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スパッツは直穿き

 結月の作った月見うどんは普通に美味しかった。ただ、いつも以上にお腹が膨れた気がする。


「さて、お兄ちゃん。ご飯を食べ終わったわけですが」


 結月は頬杖をつきながら聖人さながら笑みを浮かべている。

 他人が見たら美少女が良い笑顔を浮かべているだけなのだろうが、兄である僕からしたら妹のこの笑い方は下心があるときだと察しが付く。


 僕が目線を泳がしながら黙り込んでいると、わざわざ視線に入るように覗き込んできた。

 至近距離の無言で目を合わせてくる。


 圧が強い。

 僕は仕方なく会話のキャッチボールをすることにした。


「で、ですが?」

「お風呂に入らないとですね」

「そうだね」


 初々しいカップル感とはこういった感じなのだろう。ぎこちない会話と気恥ずかしさがエモーション度合いを加速させている。

 まあ、僕はつき合ったことは無いけども。

 結月は古来からある初々しさの趣を楽しむことなく会話を続ける。


「一緒に入ろう」

「何でそうなるの!?」

「それはだね、お兄ちゃん」


 突然のラッキースケベを通り越してただのスケベ発言に僕は思わずテンパった。

 そんな兄の様子を気に留めることもなく、結月は話を続ける。わざわざ台詞を一度、切っている辺りに自信を感じさせる。


「私が入りたいから!」


 自信満々に私欲を公言した。言い切ってやったぜ、と言わんばかりの清々しい顔が少しイラッとくる。

 なんと応えようか言葉に困っていると、空気に困った結月が先に口を開く。


「ご飯食べながら思い出したんだけどさ。前に見た漫画で男子はタマタマでバランスとってるらしいんだよね」

「……いきなりなんだよ」


 確かに聞いたことはあるし、結月から借りた漫画にそんな展開のモノがあった気がする。

 その噂話を聞いて結月の持っている漫画に今の僕と同じ女体化する漫画が多かった事を思い出す。


「筋肉量とタマタマが無くなったお兄ちゃんを一人でお風呂に入れたら危ないかなーって」


 中学生レベルの下ネタを言って恥ずかしくなったのか、それとも兄を心配したことへの照れ隠しかはわからないが結月は目線を合わせずに呟いた。

 できれば私欲を言われる前に先に聞きたかったその言葉。


「ま、まあ良いんだけど。その……結月は良いのか?」

「ん? 良いって何が?」

「いやその……一応、お互いに思春期じゃん?」

「あー」


 結月は目線を泳がしながら考えているようだ。言葉を探している、と言うよりは言おうか言わまいかと考えているようである。

 この感情に至っては単純に僕が恥ずかしい。前に結月が膝に乗ってきたときにちょっと反応してしまった事があるので余計にだ。

 結月は少し考えてから言葉を続けた。


「思春期だからこそ一緒に入りたい」


 清々しいくらい自信満々で言い切った。

 そして言葉を数珠つなぎで休みなく続ける。


「逆に聞くけどお兄ちゃん。私達が一緒にお風呂に入らない理由ってある?」

「それは……」

「無いよね」


 圧が強い。

 意地でも一緒に入りたい、と言う思いが伝わってくる。

 妹のわがままも聞くのも兄の勤めと思い、ここは折れておく。


「わかった、一緒に入るよ」


 その言葉を聞いて結月はすこぶる嬉しそうだった。


「それじゃあ、お兄ちゃん。服を選ばないといけないから私の部屋に行こうか」


 そう言って結月は僕を再びお姫様だっこして自室まで連れて行った。




 結月にだっこされること数秒後。


「はい、どーん!」


 付き合いたてのカップルのいちゃつきの如く、お姫様だっこのまま僕をベッドに押し倒してくる。ベッドに着地した衝撃で一瞬、夕食が出てきそうになったが押し込んだ。

 結月はそんな兄の状態を気にすることもなくタンスの中を物色し始めた。

 目に見える範囲で部屋を見渡してみる。


 漫画やゲームの類いが直ぐに眼に入るくらいに多く、どちらかと言えば男子の部屋に近い。しかし、それも見た目だけで、においは女子の部屋そのものだった。

 少し気になる点があるとすれば、ノートパソコンにヘッドセットとウェブカメラ、コントローラーが置かれていることくらいだった。


「今思ったんだけど、服は別に僕ので良いんじゃないのか?」


 ベットで回転しながら結月に問いかける。腹筋は今だに痛いままなので起き上がるのに一苦労する。


「それでもいいんだけど、医者に行く時を考えると今から準備しておいた方が良いかなってね」

