうど良い力加減となっている。
「確かに、身にまとってる物がない方が、密着度合いが増えるからよさげだね」
「早い段階で理解してくれたようで、僕は安心したよ」
理解を得られたようで、安堵の溜息を漏らす。
僕の精神的な負荷が無くなったのとほぼ同時に、結月の身体を洗う手も止まった。
「ほい、後ろの上半身は終了だね。それじゃ――」
「前は自分で洗うから大丈夫だぞ」
「まぁまぁ。そう早とちりしないで、お兄ちゃん。脚の方を洗ってあげるから立ってね」
なぜだかはわからないが、結月は物凄く勝ち誇った顔をしていた。
おそらく、予想していた回答が帰ってきて、自分の思っていた返しを決めることができたからだろう。
そのことに腹を立てるほど、僕は子供じゃ無いので、結月の言うとおりに立つことにする。
「脚くらい自分で洗うから別にいいんだけど」
「私が洗いたいから良いじゃん。あ、太ももが洗えないから少しだけ脚を開いてね」
結月に言われるがまま脚を開く。
触るから、と事前に断りを入れてから結月は僕の足を洗い出す。
リンパを流すくらいの力加減が、今日一日で溜まった乳酸を無くしてくれる感じが気持ちいい。お尻と股を触らないように、気を遣ってくれている感じに結月の良心を感じる。
だが、完全に急所を避けているとは言えないので、時折当たる結月の手を意識してしまう。
いつもなら当たってると言うところだが、必要以上に攻めてきてないし、結月も気にしている様子が無いので黙っておくことにする。
てか、会話が無くなったせいで、妙にいやらしい雰囲気が漂っている気がする。
決していかがわしいことをしているわけでは無いのだが、そう言ったムードになっているとでも言うのだろうか。
僕の経験がなさ過ぎるせいで、自意識過剰気味に感じているだけかもしれない、と言い聞かせて心臓の高鳴りを落ちつかせる。
「洗い忘れてた腰の方を触るよ」
不意に触られる急所とムードのせいで気が気でない、僕は頷きで結月に合図をしておく。
わかりやすい反応をしなかったためか、結月が僕からの同意を得るために話を繋げてくる。
「触るからね。立つのが辛かったら、体勢変えても良いからね」
そう、必要以上に結月は確認を取ってから、僕の腰に手を当てる。
脇腹から腰へと、ちょうど良い案配の力加減で身体を洗われる。
洗うと言うよりはマッサージに近い気がする。そのせいでか、マッサージの効能で良く聞く老廃物が流れていくのを感じる。
特に腰を解されるのが気持ちよく、自然と前傾姿勢になって、鏡に手を突いてしまう。
その時に鏡に映る自分の姿を見て、心拍数と体温が上昇したのを実感した。
体勢もさることながら鏡に映っている角度が、よろしくない。僕の突き出したお尻付近に、結月の下腹部がちょうど重なって見える。それに加えて、結月の手の位置も僕の腰に優しく添えている感じになっているのが、僕の妄想をより一層、過激な歩行に向かわせてしまう。
鏡越しで結月と目が合ってしまった。
目が合った、と認識して直ぐに、結月は恥ずかしそうに目線を逸らしてしまった。
滅茶苦茶、気まずい。
気まず過ぎて、結月の手も止まってしまった。
数秒間の沈黙。
「今のは――」
「入ってたね」
一人で言えばいい台詞を兄妹で仲良く、二つに分けて言った。
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