ビックマグナム
更に場所を変えること数秒後。
次の売り場はドラッグストアでもよく見る、あの商品の前まで来た。
その中には実際に、僕が実際に購入した事がある商品も含まれている。
「人目が無いから訊くけどさ。お兄ちゃんはどれ使ったことがあるの?」
僕が使ったことがあるのを知ってか、結月は恥ずかしそうにそう訊いてくる。
「言いたくないです」
「減るもんじゃないし、良いじゃんかぁ。何色使ってんの? 赤? それとも青?」
楽しそうな笑みを浮かべながら、結月は男性用の玩具を指さしている。
言いたくない、と言ってしまった時点で「僕は使ったことがある」と言ってしまっている事実に今さながら気が付いてしまい、恥ずかしくなってしまった。
「あ、そう言えば、お兄ちゃんのメタファーは大きかったんだね。って事は……これくらい?」
恥ずかしさで所々裏返った声で結月は、ワンサイズ上のモノを手に取った。
ノーマルサイズのモノと比べるとワンサイズ大きいオモチャを手に持ったまま、結月はそれを自分の股間に近づけてみる。
「おぉ……」
何の歓喜だ。
オモチャを両手で握って、サイズ感を確かめてから、結月は目線を僕の股間へ移す。
「ビックマグ――」
「言っとくけど、僕はそんなに大きくないからな」
「じゃあ、どのくらい?」
「どのくらいって言われても……」
計ったことが無いのだから、そんなことを言われてもわからない。
むしろ、男子が自分の出るところの大きさを測っている人がいるのかが気になる。
そんな僕の思いはいざ知らず、結月は興味津々と言った様子で、兄のサイズを知りたがっているようだ。
黙っていても、成人コーナーからはでれそうに無いので、潔く知っていることを言うことにする。
「今は手が小さくなってるだろうから、ちゃんとしたサイズはわかんないけど、両手で握って先っぽが出るくらい」
「先っぽが出るくらい……うーん」
わかりにくい例えだったからか、結月の中ではサイズ感が掴めていない様子である。
むしろサイズ感を把握されると、それはそれで僕が男に戻ったときに危機を感じるので、好都合だ。
「わかんないから、例えを見て教えて」
結月はそう良いながら、指で視線を移して、とハンドサインをだす。
指の方向を見ると、そこにも女性向けのオモチャがあった。
そのオモチャの実物を見たのは今回が初めてなのだが、何故かとは深くは言わないけれど、見たのは今回が初めてではない気がする。
てか、男性向けオモチャの近くに女性向けオモチャが売っているってどうなっているんだよ。
偶然、男女がここに居合わせたときに色々と気まずいのではないか。
男性は自分のサイズを赤の他人の女性に知られてしまう事になるわけだし。
女性はその男性の大きさを不意に知ってしまうわけで、小さければ心の中で哀れに思える程度なのだろうが、その逆でビックサイズだと、思わず他人を二度見してしまうのではなかろうか。
「一日ぶりのメタファーを見た感想をどうぞ」
話を振ってきた結月は、目の前に広がる女性向けオモチャの量を見て恥ずかしくなったのか、顔を赤らめながらモジモジとしている。
感想と言われても、虚無感しかない。
「種類が多いんだなくらいしか言葉が無いけど」
実際、種類は多い。
大きさや色の違いがあるのはもちろんのことだが、吸盤が付いているものや電動のもの、双頭のものなど実に様々だった。
「レプリカ見たらわかりやすいかなーって思ったんだけど……お兄ちゃんのはこれくらい?」
「そんなにデカい訳ないじゃん!」
「さすがに大きすぎた?」
「そのサイズだと股が裂けるだろ……」
結月が手に取っていたオモチャは国際的なサイズだった。そのサイズは大容量の制汗剤くらいの大きさ。両手で握っても先っぽどころか半分以上、見えるくらいに長い。太さも片手では一周回らないくらいある。
「冷静に考えてみてよ、結月。僕のアレが不意に戦闘状態になったとして、そのサイズだと隠しようが無いから、中学の時から話題になってるはずだぞ」
冷静なのか、と訊かれれば冷静では無いのだが、結月の勘違いを晴らすために慌てて僕はそう言った。
結月はその話を聞くと、規格外なサイズのオモチャと僕の股間を交互に見つめる。
「少し失礼」
そう呟いて結月は、その規格外のオモチャを僕の股間に近づける。
実に一日ぶりの眺めだった。
だけれども、サイズが違いすぎる。
「ど、どうでしょうか?」
「……」
「うん。ごめん。お兄ちゃんはこんなに大きくなかったよね」
僕の顔を見て察してくれたのか、結月は謝りながら商品を元の棚に戻した。
その言い方は語弊が生まれそうなのだが、ツッコむとまた話が逸れるので黙っておくことにする。
「どうしても知りたいからお聞きするのですが、お兄ちゃんから見て、自分のサイズはどのくらいなのでしょうか?」
結月は自分の暴走度合いを顧みてか、下手にでて尋ねてくる。
尋ねている内容は変態でしか無い。
なのだが、気になっている事がわからなければわからないほど、モヤモヤ感が強くなり、消化不良感が増してしまうものだ。
思い返してみれば、女子の出る所は、服の上から見ただけでわかるのに、男子の出るところは、服の上からはほとんどわからないのも不公平だ。
血の繋がった妹とは言え、昨日、成長期の女子中学生の全裸を見てしまった訳なのだから、その感謝――感謝と称すと変な気がするが、申し訳ない気持ちを感じたのは事実だ。
昨日の感謝――お礼の意があるので、僕は結月の知りたがっていることを言うことにする。
「あのくらいのサイズだと思うよ」
言っててわかるが、自分の吐く息に熱を帯びているのを感じる。
自覚している恥ずかしさを押し殺して、僕は商品に手に取って、そのまま商品を自分の股間付近に近づける。
大体だがサイズ感は一緒だ。少し言うことがあるとすれば、外周はもう少しだけあった気がする。
僕がサイズ感を確かめていると、結月がマジマジと見つめている。
「おっきい」
そう言われると恥ずかしくなったので、商品のパッケージがよく見れるようにするために顔に近づける。
パッケージにはLサイズと書かれていた。
サイズラインナップはS、M、L、XLと四種類ある内のLサイズと言うことは、大きめ程度と言うわけでは無かった。
先ほど、結月が手にしていたのがXLサイズの規格外なモノだったことを考えると、上級者向けを除いたモノの中では最上位と言うことになる。
意図せず、自分のサイズを知ってしまい、恥ずかしさが限界を迎えそうだったので、急いで商品を棚に戻す。
「……兄のサイズを知った妹の感想をどうぞ」
羞恥の中で出た言葉はどうでも良いことだった。
僕の言葉が届いているのか否かはわからないが、結月は耳まで真っ赤にしている。
「ありがと。お兄ちゃんが元に戻ったときは、私、頑張るね」
恥ずかしさで裏返り、熱を帯びた囁くような声で結月は呟いた。
羞恥心がある女子は独特の可愛さがある。
実の妹じゃなければ、この後、休憩できる場所を探したいところだった。
だが、それとこれは別。
色々と気になったことが多いが、何を頑張るのかはあえて聞かないことにする。
読んでくださり、ありがとうございます。
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