「準備って何を?」

「心の」


 結月は小悪魔的な笑顔を浮かべながらこちらを見てくる。その手には白いワンピース。


「着たい?」

「僕にそんな趣味は無いぞ」


 だよねーと結月は軽い相槌を打つ。

 さすがに結月に全部任せていると男としての尊厳が踏みにじられる危険を感じる。

 転がるようにしてベットから降り床へと自由落下する。いくら絨毯じゅうたんが引いてあるとは言え、衝撃は殺しきれていない。


「お、お兄ちゃん大丈夫!?」


 鈍い音に反応して結月が慌てて声をかけてくる。


「大丈夫……大丈夫」


 意外と痛かった。

 結月は顔を引きつりながらも再び服を物色し始める。

 普通ならこのまま立ち上がりたいところなのだが、力も入らないし、バランス感覚も安定しないので結月の所まで床を張っていく。


「なあ結月。服なんだが――」

「うわってえ? お兄ちゃんハイハイしてきたの?」

「ハイハイって言う言い方止めてくんない」


 地味に最初に少しだけ引かれたのが悲しかった。それに、赤ちゃん扱いしてくるのが恥ずかしい。


「ごめん、ごめんて。それで服がどうかしたの?」


 平謝りの結月は手は動かしたまま聞き返してくる。その手には丈の長いランジェリーが握られていた。


「せめてボーイッシュなモノでお願いします」

「ああ何だそんなことね。わかったよー」


 再び結月はタンスをあさり始めた。




 床に突っ伏すこと三分間。

 うとうとして寝てしまいそうになっている頃合い。

 結月のお任せコーディネートは終わったようだった。


「よし、決まった! お兄ちゃん! 起きて起きて」


 少し興奮気味に結月は僕の肩を叩く。

 その顔を見るに満足のいく結果だったようだ。


「これならいいでしょ!」


 そう言って結月は服を見せてくる。

 大きめのパーカーにスパッツと比較的、フリフリ感は出ていなかった。少し気になる点があるとすれば、スポブラは出ているのにパンツが出ていないことくらいだった。


「なあ結月。一つ聞いて良いか?」

「どうしたのお兄ちゃん」


 余程、楽しかったのか床一面に広がった衣類をかき集めながら結月は返事をする。


「どうしてパンツはないんだい?」

「それはだね、お兄ちゃん」


 その問いを待ってました、と言わんばかりに結月は意気揚々に語り出す。


「私個人としては使用済みのパンツはダメだと思うんだよね」


 それはわかる気がする。

 綺麗とか汚いとかのそういう話しでは無く、生理的に嫌という話しだと思う。


「使用済みって言ってもド下ネタの方じゃ無いよ。汚した濡らしたは別問題としてって事だよ」


 急に恥ずかしくなったのか、結月は顔を赤らめながら矢は口で詰め寄ってくる。

 一緒にお風呂には入れるようだが、そういう所は思春期なのだと改めて思った。


「スパッツを履くときはパンツを履かない人も居るって言うしね。それにそのスパッツは小さくて履けなかったから私からのプレゼント」


 話を切り替えたが結月は顔を赤らめたままだった。床に散らばった衣類も集め終わり、結月の気持ちを切り替えるためにもちょうど良いタイミングだった。

 タイミング的には良いかもしれないが、いざ思春期まっただ中の妹を風呂に誘うのには勇気がいる。


「そ、それじゃお風呂に入ろっか」

「そ、そうだね。お兄ちゃん立てる?」


 お互いにコミュニケーション不足な人にありがちな、初めの一言が詰まる。

 変な気恥ずかしさもあり変な汗をかく。


「手だけ貸して欲しいかな」

「う、うん! わかった!」


 結月もさっきの気恥ずかしさをまだ引きずっているのかはわからないが、声が裏返っていた。

 僕は壁に寄りかかりながら立つことが出来た。

 そのまま結月に手を握ってもらう。

 握られてから気が付いたが、やはり手も小さくなっているようで、結月と同じくらいかそれ以下の大きさしか無かった。


「お兄ちゃん、一つ言いたいことがあるんだけど、怒らないで聞いてね」

「なんだ? どうした?」


 バランスを崩さないように脚に集中していた意識を少しだけ、結月の顔に向ける。

 その顔は小動物を見るときのような可愛いモノを見るときの目だった。


「あんよは上手……ごめん、どうしても言いたい衝動に駆られちゃって」


 こう言うのを羞恥プレイ、もしくは赤ちゃんプレイと言うのだろう。

 僕はそのまま強すぎる羞恥心を抱きながら、結月に案内されながらお風呂場まで向かった。

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