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中毒性のあるテーマソング

 下着を購入して店から出た所で、時刻は十時に差し掛かろうとしていた。


「少し早いけど、昼ご飯にしよっか」


 自分でデートと言って気恥ずかしくなったのか、結月は少し頬を赤らめながら言った。

 独特の初々しさがあり、本当のデート感が出ている……のだろうか。経験値が足りなさすぎて、よくはわからないのが悲しい。


「そうだね。じゃあ、どこ行こうかね?」


 服屋の周りには食事ができそうなお店は、残念ながら見当たらない。

 しかしながら、結月の中では既に答えは出ているようで、話を続ける。


「二件目に行きたい店が少し遠い所にあるから、今から少しバスに乗るよ。都会の方だから、お昼はそこで食べよー」


 そう言いながら結月はバス停まで歩み始める。

 僕も遅れながら結月の後に続いた。




 バスに揺られること三十分。

 都市部の方へとやって来た。

 テレビで見る大都市圏と比べるとやはり劣っているが、これはこれで味がある。もとより日本海側に住んでいるので、太平洋側と比べることが間違っているだろう。


「都市部へ来たわけだけど、何か食べたい物でもあったのか?」

「これと言って食べたい物はないかな。お兄ちゃんはー?」

「僕もないかな」


 次に行く店は決まっているが、昼食を取る場所に関してはお互いにノープランのようだった。

 兄妹二人暮らしをしているが、外食をする機会が全くと言っていいほどないので、こう言うときに困ってしまう。


「結月が友達と行く店とかで良いんじゃないか?」


 良い考えが思いつかなかったので、結月に任せることにしてみる。

 結月は僕よりも交友関係があるので何かしら食事処を知っていそうなのだけれども。


「無難にファミレス行こっか」


 結月の方も良い案は出なかったらしい。

 お互いの交友関係の乏しさを実感し、お互いに傷の舐め合いをしながらファミレスへと向かった。




 ファミレスで早めの昼食を摂った後。

 僕と結月は次の目的地へと向かった。


 向かった、と言っても僕はどこへ行くのか全く聞いていない。

 少なくとも、徒歩で行ける距離と言うことだけは教えてくれた。


 結月の言うとおり、次の目的地へはファミレスから徒歩十分で到着した。

 全国チェーンの大型の格安雑貨屋――つまりディスカウントストアだ。

 田舎では本当に何でも揃っている唯一の店と言っても過言ではない。


 結月がデートと言っていたのにこの店に行くのは少し違和感がある。

 どちらかと言えば、この店はデートで来ると言うよりも、既に同棲を始めたカップルが夜な夜な行く店だと思う。

 前に来たときも、黒と金のジャージに可愛らしいキャラクターのサンダルを履いたヤンキーカップルが多かった店だし。


 まだ入店していないのに、耳に残る中毒性の高い音楽が聞こえてくる。

 依然として上機嫌な結月はポツリと呟く。


「この曲聴くと何か気分上がるよね」

「納得はするけど……なんでここ?」

「お兄ちゃんの服を買おうと思ってね」


 素朴な疑問を投げかけてみた。

 突然の質問だったにも関わらず、結月が直ぐに答えた辺り、最初から服を買うつもりだったのではないかとさえ感じる。


「服は買わないって言わなかったか?」

「それは聞いてたけどさぁ。折角、女の子になったんだから可愛い服とか着てみたくないの?」


 その訊き方は回答に困る。

 さっきキャミソールを合わせたときに、自分のことを少しでも可愛いじゃん、と思ってしまっただけに口ごもる。

 今ここで間を開けてしまっては、結月に痛いところを突かれる気がする。

 何としてても言葉のラリーを続けたいのだが、言葉が出ない。


「服なら結月の借りれば安上がりだし」

「私の服はブカブカじゃん」


 苦し紛れに出た言葉は即座に打ち砕かれた。

 てか、結月の服を借りると言っている次点で、女の子の格好をしたいと言っているようなものであることに今、気付いてしまい恥ずかしくなる。


「そうだ!」


 結月は何かを思いついたようだった。

 いつもなら下心のある邪な表情をしているのだが、今回は違う。


「私も着れる服を買えば文句ないよね。お兄ちゃんも私も着れる服が増えるから、これはウィンウィンの関係だよね」


 満面の笑みで結月はそう言った。

 ウィンウィンの関係と言われても、結月の方が得をしているように感じる。

 しかしまぁ、結月も着るならいいか、と思いその話を受け入れることにした。


「結月も着るならいい……かなぁ」

「もーお兄ちゃん。ツンデレなんだからぁー」

「男のツンデレは誰も得しないぞ」

「今は女の子だから萌え要素追加だね、お兄ちゃん」


 結月の方が一枚上手だった。

 いや、この場合は僕が悪かったな。

 ただでさえ、結月の流れに乗ってしまって大きいパーカーを着てしまい、萌え袖になってしまっているのだ。

 これ以上、萌え要素を足すと女体化した僕が可愛いのではないか、と勘違いしてしまいそうになる。


「安心してお兄ちゃん。今のお兄ちゃんも私にとっては、十分に私のタイプだから」


 僕が黙り込んでいると、結月が謎のフォローを入れてくる。

 僕もシスコンであるように、結月もブラコンのようだった。

 そう考えると、変に恥ずかしくなってきたので、僕はその場から逃げるように入店した。

読んでいただき、ありがとうございます。

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