久しぶりに靴を買う
思い返してみれば靴を買うのは何年ぶりだろうか。
今履いているサンダルは小六の時に買ってからずっと履いているような気がする。
外履きシューズも学校指定のものを履いていたので。中一の頃からほとんど履き替えていないことになるし。
外出するときに履くスニーカーもその時に買ったものを使い続けている訳になるし。
裏を返さなくても、ものを大切に扱っていたと言うことになるのだが、少し大切に使いすぎた気もしてしまう。
元々、お洒落に興味が無かったのもあるが、買いに行こうともしなかったので、靴を見ても何を買ったらいいのかがイマイチわからない。
「どんなサンダル――って、種類を聞いてもわかんないよね」
結月は話の途中で台詞を変えた。
僕がお洒落に興味が無いことを知っているからこその優しさなのだろう。
結月は僕のことを考えてか、二種類のサンダルを持ってきてから話を再開する。
「試しに二つ持ってきたんだけど、どっちがいいかな?」
結月が持ってきた二つのサンダルは僕でもわかるくらいの違いがあった。
一つは今僕が履いているタイプのサンダルだ。わかりやすい例えとしては便所サンダル。足の指は見えるようになっているタイプだ。
もう一つはキャンプをしている人が履いていそうなサンダルだ。かかとまでしっかりとついているタイプだ。
正直なところ、どっちがいいのかがわからない。
「結月的にはどっちがいい?」
わからないので潔く、結月に任せることにしてみる。
少なくとも僕よりは結月はお洒落なので任せるが吉だろう。
結月は僕の足とサンダルを吟味しながら考えているようだ。
こんなにも足に視線を感じたことがないだけに、変に恥ずかしい。
考えが纏まったようで結月は選んだ方のサンダルを手に取った。
「こっちのスポーツサンダルだね」
選ばれたのはキャンパーが履いていそうなサンダルだった。
なんでそれがいいのか、と聞いたところで僕にはわからないので、ヤボなことは聞かないことにする。
「んじゃ、そのタイプで」
「オッケーだよ。あと、いらないと思うけど、厚底とかじゃなくていいよね?」
「普通のでお願いします」
はいよ、と結月が軽い返事をする。
一人で見てもわからないので、僕は結月の後に続くことにした。
僕が結月の後ろを着けて歩いていると、結月が何の前触れもなく、振り返ってきた。
「お兄ちゃん」
何かを思いついたような顔を浮かべて、結月は話し掛けてくる。
話と行動の一連の流れでは、何を思いついたのかがわからない。
少なくとも、下ネタ的な意味ではなさそうだ。
「どうしたのかな?」
なるべく目を逸らさないようにして、僕は普通の対応をしてみる。
絶妙な間を開けてから結月は口を開いた。
「RPGの主人公になった気分だね」
そう結月は言った。
きっと、僕が結月の後ろを歩いているから思いついたのだろう。
こういう時は金魚の糞と言うのが普遍的だと思う。
だが、現代的にことわざを言い換えるとすればRPGと例えるのも良いかもしれない。
だからと言って、結月に何と言葉を返そうかが思い浮かばない。
「いい例えだね」
振り絞って出た答えはイマイチだった。
それを聞いた結月の顔は呆れたような顔だった。
もちろん、自負していますとも。
気まずい沈黙が訪れてしまった。
「サンダル見よっか」
「そだね。見よ見よ」
呆れた様子の結月に賛同して、改めてサンダルを選ぶことにした。
サンダルを改めて探してみると、種類が多いことに驚かされる。
色々あるな、程度で売り物を見ていると結月がサンダルを二つ持ってきた。五分もかからずに探し出してくる辺り、僕の好みを完全に理解している。
「ほい、お兄ちゃん。これとこれ、どっちがいい?」
今日一日で、このやりとりを何回もしたような気がするが、僕にどっちがいいかと聞かれてもどっちがいいのかはわからない。
色も大体一緒なので、直感で選ぶことにした。
「こっちで」
「オッケ。足のサイズが合ってるか確認したいから、一回履いてみてー」
軽い流れで靴を試し履きしてみる。
スポーツサンダルと言われるサンダルを履いたことがないので、足に違和感があった。
その点さえ除けば、サイズはちょうどで歩きやすい。
「似合ってるね。じゃ、私はもう一つの方を元の場所に戻してくるよ」
そう言って結月はどこかへ行ってしまった。
サンダルを履いてみて改めて女体化した僕の足を見てみると、明らかに細くなっている。
それこそ、力を入れれば折れてしまいそうだ。
走り込んでいる結月の筋肉質な足を比べるのは間違っているのは百も承知だが、文化部でも滅多にいないくらいの足の細さだ。
これは男の性なのだろうが、どうせ女体化したのなら、少しはムッチリとした足の方がよかった。
「女の子は細い足の方が、同性受けはいいよ」
自分の足をジッと眺めていると、帰ってきた結月が微笑みながら話し掛けてきた。
「同性受けってどっちの?」
「もちろん、女の子受けだよ。下手に男子受けがいいと戻れなかったときが大変だったからよかったんじゃない?」
「一理あるな」
確かに、元男の僕が好むと言うことは、世の中の男子も好むと言うこと。
だったら女子受けする女子の方がいい。
「でもね、お兄ちゃん」
いつも通りの構文で結月は話を一度、区切ってから言葉を繋げた。
「性的な意味での女性受けは別だからね」
読んでいただき、ありがとうございます。
ブックマークや感想が増えると作者が元気になるので、よろしくお願いします。