ご飯にする? お風呂にする? それとも……
焦れったくて、気恥ずかしい買い物が終了して、僕ら兄妹は家路に着いた。
バス停に向かう間に置いても、バスに乗って最寄りのバス停まで向かう間の置いても、お互いに口に開くことは無く、気まずい時間を過ごす事になってしまった。
そのまま一言も話すことも無く家に着いた。
「家に着いたね」
リビングの電気を付けるなり、結月は目線を合わせないようにして呟いた。
「そうだね」
僕も会話のキャッチボールに応じる。が、実に歯切の悪い返答をしてしまった。
もしかしなくても、立ち寄ったディスカウントストアでの出来事が尾を引いている。中でも特に、最後に大人達の聖域に立ち寄った事が、今の気まずさの原因であることは間違いない。
「こう言う時にさ。言ってみたかった台詞があるんだよね」
脚をモジモジと恥ずかしそうにしながら、結月は上目遣いになるように膝を曲げながら話し掛けてくる。
「なに?」と僕は恥ずかしさを我慢して、結月の顔を見ながら返答する。
僕の顔をよく見てから結月は言葉を続ける。
「お風呂にする? ご飯にする? それとも……」
私? とはにかむ笑顔で結月は呟いた。
こういう時、何と言葉を返すのが正しいのだろうか。
理性に忠実に答えると、それは業が深い結果になってしまう。
肉欲を除外すると、残るはお風呂と夕食だ。
昨日の件があるし、お風呂は発展する可能性があるので、できれば夕食が良い。
時計をチラ見するが、時刻はまだ一六時三〇分。
夕食にはまだ早い。
思い出したが、夕食の買い出しすらしていない。
と言うことは、残された選択肢はお風呂しか無いでは無いか。
しかしながら、結月が選択肢として夕飯を出したのだから、もしかしたら何かを買ってあるのかもしれない。
そんな僅かながらの期待を込めて、僕は返答をする。
「夕飯かな?」
「まだ一六時だよ? さすがに早すぎない?」
ごもっともな事で、返す言葉が無い。
僕の脳内、話すことメモの無さを改めて実感する。
だが、話すペースを乱してしまうと、会話の主導権を結月に握られかねないので、頑張って言葉を発する。
「少し凝った夕食を作るよ。無水カレーとか餃子とか」
「朝食を作ったお兄ちゃんならわかってると思うけど、冷蔵庫には何も入ってないんだよね」
どうやら、元から選択肢は無かったらしい。
「……お風呂で」
「よし! それじゃ、私は着替えを取ってくるね!」
軽い足取りで結月は自室へ向かった。
どうやら、着る服を選ぶ権利は僕には無いらしい。
「着替えを取ってきたら入るから、先に入ってても良いよー」
そう叫ぶ結月の声が聞こえてきた。
どうやら、一緒に入ることは確定しているらしい。
昨日、一緒にお風呂に入った段階でセクハラされた気がするのだが、そのことを考えると、今日はセクハラでは済まない気がする。
自分の身体は急いで洗った方が、身の安全を確保できるので、僕はお言葉に甘えて、一足先に脱衣所へ向かうことにした。
脱衣所に着いてから一度、深い深呼吸をする。
今日一日、女体化した身体でショッピングを満喫したが、裸になるのにはどうしても罪悪感を感じてしまう。
こんな調子では、男に戻れなかった時に苦労することは火を見るより明らかな事は十分に理解している。
深呼吸をしてから上着を脱ぐ。
冷静に考えてみれば、僕は女体化したが、身体の発育度合いはロリなのだ。
せめて結月くらい胸が大きければ、揉むことで幸福感が得られるだろう。
だが、女体化した僕はどうだろうか。
まな板の上のレーズンだ。
少し膨らんでる気がするが、ほとんど男子と変わらない。むしろ、ぽっちゃりしている男子の方が胸がある。
そう考えると、自分の無い胸を見たからと言って、何も感じない気がしてきた。
強がりをしてから下も脱ぐ。
もしかしたら下は元に戻っているかもしれない、と言う淡い期待をしていたが、そんなことは無かった。
上もそうだったが、下も発育していなかった。
「成長無しか」
呟いて現実を受け入れる。
このまま脱衣所で立っていては、結月と鉢合わせてしまうので急いで風呂場へ入る。
サッと身体を流してから、シャンプーを手にとって泡立て髪を洗う。
髪を揉むようにして洗いながら、今日の出来事を一つ一つ思い出してみる。
久々に結月と外出をして楽しかったと思う反面、終始、結月のペースに乗せられていたなと感じる。
きっと結月は、僕のことを兄としてでは無く妹として見ているに違いない。
そんなことをボーッと考えながら髪を洗っていると、浴室の扉が開く音がした。
「お邪魔するよーお兄ちゃん」
いつものテンションに戻った結月は搔いた汗をシャワーでサッと流し出す。
結月から伝う温水が、僕の背中にも伝わってきて、どことないエロスがある。
「ちょっと前、失礼するよー」
悶々としている僕の気持ちを知るよしも無い、結月はシャンプーを取るために僕の視界に入った。
「んーっ!」
そんな適当な相槌を打って何の気も無く目を開けた。
すると僕の目の前には、重力でブランと揺れているボールがあった。
気にしたことも無かったが、結月の胸が意外と大きいことを知って、何だか嬉しくなる。
「お兄ちゃん知ってる?」
胸を見て硬直していた僕に気が付いたのかはわからないが、結月は話し掛けてくる。
僕が相槌を打つより先に結月は言葉を繋げた。
「おっぱい見たでしょ?」
結月は僕の背後から耳元で囁いた。
ゾクゾクとするような、寒気のような気持ちよさのような感情が僕の中で生まれる。それと同時に、背中に結月の胸の膨らみを感じる。
「見たんだったらお願いを聞いて欲しいんだけど、良いかな?」
結月の囁きのレベルの高さに、うなじの産毛が逆立つような感覚に襲われる。
僕が結月の胸を見たのは気付かれているのは間違いないだろう。
詰まるところ、僕は忖度をしなくてはならない訳だ。
「……お願いってなんだろう?」
僕が結月の――妹の胸を見て硬直したことを白状しなくてはならない訳なのだから、なるべく目線を合わせないようにして返事を返す。
僕の返答を聞くなり、結月は即座に口を開いた。
「身体の洗いっこをしよう」
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