悪徳マッサージ
結月の胸を見てしまったお詫びとして、身体の洗いっこをすることになってしまった。
思ってた内容では無かったので拍子抜けしてしまう。
結月のことだから、官能的な行為を所望すると決めつけていたばかりに、申し訳ない気持ちになってしまう。
「ほい。それじゃ、お兄ちゃん身体洗うよー」
ボディーソープを泡立てながら話し掛けてくる。
話し掛けてきたが、僕の返事を聞くより先に結月は僕の背中を触りだした。
背中を触る手つきは別段、嫌らしいものではなく、鏡越しで結月の顔を見てみても変なことを考えているようには見えなかった。
「今日は楽しかった?」
結月が僕の肩を揉みながら会話のキャッチボールを開始する。
見た目が小学生の癖に肩は凝っていたようで、程よい強さで肩を揉まれ思わず「ふぅ」と変な声が出てしまった。反射的に出た言葉を聞かれてしまったので、少しだけ恥ずかしかった。
「楽しかったよ。久々に結月と外出した訳だし」
不意の恥ずかしさを補おうとして、急いで会話を返したが、結果は照れ隠しとなってしまった。
実際、結月と一緒に出かけたのは久々だったわけだし、照れ隠しでは無いと思う。だけれども変な声を出したときに、少しだけ赤面したせいで照れ隠しになってしまっているのだろう。
「良かった。ところで、話は変わるんだけど、お風呂ってどこら辺が良いの?」
いい話で終わると思っていたが、どうやら結月にはその気が無いらしい。
結月の指先が背中をなぞるのを感じ、思わず鳥肌が立ってしまう。
「やっぱり日本人はお風呂だよねーって感じだからかな?」
会話が上手な人がよくしていると言う、オウム返し方をしてみる。テレビのニュース番組でMCやコメンテーターが良くする趣向らしいと、どこかで見た気がする。
結月の反応を鏡越しで恐る恐る見てみる。
「お風呂そのものの良さは私だって知ってるよ。お兄ちゃんの性癖的な意味での、お風呂の良さについてを教えて欲しいかな?」
どうやら、結月はしっかりと考えながら話を聞いているようだった。
もっともらしいことを言って納得させるという議論の常用手段が通じないと言うのは、世間体的には厄介な人認定をされるのかもしれないが、人の話をしっかりと聞いて、考えている点では、兄として評価したい。
だが、今はそのことを褒めている場合では無い。
「何で僕が自分の性癖についてプレゼンテーションをしないといけないんだ」
「別にいいじゃん。プレゼンって文句を言ってる人を自分の考えた最強の考えで論破することで、優越感とエクスタシーに浸る行為でしょ?」
「世の中で真面目に働いている人たちを、そんな曲がった見方をするもんじゃない!」
「冷静に考えてみてよ、お兄ちゃん。今、お兄ちゃんが私にお風呂の良さを力説することで、優越感って意味での快感と、私を納得させて行為を促してスケベして得られる快感のダブルパンチが得られるんだよ?」
「いや、まぁ……うん」
結月の熱量に押し巻けてしまった。
決して、エクスタシーが欲しいから黙り込んだわけでは無い。
「それで、お兄ちゃんは私に理由を教えてくれるのかなぁ?」
僕が劣勢になった隙を見逃さない結月は間髪入れずに言葉を繋げる。
口だけで無く結月は、僕の背中をなぞるように触っていた手を横腹から腰付近を擦るようにしだす。
「手つきが変態なんだけど」
気になっていた事を口にしてみた。
身体を洗ってくれているのはありがたいのだが、手つきがなんとなくいやらしい。
手で洗うのでは無く、泡で洗ってくれる感じとでも言うのだろうか。触っているのか、触っていないのかわからないフェザータッチがくすぐったい。
「ん? そうかなぁ。そんなことより、早く言わないと、もっと変なところを触っちゃうよぉ?」
そう言って結月は僕の横腹をプニプニとさわり出す。
「お! この太っても無く痩せても無く、筋肉質でも無い小学生感がいいねぇ」
「発言が変態だからね! ロリコン発言だからね!」
「今時のロリコンはもっと語彙力があるから、私はロリコンじゃ無いよ。それにロリコンの堅い掟であるYesロリータ、Noタッチを私は守れて居ない事になるからね」
「確かに、その掟は大切だ。だけど、それを力説されて僕はなんて答えたら良いんだ!?」
僕がそう言うと、風呂場に静寂が訪れた。
絶え間なく触り続けていた結月の手も止まる。
「強いて言えば」
ほんの数秒。
刹那的な早さで結月は一つの答えを導いた。
「お兄ちゃんもだけど私もさ。職業的にはまだ学生じゃん? お兄ちゃんは春から高校生だけど、私はまだ中学生じゃん? って事はさ――」
小学生に恋してもノーカンだよね。と結月は哀愁を漂わせながらそう呟いた。
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