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デニールって何だろう?

 服を脱いで試着室を出ると、結月が買い物かごを持ってスタンバっていた。

 かごの中には先ほど購入したサンダルの他に、黒のストッキングが入れられている。


「似合ってたよーお兄ちゃん。ささ、入れて入れて」


 結月がかごに服を入れるよう、催促してくる。

 購入するのだから当然と言えば当然だ。

 だが、いつの間にか入っている黒ストッキングが少し気になる。

 冬でも生足の結月が春にストッキングを買うとは思えない。


「結月ってストッキング履いたっけ?」


 僕の僅かながらにある疑問を素直に、結月にぶつけてみる。

 結月の眼の動きようから察するに、自分が履くようではなさそうだ。

 結月がストッキングを履く気配がないと言うことは、僕の疑問が確信に変わる。


「それを僕に履けと?」

「それもあるけど! お兄ちゃんに履いて欲しいって欲望もあるけどさ!」


 僕の問い詰めに、慌てた様子で結月がかごからストッキングを取り出す。

 慌てすぎてか、同じ事しか言っていない。


「ほら見てよ! 二つあるから!」


 両手にストッキングを持って結月が慌てている。

 二つある、だからどうしたとなるが、それを言うほど僕は鬼じゃない。

 結月の意図をくみ取るとしたら、自分の分も買ったと言いたいのだろう。

 深呼吸をして、落ち着いてから結月が話を再開した。


「前に持っていたのは、色々して破けちゃったから、これは自分用だね。もう一つは素直に言うけど、お兄ちゃんにも履いてもらいたいからお兄ちゃん用。私も履けるから無理にとは言わないよ」


 先ほどまでの、冷や汗のかいていそうだった結月とは打って変わって、落ちついた賢者のような顔をしていた。

 焦っている時と落ちついている時とでの振れ幅が大きいと感じる。


「一旦考えてみようよ、お兄ちゃん。ストッキングを履いた女の子の太ももなんて、童貞のお兄ちゃんには滅多に触れたものじゃないんだよ?」


 冷静になって出てきた言葉が下心に満ちあふれており、お兄ちゃんは心配だ。

 だが、結月の言い分にも納得してしまう僕がいるのが情けない。

 男なら誰しも一度は、黒ストッキングに様々な夢を描くはずだ。

 太ももを触ってみたいとか、脱ぐシーンが見たいとか、破いてみたいとか……


「結月も履くからな。ストックをして置いても良いね」


 ストッキングだけに、と思いついたダジャレを心の中で呟いてみる。

 ダジャレを思いついても、思いついても口にしなけ――しまった。

 普通に言葉を返したつもりが、ツンデレみたいになってしまった。

 結月が僕をツンデレ属性として認識している以上、さっきの言葉は翻して識別されてしまう。


 今すぐにでも言い直そう。

 そう思った矢先――


「わかったよ。もぉーお兄ちゃんったらぁー」


 嬉しそうに結月は呟きながら歩いて行った。

 絶対に勘違いしている。

 だけれども、喜ぶ妹を盛り下げるようなことは兄としてできない。

 今日ばかりは――いや、今後は僕はツンデレと言うことを自負して生きていくことにしよう。


「あ、そうだ大切なことを聞き忘れていた」


 健気な表情をそのままに結月は話を振ってくる。


「ストッキングのデニールはどのくらいが好み?」

「デニールって何だよ。ディテールならわかるけど」

「ストッキングの濃さだね。男子って好きな濃さがあるって前に話をしてるのを聞いたことがあるからさ」


 そう言って結月はスマホで何かを検索しだした。

 ストッキングの濃さに種類があること自体を僕は今知った。

 結月はスマホの画面を僕に見せながら話を続ける。


「ここにデニール比較の参考写真があるけど、どれくらいが良いかな?」


 そう言うとおり、スマホの画面には黒ストッキングを履いた足が並んでいた。

 こうしてみると本当に種類が豊富なんだなと感じる。


「本当はストッキングって言うよりはタイツなんだけどね。まぁ呼び方なんてどうでも良いよ」


 ちょっとした雑談を結月は言う。

 実に機嫌が良さそうだ。

 そのことは置いておくとして、どのくらいの濃さが良いかを写真を見ながら考えてみる。


「五十から六十くらいかな」


 写真を見た感じ、僕の好みはそのくらいだった。

 この程よい黒さの中に薄らと見える肌色が眼の保養になる。

 僕がそう言うと、結月は不敵な笑みを浮かべていた。


「ふっふっふ。お兄ちゃんならそう言うと思って、しっかりと五十五の濃さをかごに入れたんだよ」


 どうやら、予想が当たっていたようで喜んでいるようだった。


「何で僕がその濃さを選ぶって思ったんだ?」


 予想したと言うことは、何かしらの要因があるはずだ。

 僕は別にタイツフェチではないし、基本的に結月はタイツを履かないし。


「簡単だよ、お兄ちゃん」


 そう言って結月は僕との距離を詰めてくる。

 少し前屈みになって、意図的に上目遣いで答えを言った。


「エッチな人はそのくらいの濃さが好きなんだよ」


 それだけ言うと、結月は満面の笑みを浮かべながら、逃げるように歩いて行った。

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、この兄弟がエッチなのは今さらか
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