楽園探索
未成年の結月は嬉しそうに成人コーナーの探索を開始する。
「それで、ここで何を見たいんだ?」
改まって、僕は結月にそう訊いてみる。
見てみたい、と漠然としたことだけは教えてくれたのだが、詳しいことは全く教えてもらってはない。
今のご時世、インターネットがあるのだから、無理に成人コーナーに行く必要は無いと思うのだ。
噂話で訊く、昭和の神社や田んぼに捨てられているエロ本を回収するなんていう時代ではない。
「特別って理由はないんだけど……前に同級生のビッチに連れてこられた事があるんだけどさ。ちょっと下品すぎてね」
苦笑いを浮かべながら結月は呟いた。
結月の下ネタも中々、酷いと思うのだが、それ以上の女子中学生がいるとは想像したくない。
少し冷静に考えてみると、下品な下ネタを言うからこそ、その子がビッチと言われているのだろう。
そう考えると、結月の下ネタの原因は、もしかしたら連んでいるビッチにあるのかもしれない。
「そのビッチと仲良いじゃん」
ヤボかもしれないが、そう訊いてみる。
「ゲーセンで遊んでたら絡まれちゃってね……」
本当にヤボなことを訊いてしまったかもしれない。
しまったな、と僕が思っているのを察してくれたのか、結月はテンションを変えて話を切り替える。
「話を戻そう、お兄ちゃん。何で私が十八禁コーナーに来たのかというとね。純粋な好奇心だよ」
当たり前のようなことを改まって言われても、返す言葉がない。
思春期まっただ中の中学生なら誰だって一度は暖簾の先にある大人達の花園を覗いてみたいと思うはずだ。
好奇心が強いからこそ、結月は探索という言葉を使ったのだろう。
「行動理由も聞いたところで早速、探索を始めよう!」
結月はこのコーナーに似つかわしくない程の元気な声を出しながら歩いて行った。
このコーナーで結月とはぐれるのは心配事項が多いので、後れないように僕は足早と後を追う。
後を追う。
そうは意気込んだが、結月の足は直ぐに止まった。
今いるのはコスプレゾーン。
この店の別の場所にもあったのだが、それとは訳が違う。
「うっわー見てよ、お兄ちゃん。エチエチだねぇ」
同じ店なのにコスプレ衣装売り場が二つある理由。
それは肌色度合い――詰まるところの露出度合いの高さによる違いだ。
公の目に晒されているコスプレ衣装と言えば、ナース服や警察服、黒セーラーなどと言ったお仕事系のものから、巫女服やサンタクロースなどの変わり種もあるが、大体が未成年に見せても特別有害なモノでは無いものが主体だった。
では成人コーナーにあるモノはどうだろうか。
バニーやチャイナ服などの未成年の性癖を歪めそうなモノや、肌色面積の広い際どい水着や亀甲縛りスーツと言った子供には刺激が強いモノまで様々だった。
外に電動マッサージ器が売られていたが、思っていたよりはゾーニングはしっかりとされているように見受けられる。
「元、男子のお兄ちゃんだから訊くけど、コスプレって萌える?」
そう言って結月は頬を赤く染めていた。
誘っている表情とでも言ったらいいのだろうか。恥ずかしそうにしている割には口元は緩んでにやけている。目付きもどことなく期待しているような気がする。
「似合ってるなら良いんじゃないかな」
結月を見ていると、何だが恥ずかしくなってきたので、目を逸らしながら僕はそう返した。
気まずい雰囲気だ。
付き合ってまだ日の浅いカップルが、映画館デートをしたときに、意図せず男女の濃厚接触シーンが映ってしまった後のような感じもこんな感じだと思う。
「次のコーナー!」
気まずさに耐えた寝たのか、結月は突然そう言って歩き出した。
次に来た場所は本売り場だ。
コンビニの一角にヒッソリとあるエロ本コーナーのような、チラ見する楽しみはなく、見たければみれよ、と言う圧力さえ感じる。
「コンビニと違って背徳感がないからか、エッチさが下がっているような気がするよね」
「そういう事は、思っても口にしないことが大切だよ」
思っていることが、兄妹揃って同じようなことで恥ずかしくなった。
「神社に捨ててありそうな本よりは、同人誌が多いね」
「まぁそう思うけど」
結月はそう言いながら一冊の成年漫画を手に取った。
表紙とタイトルを見ただけでは、その同人誌がどういったジャンルなのかは想像がつかない。
表紙とジッと眺めている結月は、突然、思いついたかのように話を振ってきた。
「あ、この作家さん知ってる」
表紙にある作家の名前が書かれている部分を指さしながら、結月は僕に見せてくる。
「この作家さんの作品は結構、使えるからおすすめだよ」
「使えるって……まぁ良いけど。結月はこの作家さんに何回、お世話になったんだ?」
「えーとね……」
自然な流れでセクハラをしてみた。
そのことを気付いているのかはわからないのだが、結月は真剣にその本を使用した回数を思い返している。
「純愛系はちょっと得意じゃないかな」
その言葉を聞いて僕は結月を見つめてしまった。
僕の目線に気が付いたのか、結月は顔を背けた。
「お兄ちゃん、勘違いしないでね。創作物だから経験できないような事をしたいっていう願望だからね。それに私は動画派だからね」
結月は早口で言い切った。
「まだ何も言ってないじゃん?」
「顔が言ってたよ」
そう言われると返す言葉が思い浮かばなかった。
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