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健康器具(意味深)

 逃げる結月を追いかけること二分間。

 フロアを四階へと移動した。

 四階は文房具や家電、ゲーム機など様々な商品が売られている。

 少し走ったせいで息が切れてしまった。

 息が切れたと言っても、一瞬で直ぐに回復した。

 どうやら、女体化した時に筋肉量以外にも肺活量が低下したように感じる。きっと、肺以外の臓器も何らかの機能が低下しているのだろう。


「お兄ちゃん大丈夫?」

「大丈夫だ。それより、他に何か買うものでもあるのか?」


 心配してか結月が立ち止まって声をかけてくれた。

 弱いところを見られてしまったのが少し恥ずかしい。

 強ぶって大丈夫、とは言っていないのを結月はわかってくれたようで、会話のキャッチボールに応じてくれる。


「お兄ちゃんが大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうね。買うものじゃないんだけど、ここの店と言ったらアレじゃない?」

「アレって?」

「着いてきたらわかるよ」


 楽しさ漏れ出ている声で結月はそう言って、歩き出す。

 声だけを聞けば初々しい可愛らしさがあるのだが、残念ながら顔は下ネタを考えていそうなニヤケ顔だった。

 顔については言わないことにして僕は結月の後ろに続いた。

 ちょうどこの階は文房具が売っているので、高校に入ったときに使うノートを買うことにする。


「ノート欲しいから、ちょっと待っててね」

「オッケーよー」


 そんな軽いやりとりをして、僕は脇道へと逸れる。

 ひとえにノートと言っても、線が引きやすいものや一流大学生が使っていますの題売っているもの、消し跡が残りにくいものなど、実に様々だ。

 僕としてはどれも同じだと思う。

 なので僕は、一番売れているノートではなく、一番安いノートを手に取った。


「結月――って居ないし」


 どうやら、僕がノートを見ている間に結月とはぐれてしまったようだった。

 周囲をグルッと回ってみても結月の姿は見えない。

 もしかして迷子?

 少なくとも闇雲に歩いて探すのは骨が折れるので、スマホで結月の所在地を確認することにする。


「ねね、お兄ちゃん。ちょっと来て」


 僕がスマホを取り出したのと同時に結月が背後から声をかけてきた。


「良いけど……どこうぇ!」


 言葉を最後まで聞かずに、結月は僕の手を引いて歩き出した。

 手を引かれて歩いた距離はほんの数メートル。

 そこに何があるのか、と言われれば、安い鍋やフライパン、訳ありのスマホ周辺機器などの商品がかごに散々として置かれていた。


「どうした? フライパンでも欲しいの――」

「そっちじゃないよ、お兄ちゃん。上見てよ、上!」

「上?」


 言葉を遮ってまで結月がそう言うので、普通に上を見上げる。

 するとそこにはマッサージ器がぶら下がっていた。

 その形状のマッサージ器は、おそらく、中学生以上ならば、誰しもが知っていると言っても過言ではないくらいにメジャーなものだ。


 このディスカウントストアの目玉でもあるペンギンのポップ広告もぶら下がっている。

 キャッチコピーによると、このマッサージ器は四〇〇万台売れたそうだ。「あなたのコリへぴったりフィット!」と書かれ、更にはマスコットのペンギンが気持ちよさそうにしているイラストが描かれている。


 情けない話だが、このマッサージ器が正しい使われ方をしているのを僕は見たことがない。

 それに世の中の人間の大多数が、このマッサージ器を見た瞬間に健康器具としての認識をしないと思うのだ。

 限りなく黒に近いグレーゾーンの商品広告を見るに、このお店は確信犯だ。


「お兄ちゃん、電マだよ! 手頃なお値段だし、買ってみたら?」


 唖然とした僕を見ても気にすることなく、結月はそう言った。

 結月も間違いなく確信犯だ。このマッサージ器の正しい使い方ではない方の使い方を知っている顔をしている。

 ちなみにお値段は二千円。


「僕はどこもコっていないぞ」

「コって無くても、これを使うところはいつもコってるものなんだよ、お兄ちゃん」


 確信犯を通り越して、もう罪人だ。

 ニヤケがほとばしる顔が何とも言えないが、殴りたくなってくる。


「ちなみに訊くけど、結月の言うコリってどこにあるんだ?」


 知ってて僕は訊いてみる。

 見えてる地雷を踏みに行くので、対処がしやすい。

 踏まれた地雷を働かせるためのプロセスである、その言葉を聞いた結月はニヤケながら話を続けてくる。


「女の子の突起物だよ」


 忍者の印を組む時の指の形――悪く言えばカンチョーするときの構えを結月はとった。その構えを下腹部付近までスライドしている。

 ド下ネタが来ると思っていたが、公共の場だったためか、少しオブラートに包んだ下ネタだったので、兄として少し安心してしまった。

 だけれども、なぜだかはわからないが、結月は勝ち誇った表情をしていた。


「結月ならそう言うと思ってたよ」

「やだ、お兄ちゃんのエッチ!」

「結月には言われたくないよ。ってかその指の構えは何だ?」


 僕がそう訊くも、結月はとぼけた顔をして直ぐには答えてくれなかった。

 口では教えてくれなかったが、結月の指が何を意味しているのかについては直ぐに理解することができた。

 カンチョーの構えになっている人差し指の頂点を床に向けてから、ゆっくりと天井へ向くように動かした。

 その一度のジェスチャーで結月が何を露わそうとしているのかを理解してしまった。


 僕のちょっとした顔の変化を見逃さなかったのか、結月は満足げな顔をしている。

 結月の顔を見るに理解したがツッコんでは負けの気がする。

 ツッコまないので、触らないことにした。


「話を戻すけど、買うか買わないかで言ったら、買わないからね。使いたくなったら結月の借りるし」

「え? 貸してあげたら使ってくれるの?」


 食いついてきた。

 作戦通り、と僕は心の中で思った。

 結月は致していることを公言はしているし、オモチャを持っていることも判明しているが、羞恥心はあるのだ。

 本来の使い方である「肩こりを解すため」と言えば、結月は自爆してくれそうな気がする。

 そんな作戦と言うよりは希望観測を、僕は信じて会話のキャッチボールに応じる。


「もちろん、肩こりを解すとかのちゃんとした使い方なら、マッサージ器を使っても良いって事だぞ」


 決まった、と内心、格好つける。

 直ぐに結月が反応してくれなかったし、僅かながらに頬を赤らめていることから、僕の作戦は成功した――かに思われた。


「残念だったね、お兄ちゃん。私の持ってる電マの正しい使い方は入れるタイプだからね」


 策士策に溺れる。

 予想外の言葉を聞いてしまたが故に、僕は返す言葉が出てこない。

 自分の性活事情を高らかに宣言した結月はしたり顔を浮かべていた。

 だが、頬は赤らんでいたのでので、恥ずかしいことを言った自覚はあるようだった。

読んでくださり、ありがとうございます。

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[一言] この子らはいったい何を競いあっているんだ?
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